一葉さんがオセロが強いわけ
人を好きで居続けることは難しいことだ。
例え、お兄様のことが大好きな一花でもそれは同じことと言えるだろう。そしてそれは僕も同じだった。
それなのに一葉さんはどうしてそんなことを僕に向かって言うのだろうか?
そもそも僕は一花のことが、好きかどうかもわからないのに……僕は一花のことが好きでいいのだろうか……。
「できたわよ」
そんなことを考えているとキッチンの方からエプロン姿の一花がカレーライスが盛られている皿を持って出てきた。うん、女子のエプロン姿はなかなか良いものだ。
「どうしたのキー君?私をマジマジ見て?裸エプロンの方が良かったかしら?」
「いや、そんなこと思ってねーよ」
僕と一葉さんはオセロを片付けて、夕食の準備を一緒に手伝う。
戸棚を見ると皿やコップなどの食器類がたくさん入っていた。歯ブラシは二人分しかないのに、食器類はたくさんあるんだなと不思議に思いながら僕はコップなどを持っていく。
そして準備を終えると「いただきます」と言って会話をしながら食べ始めた。
「一葉さんてゲームプログラマーなんですか?」
「あぁそうなんだ」
なるほど、どおりでオセロが強いはずだ。
そういえば、もらった名刺に『みかんソフトウェア』て書いてあった。何の会社、わからなかったけどゲームの会社だったのか。
「それはすごいですね。どんなゲームを作ってるんですか?」
「まぁその……あれだな……基本はギャルゲーだな……」
「何言ってるのお兄様?本当はエロゲーでしょ?」
「ちょっと一花、せっかく誤魔化そうとしてたのに」
そう言った一花に、お兄様は突っ込む。
なるほどこの人、エロゲー作ってるのか。どおりで知らない会社なわけだ。
「キー君もやってみる?面白いわよ」
「まだ十八歳になってない奴にエロゲーを勧めるな!そしてお前もまだ十八歳になってないだろ!」
「……」
「まさかの黙秘!?」
一花かがどうしてあそこまで変態なのかわかったような気がした。あれはすべてエロゲーの影響だったわけか。まぁいい、食事中にエロゲーの話したくはないので話を変えよう。
「ゲームプログラマーて大変な仕事なんじゃないんですか?」
「あぁ大変だよ。上司がいきなり無茶振りしてきたら、謎のバグが発生したりして家に帰れないなんてしょっちゅうあることだよ」
俗にデスマーチという奴だろうか。じゃあスーパーで買ったデッドブルは次のデスマーチに備えてのものかもしれないなと思った。
「昨日もようやく一週間ぶりに帰ってきたばかりなのさ」
「一週間ぶりですか?なんか、すごいですね」
「まぁでもゲームプログラマーはやりがいのある仕事だよ。買ってくれた方が喜んでくれる姿を想像するとやる気が出てくる」
「……」
普通に聞くと良いことを言っているように聞こえてるが、でも作ってるゲームがエロゲーだと思うとなんか感情移入がしにくかった。
「そういえば今、お兄様が作ってるゲームのタイトルてなんでしたっけ?」
「うん?『貧乳でも可愛ければ抜いてくれますか?』だけど?」
「……」
この兄妹、いつもこんな会話をしてるのか?どんな兄妹だよ。
カレーライスを食べ終えると一花は皿を洗う。その姿は主婦のようだった。夕食をご馳走になったので僕も皿洗い手伝おうとしたが「キー君はゆっくりしてて」とやんわりと断られてしまい、僕は仕方がなく一葉さんと会話をした。そしてしばらくして洗い終えると一花は
「キー君、駅まで送ってあげるわ」
と言うのだった。




