一花のブラコンを直したいわけ
どうして家族と暮らしいるはずなのに歯ブラシが二つしかないのだろう?
考えられる可能性は、一花は何かしらの理由で家族と一緒に暮らしていないことになる。
その何かしらの理由てなんなんだ?
そんな疑問を抱えながら僕は一葉さんのところに戻り、オセロを再開させた。
しかしこんなモヤモヤの状態で頭を働かせることができるはずもなく、僕は六十四対〇で負けた。完敗だった。
黒一色になっている盤上を見ながら一葉さんは笑顔で言う。
「楽しかったよ。うん、いい勝負だった」
「……」
どこがだよ。全然勝負になってねーじゃん。
「さぁ、俺がさっき言ったお願いなんだが……」
「えっと、やっぱり本気なんですか?でも僕と一花はまだ高校生ですよ?それに一花はともかく僕はまだ結婚できる年齢じゃないですよ?」
「あぁ知ってる。だから、このお願いは一旦保留にしようと思う」
「保留ですか?」
「あぁ保留だ。俺は君が結婚できる歳になるまで待つ」
一葉さんのその言葉に僕に約束を守らせようという強い意思が感じられた。
「どうして一葉さんは、そこまで一花と僕を結婚させようとするんですか?それにどうして僕のことをそこまで信じられるんですか?今日、初めて会ったばかりなのに」
「一花と結婚して欲しいのは、心配だからだよ」
心配?僕はその言葉に首をかしげる。
「君も一花と一緒にいってもうわかっていると思うけど、一花はブラコンだろ?」
「あぁなるほどです」
僕は思わず納得する。
一花は極度のブラコン。結婚するとしたら僕なんかよりも愛しいお兄様をきっとアイツは選ぶだろう。
「それは確かに心配ですね」
「あぁ心配さ。僕ももうそろそろで三十路になるし、結婚したいとも思ってる。だから妹のブラコンを直さなければいけないだよ」
あっこの人まだ三十超えてないんだ。顔が老けてるからそう思ってたけど、まだ三十超えてないんだ。
僕は思わず驚いてしまったが、そんな場面じゃなかった。
「それは大変そうですね」
「本当、大変だよ。夜中、寝てるといつのまにか一花が部屋に入ってきて朝起きたら一緒にベッドで寝てたりするし、パソコンの中に入ってあるお気に入りのエロ画像を勝手に消したりするし……」
「心中お察しします」
「挙げ句の果てには、一花に騙されてラブホ街を一緒に歩いたこともあったよ。とても恥ずかしかったよ」
あの噂アンタかよ!!
てか、やっぱり本当のことじゃねーか!!何が信じて欲しいだよ!!それにクラスメイトに嫌われているとか言ってたが、ただの自業自得じゃねーか!!そして何で兄妹でラブホ街を歩いてるんだよ!!本当、アイツはとんでもない変態だ!!
僕は心の中でそう叫んだ。声に出すのを必死にこらえながら。
「まぁとりあえず一葉さんの事情はわかりましたよ。でもだからって僕をそんなに信じていいんですか?」
「大丈夫さ。一花は君を選んだんだろ?だったら俺は一花が選んだ君を信じている。だからこそ約束して欲しい――」
一葉さんは言うのだった。
「君が結婚できる歳になっても一花のことがまだ好きだったら、その時は本当に一花と結婚してくれないか?」
それはまるで父親が言いそうな台詞だった。




