僕のことを一葉さんに知られたくなかったわけ
家の中は予想通りというか意外性のないつまらないものでちゃんと綺麗に掃除されて、まぁだいたいの一軒家はこんな感じだろうと感じた。
しかし他人の家に入るなんて、それもクラスメイトの女子の家に入るなんてやはりドキドキしてしまう。いや、僕は別にエロ展開を期待しているわけではないが、てか兄がいる時点でそんな展開はありえないのだが。
僕はそんなことを考えながらリビングで呆然と突っ立ていると一花が僕の右手首をいきなり掴んで兄に向かって言った。
「お兄様はここにいてください。キー君と二人きりで話したいことがあるんです」
「うん、わかった」
一葉さんはあっさりとそう頷くと「ちょっと来てキー君」と一花は強引に僕を引っ張り、とある部屋に連れてこられた。それは見た感じていうか、明らかに女の子ぽい部屋できっと一花の部屋だということを理解した。
あっいい香りがする……。
そんな変態的なことを思っていると、
「アナタ、どうしてお兄様に私たちは付き合ってるだなんてこと言ったのよ」
一花は僕のことを睨みながらそう聞いてきた。
「えっ?首振ってたのは、本当のことを言わないでほしいて言うみだったじゃないのかよ」
「どうしてそうなるのよ、違うに決まってるじゃない。私は付き合ってることを否定して欲しかったのよ」
「マジか」
「うぅ……お兄様には知られたくなかった…….」
一花は少しだけ涙目になっていた。嘘だろ?そこまでのことなのか?てかこいつ本当、ブラコンこじらせすぎだろ。
もしかしたらスーパーでたどたどしいかたのも僕のことを一葉さんにバレたくなかったからなのだろう。
「悪かったよ」
僕はとりあえず謝った。
「じゃあ僕からちゃんと本当は付き合ってないことを一葉さんに伝えるよ」
「それは多分、無理よ。お兄様は一度インプットした情報は忘れたり、上書きすることができない人なのよ」
「えっ何そのすごいけど使いづらい能力は」
それはつまり間違った情報はそう簡単に修正できないという意味だった。
「本当、アナタどうしてくれるつもりなの?」
一花は涙目で僕のことをまた睨む。
「えっと、じゃあ本当に付き合ってみる?」
「こんな時に馬鹿な冗談はやめて、殺すわよ」
目がマジだった。どうしよう僕は本当にころされるかもしれない。
「お前はどうしてそこまで一葉さんにバレたくなかったんだよ」
「私に恋人がいることを知られたら、お兄様は私にかまってくれなくなるじゃない」
「……」
なんて不純な理由なのだろうか。
僕は呆れてため息をつく。
「わかったよ。じゃあその分、僕がお前にかまってやる」
「だからこんな時に冗談はやめて――」
殺すわよ。
と彼女は言った。




