海原が海外留学にやめるわけ
「別にお前がそう思うなら行かなくってもいいんじゃないのか」
僕は海原の問いに視線を逸らしながらそう答えた。そう答えるしかなかった。
自分でもわかる。
これはただの逃げだ。逃走だ。
彼女と向き合おうとしていない。ただだだ見たくないものから目を背け逃げ続けているだけ。
でもそれわかっているのにそう答えるしかなかったのは、彼女が望んでることは普通の生活がしたいだけ、ただそれだけなのだから。
「先輩何言ってるんですか!?」
そう答えた僕にまつりちゃんは怒る。
「馬鹿なんですか!?先輩だって本当はわかってるんでしょ!?それなのにどうしてそんなこと言うなんですか!?」
「まつりちゃん。自分の価値観をあまり人に押しつけないほうがいいぜ。僕はそんなことを思ってないし、それに海外に行って欲しくないと本気で思ってるんだ」
「いや、そりゃあ先輩は海原先輩のことが好きだからそう思うのも仕方ない事かもしれませんが……」
「……えっ!?」
「……あっ」
それを聞いて海原は驚いた。
そしてまつりは固まった。
僕も固まった。
お前、なに本人の目の前でとんでもないことを言ってくれちゃってるの!?最悪だ!!最悪だ!!えっどうするのこの状況!?
「それって……」
「いや、えっとその……違うからな。えーと」
しどろもどろになる僕。
そんな僕に海原は聞いてくる。
「友達としてて好きていうことかな?」
「……あっうん。ハイ、そうです……」
……なんだろう。この感じ……まるで振られた気分だ。やっぱりそんなことを言うてことは海原が僕のことを好きだなんて間違いなのではないだろうか?
それこそ推理の振り出しに戻ってしまいそうだったが、だけどここは、こればかりは彼女の言葉に乗るしかなかった。
「僕はお前のことが友達として好きだし、それに数少ない友達だからこそ海外に行って欲しくない」
「それはあまりにも身勝手ですよ!!海原先輩の将来のことを考えたら海外留学した方がいいに決まってます!!」―
「それこそ身勝手だよまつりちゃん。自分の将来は自分が決めることだ。赤の他人が決めることじゃない。君は海原が海外留学して失敗した時、責任がとれるのかい?」
「それは……」
まつりちゃんは下を向いて黙った。
「責任なんてとれるわけないよな。所詮、他人なんだから責任なんてとれるはずないんだ」
「そんな言い方、酷いよキー君……」
「でもそれが真実だ。だからこそ海原が決めるんだ。僕たちの気持ちなんて一切考えなくっていいから決めてくれ――お前はどうしたい?」
「私は……」
海原は黙り込み悩んだ。
彼女が今になにを思っているのか、なにを考えているのかそんなことを僕にわかるはずもない。でも僕は「悩んでいるなら、一つだけアドバイスさせてくれ」と言った。そしてまるで誰かに言わされているように勝手に口が開いた。
「お前は、普通のままでいいんだ」
それを聞いて海原は口を開く。
「そうだよね……私、普通のままでいいんだよね」
そして続けて言う。
「私、やっぱり行かない」
その決心に一切の迷いはなかった。




