何も考えない。
「キー君てさ、例えば人間関係とか将来とか学業とか自分自身のこととかなんでもいいから何かに嫌気がさしたことはない?もう何もしたくないて思ったことはない?」
「あるよ。そんなのしょっちゅうさ」
僕は彼女の質問にそう答えた。
人間関係は友達ができなくって困っているし、将来なんて何をやりたいかなんて来年受験生だと言うのに何をやりたいのか決めてないし真っ暗闇だ。頭だってそれほど良いわけでもなく毎回テストで赤点をギリギリ回避できるのがやっとで、そんな人間関係は希薄で将来性もない馬鹿な自分自身に呆れるほど嫌気がさしているのは事実で、何もしないでそのままのたれ死んだ方がいいのではないだろうかと思うほどだった。
「キー君ならそう答えると思ったわ」
一花は少しだけからかうように笑いながらそう言う。僕はちょっとだけそれにムカつき「そうかよ」と言った。多分、彼女の予想通りの答えを出してしまって悔しかったのだろう。
だから僕は悔しかったので
「なんでそう思ったんだよ」
と聞いた。
「私もあるからよ」
すると彼女は端的にそう答えた。
僕はその答えに少しだけ驚く。一花の今までのイメージは気高く自分の目的のためなら手段を選ばない奴でだけど電車の中で耳を舐めてくるような変態で、そんなこと考えるだけ時間の無駄と決めつけているようにどこかで決めつけていた。
でもそれはあまりにも身勝手で一方通行な決めつけだったらしい。
「別に驚くことでもないでしょ?私だってそれぐらいあるわよ。特に小学校の頃は……」
一花は友達の話をした時と同じように、いやそれよりもっとさらに寂しそうにそう言った。多分だが、友達のことを言ってるわけではないのだろうと直感的にそう思った。
「……小学校の頃何があったんだ?」
だから僕は勇気をもって、あまりにも僕に似合わない言葉だがだけどそれでも勇気もって僕はそう聞くが、一花は少しだけ黙って「……ごめんさい」と言った。
「……今は言いたくないわ」
「いや、僕の方もごめん。なんか嫌なことを聞いたみたいで」
「気にしないで」
一花はそう言った後、寂しそうな顔をやめていつも通りの表情で練習している部員を見て言う。
「でもねキー君。どんなに嫌なことがあっても泳ぐとまるで水に洗い流されるように忘れることができるの」
「そういうものなのか?」
「えぇキー君も泳げるようになったらわかるわ――さぁ休憩は終わりにして練習を始めましょ」
「……あぁそうだな」
僕らは再びプールに入り始める。
そして一花は綺麗なフォームで泳ぎ始め、ある程度距離が離れたところで彼女は止まった。
「さぁとりあえずここまで泳いで来てみて」
僕はそんな彼女を見て今までごちゃごちゃと考え過ぎていたかもしれないと思った。だからこの時だけは、この瞬間だけは――僕は何も考えないですべて忘れ去って泳ぐのだった。




