僕が彼女の噂を知っていたわけ
いくら友達がいないぼっちでも聞き耳ぐらい立てれば、若葉一花が援助交際している噂は入ってくる。
僕がその噂を聞いたのは確か高校2年に上がったばかりの時だった。とくにやることもなかったので自分の席に座りながらスマホをいじっていると、教室にいた女子達がその噂を話していた。
「ねぇ知ってる?若葉一花さんて援助交際しているらしだって」
「えっマジで」
「本当本当。若葉一花さんが中年の男と一緒にラブホテルに入っていくところを私の友達が見たらしいだよ」
「わぁ…私、若葉さんに近づかないようにしとこ」
「うんその方がいいよ」
その時は最近の高校生は荒んでるなとしか思わなかったし(僕も高校生だろ)、若葉一花がどんな奴か知らなかった。知ろうとも思わなかった。
僕がそんな奴と関わることなんてないだろうとどこかで安心しきっていたのだろう。しかしまさか、そんな彼女と同じクラスだとは思わなかった。
そして告白されるなんて。
「――おい、俺の話聞いてるか?」
「あぁ聞いてる」
「ならいいだが。まぁとりあえずアイツと付き合うのはやめとけ。酷い目に合うぞ」
「ご忠告ありがとう。でも僕と一花は別に付き合ってないよ」
「なんだ。そうなのか?まぁでもアイツと関わるのも一様やめとけ」
「肝に銘じとくよ」
そう言って僕は一花の方を見る。アイツは相変わらず読書をしていた。そしてそんな彼女に近づこうとする奴は一人もいなかった。
援助交際。
そんな本当か嘘かわからない噂で。
一花もきっとそんな噂が流れていることぐらいは知っているだろう。だからあんな風に読書してごまかしているのだ。
誰も寄せ付けないために。
でも、だとするとここで一つの矛盾が生じる。
誰も寄せ付けないようにしているのに、どうして僕に告白してきたのか。
もし誰も寄せ付けないしているのなら、同じクラスの僕に告白なんてしないだろう。いくら友達がいない僕でもそんぐらいの噂を知っている可能性だって彼女なら考えるはずだ。
それなのになぜ僕に告白をしてきたのか?もしかして僕に助けを求めている?いや、それはないな。僕なんかに助けを求めるほど彼女は弱くない。それに僕は誰かに助けを求められて、助けるほど優しい男ではない。
若葉一花……お前は一体なにが目的なんだ?
ますます彼女のことがわからなくなっていると「なー」とチャラ男の彼も一花のことを見ていたようで聞いてきた。
「アイツいくらでやらせてもらえるのかな?」
「さぁそんなこと僕が知るかよ」
「だろうな。お前、いかにも童貞だろうし」
ぶっ飛ばしてやろうか?てかそんなこと聞いてくるてことはおそらくお前も童貞だろうが。チャラついているくせに、いやチャラついてるからこそか?
まぁそう考えるとこいつぼっちの僕に先をこされたくなくって話しかけてきたかもしれなかった。だとすればこいつなかなかのクズやろうだ。
彼の人間性をだいたい把握したとこで、昼休みの終わりをつげるチャイムが鳴った。
「まぁとりあえず忠告はしたからな」
そう言って彼は自分の席に戻った。
「…」
僕も彼に忠告しておくべきだっただろうか。
ただ周りに流されているだけの人間が正義ヅラしてるんじゃねぇ、と。