一花ぎ優しく教えるわけ
「ブクブク……ブハァ!!」
水に潜ってからわすが数秒で顔を上げてしまう。
ひさびさに入るプールはいくら温水プールが備わっていても水は冷たく、あの日ことを嫌でも思い出してしまう。
そのせいで水の中で目を開けるという行為に恐怖でできないのだった。もし仮に目を開けることができたとしても今度は呼吸が乱れてしまい溺れそうになる。
これでは全然泳げそうになかった。
「ハァハァ……あぁやっぱりダメだな」
「ちょっとだけ休憩しましょ」
一花は弱音を吐いた僕に向かってそう言った。
もっと厳しいのかと思ったが意外に優しく教えてくれる。一花はまつりちゃんに厳しく教え過ぎたせいで一年全員に怖がらしまったていってたが……いや?だからこそか?
どうやら一花は過去の失敗から学んでいるらしく、それで僕には優しく教えているみたいだった。
失敗から学ぶことはいいことだと思うが、しかし少し優し過ぎるような気がする。このまま続けても目を開けることができそうもないし、一花の言ったように確かに休憩したかったが、そんな一花の優しさに僕は甘えていいのだろうか?
ここで甘えてしまったら自分はあまりにも弱い人間のような気がした。
「いや、もう少しだけ続けさせてくれ。あと少しで開けられそうなんだ」
だから僕は無理矢理そう言う。
本当はそんな気なんてしていなかった。
「無理は禁物よ」
「大丈夫」
そして僕は息を大きく吸い込んで再び水の中に潜った。
水の中はとても静かで、まるで周りには誰もいないかのように感じる。しかしそれは僕がただ目を閉じているだけであって、すぐ近くには一花がいるのだ。
できるところを一花に見せてあげたいな。
ふと水の中でそんなことを思った。
僕はどうしようもないダメ人間だけど、例えそれでも僕は一花に良いところを見せたい。カッコいい人間でありたい。
そういえばどうして僕は一花に対してそんな感情を抱くようになっているのだろうか。
さっぱりわからなかった。
だけどそこには一切の恐怖を感じなかった。前にわからないことは怖いことだと言ったが、しかし今は不思議とそんな感情はない。むしろ嬉しかった。
嬉しくって思わず笑ってしまう。
だけどそれすらも僕にはわからなくって、知りたいと思った。
そんなことを考えていると、だんだん体内の酸素が消えて苦しくなってくる。ダメだここままだとまた目を開けることができない。
一花にいいところを見せられない。
そういえば彼女は今、どこにいるのだろうか?僕の目の前にいるのだろうか?
真っ暗でわからない。
だから僕はそれを知るためにゆっくりと目を開けた。