水がトラウマになったわけ
「お前が本当に教えてくれるのか?」
「あら?なんで嫌そうなのかしたら」
「いや、別に嫌ではないけど」
「ひょっとしてキー君は私じゃなくって海原さんに教えてもらいたかったのかしら?」
「だから違うってば」
「本当にそうかしら?」
一花は少しだけ不機嫌そうに疑いの目でそう言う。
こんなこと言うのはこれから泳ぎ方を教えてくれる一花に失礼なので言わないが、確かにその通りだった。
僕は海原に本当は教えてもらいたかった。
なんて言うと少し誤解されそうだが、それは何度も言っているように海原と一花を友達同士にするために必要なことだからだ。
「そういえば海原はまだ来ていないんだな」
「海原さんは金槌先生に呼び出されたわよ」
「昨日も呼び出されてなかったか?」
「まぁきっとあの件のことでしょうね」
あの件?そういえば昨日まつりちゃんが同じことを言っていたような気がする。あの件て一体なんのことだ?
僕はそのことを聞こうと思ったが
「そういえばキー君て泳げるの?」
と一花にそんな質問をされてしまう。
「えーと、全然泳げない」
僕は少しだけ考えてからそう言う。
そういえば海原に協力することばかり考えて、自分はまったく泳げなかったことを僕はすっかり失念していた。
「へーそうなの」
「あぁ中学校の頃、覆面集団に誘拐されてことがあってそいつらに真冬の海に投げ捨てられ殺されそうになったことがあるんだよ。それ以来、水がトラウマで泳げなくなってね」
「そんな過去を平然と語られてもどう反応すればいいのか困るわ……えっそれ本当なの?」
「あぁ本当さ。姉貴、今はフリーターだけど昔刑事をやっていてね。たまに姉貴に逆恨みした奴が僕のところに来るんだよ。姉貴のせいで僕は何回殺されそうになったことか」
「……」
さすがの一花も唖然していた。まぁ普通はそう言う反応するよな。
「本当に大丈夫?水に入って平気なの?パニックになったりしない?」
「水に入るぐらいは平気。てか水に入れなかったらお風呂なんて入れないだろ。ダメなことがあるとしたら、水の中で目を開けるのは難しいかもしれないけど」
「ダメだったらすぐに言いなさいよ。命に関わることだから」
「わかったて」
らしくもなく一花は真剣に僕のことを心配していた。普段は下ネタばっかり言ってくるくせに。だから僕は冗談で言うのだった。
「もし僕が溺れるようなことがあったら、お前が人工呼吸してくれよ」
すると一花は、
「人が本気で心配しているのにそんな冗談言わないで」
と怒り気味でそう言った。
なるほど、一花は水泳になると意外に真面目な奴なんだなと僕は思った。




