まつりちゃんが断るわけ
「どうして私が先輩に協力しないといけないんですか?」
「いやそんなこと言わずにさ頼むよ」
「いーやーでーす」
頑なに断るまつりちゃん。しかし一花と海原の後輩である彼女に協力してもらわないと僕一人だけではとても二人を仲良くさせるなんて不可能だ。
「まつりちゃんも海原が一花と仲良くなりたがってるて知ってるだろ?それに君は海原にかなりお世話になっているはずだ。だから後輩として協力してあげた方がいいんじゃのか?」
「確かに先輩の言う通り海原先輩にはかなりお世話になってますし、アタシもそうしたいのは山々ですが……」
雛村は考え込む。
きっと一花のことを考えているのだろう。もしも海原に協力したら、一花にどんな仕打ちをされるのか――まつりちゃんは考えているのかもしれない。
「うーん、先輩はどうして海原先輩に協力しようとするんですか?」
「それは……」
電車の中で胸を揉んでしまったからとは言えなかった。
僕は返答に困っているとその様子を見た雛村は聞いてくる。
「もしかして先輩、海原先輩ことが好きなんですか?」
「ぐぅ……」
「えっ?図星ですか?マジっすか!?先輩、本当に海原先輩のことが好きなんですか!!無理ですよ。先輩みたいな冴えない人が海原先輩と付き合えるわけないじゃないですか」
「そんなこと言わないでくれよ」
自分でもわかりきっていることで、諦めたことなんだからさ。
「てか先輩、若葉さんに付き合ってほしいて迫られているんですよね?それなのに先輩は海原先輩と付き合いたいて思っているんですか?わぁ!この人最低だ!!」
「いや、今はもう海原と付き合いたいって思ってないってば。本当に」
「でもまだ未練があるから先輩は一花先輩と付き合うのを躊躇しているんでしょ?」
「うーん……」
それを聞かれて僕は考える。
どうだろうか?僕はやっぱり海原にまだ未練があるから海原と付き合うことに躊躇しているのだろうか?恐らくそうかもしれなかったし、違うのかもしれない。本当のところは自分でもわからなかった。
だから僕はその質問にとりあえず答える。
「多分、そんなことはないと思う」
「多分ですか。煮え切らないですね。まぁでも先輩が例え海原先輩のことが好きだったとしても、それはやっぱり叶わぬ恋ですよ――だって海原は現在好きな人がいるんですから」
「それって……」
「気になりますか?気になっちゃいますか?先輩」
ニヤニヤしながら言うまつりちゃんに向かって僕は恐る恐る「誰だ?」とその人物について聞く。
海原に協力することばかり考えてすっかりそのことを忘れていたが、本当に海原は僕のことが好きなのか僕はそれを確かめなければいけないのだった。
「先輩もお好きな人ですね」
「いいから話してくれ」
もしもこれで他の人物の名前が出てくれば、姉貴が朝に披露した推理は全て間違いということになる。
僕はまつりちゃんがなんて答えるのか待っているとまつりちゃんはなぜか悩み始めた。
そして言う。
「うーん、私も先輩の叶わぬ恋心にトドメをさしてあげたいのですけど」
「なんて酷い理由だ。でどうしたんだよ」
「それがいまいち思い出せないですよねー。名前が普通過ぎてどうやら忘れちゃったみたいです」
その瞬間、僕は背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
その人物に僕は一人だけここあたりがあった。名前が普通過ぎてみんなから忘れられてしまう人物なんてこの地球上で一人しかいないだろう。
「そういえば名前で思い出しました――」
そう言った雛村は性懲りもなく聞いてくる。
「先輩の名前て何でしたっけ?」
――残り四日。