彼女がセックスしたいと言ってきたわけ
一週間。
それが若葉一花と付き合う答えを出すまでのタイムリミット。
お互いのことをよく知らないのに、それはいくらなんでも短すぎると言えるだろう。じゃあなぜ、そんな提案を一花はしてきたとかというときっと僕に考える時間を与えさせないためだった。
どんなバカでも考える時間さえあれば、それなりの答えを導き出せるということなのだろう。
そして、一花と付き合うとセックスができるなんて最上級のメリットを提示することで彼女はさらに僕の考える幅を狭めたと言える。
若葉一花、想定以上に策士である。
しかしただ一つだけは言わせてもらうと、セックスしたいて理由で女子と付き合うなんてそこまで僕は童貞をこじらせていないからな。でもそれもある意味、童貞をこじらせていると言えた。
お昼を食べ終え教室に戻ると教室はやたらといつもよりもざわざわしていたが、そんなことはたいして気にもせず僕らは先ほど何事もなかったかのように自分の席に座る。
本当に何事も無かったかのように。
「私は君とセックスしたいと思っているわ」
一切の恥じらいもなく、無表情でそう言った一花。
きっと彼女はそんなことは思っていないだろう。僕を考える余裕を与えないための中身のない台詞。
もしか僕がその言葉を本気にして、付き合うって言ったら果たして彼女はどうしていたのだろうか。きっと彼女なら、あんな噂がある彼女なら――
そこまで思考して、やめる。あまりにも馬鹿馬鹿しい妄想ごとすぎて。
そんなことどっちでももいいし、どうでもいいことだろ。
僕は一花が座っている席になんとなく目をやると、一花は机の横にあるフックかかってあるスクールバックから、小説を取り出して読み始めた。一体なんの小説を読んでいるのだろうかと少しだけ気になったが、僕の席からだと彼女の背中しか見えなかった。でもおそらく彼女との会話から推測するにラノベを読んでいるのかもしれない。
そう思いながら僕はいつものように友達がいなくっても平気ですよとクラスのみんなにアピールするために寝たふりをする。
ただ目を閉じたまま次の授業が始まるまでずっと待つのは辛いのでどうでもいいことを考える。
あーそういえば最近、全然ラノベを読んでないな。今度、なにか買ってみようかな。そうだ一花にオススメのラノベを聞いてみるのもいいかもしれない。
と考えていると
「おい起きろよ」
と声をかけられる。
目を開けると目の前には金髪のチャラついた男が立っていた。僕の苦手なタイプの人間だ。この教室にいるということはきっとクラスメイトなのだろうけど、はて?名前はなんだったか?
まぁ別にいっか?とりあえず僕の眠りを(本当は寝ていないが)を妨げて理由を聞こう。
「なんだよ」
「なぁなぁお前、あの若葉一花と付き合ってるのか?勇気あるなお前。アイツあんな噂があるのに」
「あんな噂?」
僕はその噂を知っていたが、なぜか知らないフリをしてしまい聞いてしまった。
「なんだ知らねぇーのかよ。だったら親切心で俺様が教えてやるよ。アイツ、色んな奴と援助交際しているらしいぜ」