昔、海原に振られたわけ
中学の頃、『密告ゲーム』というと遊びが流行った。
ルールは実にシンプルで、まずチャットアプリで参加者を集めてグループを作り、進行役つまりゲームマスターをくじ引きで一人決める。
そしてゲームマスター以外の参加者達は自分が知っている他の参加者達が秘密にしている情報をゲームマスターだけに密告をし、ゲームマスターはそのグループチャットに『密告者が出ました』と書き込み、教えてもらったその情報を参加者みんなに教える。この時、その情報を教えた密告者が一体誰なのかゲームマスターは絶対に言ってはいけない。
ゲームの勝敗は一日以上経っても密告者が出てこなかったら参加者全員の勝ち。もし密告者が現れた場合はその密告者が一体誰なのか見つけ出せれば密告者以外の参加者が勝ちで、見つけられなかった場合は密告者だけの勝利になってしまう。
参加者を信じて何もしないでおくか、それとも密告者になって参加者を裏切るのか?仮に密告者になるとしてどんな情報をバラすべきか?そんな駆け引きがこのゲームの醍醐味だ。
僕はこのゲームを中学の頃クラスメイト全員でやった。
そして僕は密告者にバラされたのだった。
僕が隠していた秘密を。
僕が海原のことを好きだということを。
クラスメイト全員にバラされた。
その後の展開はとても早かったような気がする。
僕はクラスメイトに囃し立てられて、告白じみたことを強制的にやらされた。その時、僕がどんなことを言ったのかまったく覚えていないが、「ごめんなさい。今は付き合うことができないの」と海原にそう言われて振られたことだけは覚えている。そしてクラスメイトのみんなは僕が振られたところを見て笑っていたことも僕はハッキリ覚えていた。例え海原がそのことを忘れていたとしても僕は忘れることなんてできない。できるはずもない。きっと僕はこのことを永遠に覚えているだろう。
僕はこうして失恋したが、だけどクラスメイトのことやその情報を教えた密告者のことを恨んでいるかと聞かれたら不思議なことにそんなことはなかった。本当に海原のことが好きだったのか曖昧なままだったし、例え好きだったとしてもそれが絶対に叶わぬ恋だとわかりきっていたからだろう。海原は成績優秀で全国水泳大会で優勝している有名人、僕なんかが告白しても断られるのは当然のことだった。
だから彼らのことは恨んでいない。
でも睨みはなくとも後悔はしている。
あんな状況じゃなくってもっと普通に自分の意思で告白したかった。例えそれでもやっぱりダメだったりしても僕は後悔なんてきっとしなかっただろう。
そう今でも思う。




