姉貴が海原は僕のことが好きだと言うわけ
「いや、姉貴。それはいくらなんでもありえないだろ」
「どうしてそう言い切れるんだい?」
「えーと、それは……」
中学の頃一度振られたことがあるからです。とはとても言えなかったし、僕自身もあの時のことは思い出したくはないことだった。
だから僕はごまかそうとする。
「ほら、姉貴だって知っているだろう?海原は全国水泳大会で優勝したことがある有名人だってことはさ。そんな奴が僕のことなんか好きになるわけないだろ?」
「まあアンタの言い分もわからなくもない。だけど弟よ、不思議には思わないか?」
「不思議?」
そう復唱すると姉貴は言うのだった。
「どうしてそんなすごい子があんな底辺の学校にいるのか?」
「それは……」
それは確かにそうだった。
今自分が通っている学校のことを底辺と呼んではいけないことなのだろうけど、あんなクソみたいな場所に海原みたいな子がいるのはおかしなことだった。海原の成績ならもっと上の高校に行けたはずだし、水泳大会で優勝しているのでスポーツ推薦はきっとあったはずだ。
「それなにどうして陽森高校なんかに……」
「アンタがいるからだよ」
「……そういうことなのか?」
あっさりと言った姉貴に僕は驚いた表情で返す。
ここで話が繋がってくると言うわけか。
姉貴がさっき言っていたように海原は僕のことが好きだから。だからこそ陽森高校を選んだ。もしそうだとすれば一人の天才を殺してしまったようで罪悪感に押しつぶされそうだった。
「あまりにも話が飛躍し過ぎてる。まだこれは推測だろ?」
「まあそうだね。でもそう考えると若葉ちゃんが告白してきたのも辻褄が合いそうな気がしないかい?」
「……」
「そう若葉ちゃんは海原ちゃんからアンタを奪うためだけに告白してきたのさ」
そのことを一花が知っていたとすれば、海原を嫌っている一花ならばその恋を潰そうして僕に告白してきたと考えると思わず納得してしまいそうになる自分がそこにはいた。
そういえば今考えると、一昨日プールで僕と海原を合わせたのは僕と一花が仲がいいところを海原に見せつけたかっただけではないだろうか。一週間というタイムリミットを設けそして無関係のはずの海原にそこを教えたのは、まだ付き合っていないという淡い希望を持たせることで一花は海原を絶望も淵に叩きつけようとしているのではないだろうか。
あくまでこれらは推測。仮説。証言も証拠も何もない。
でもそんな理由で一花が告白してきたとすれば、そんなのまるでただの悪役じゃないか。
「そう落胆するな弟よ」
「……」
落胆?僕は今落胆してるのか?
姉貴にそう言われたがわからなかった。もし落胆しているというのなら一体僕は何に落胆しているというのだろうか。一花がそんなくだらない理由で僕に告白してきたからか?だとすれば僕はどんな理由でアイツに告白してほしかったんだよ。
僕は自分に苛立っていたるのを感じた。
「なあ姉貴。まだそうだと決まったわけじゃないんだよな」
「ああもしかしたら間違っているかもしれない。海原ちゃんが本当にアンタのことを好きなのかわからないままだし」
「だとすればこれから僕は何をすればいい?」
「おっ!乗ってきたね弟よ。じゃあ私が正しい推理するために海原ちゃんについて調べてほしいーー」
ーー私はこうして椅子に座りながら待っているからさ。
と姉貴は言うのだった。