彼女がお昼を一緒に食べようと誘ってきたわけ
僕は現在、一花に連れられ体育館裏に来ていた。
女子に体育館裏に呼び出されるなんて、まるで今から告白されるようなシチュエーションだったが当然そんなことはなく、(それに告白は昨日されたばかりだ)どうやらここでお昼を食べるみたいだった。
ここは人気がないので、教室と違って人の視線を気にせず一人で落ち着いてお昼を食べることができそうなだった。こんなところがあるとは一年以上この学校に通っているのにまったく知らなかった。
「よく、こんなところ知ってたな」
「そう?私は毎日、一人でここに来て食べてるわよ」
「一人で……」
「そう、一人でよ」
「……」
「何か問題でもあるかしら?キー君」
「イヤ、ベツ二ナニモモンダハアリマセンヨ。イチカサン」
昨日あんなことがあったので朝から一花の様子を見ていて、なんとなく察してはいたが。こいつ、どうやら僕と同じで友達がいないらしい。
授業の合間にある休憩時間はずっと自分の席で本を読んでいるだけだった。まぁ僕も人のこと言えないけど。自分の席でスマホをいじったり、寝たふりをしてたけど。
「ほら、早く食べましょ。キー君」
「そうだな」
ちなみにキー君と言うのは僕のことだ。
先程、僕の名前を教えてあげたら「ありふれた名前でつまらないわね」と言われてしまい。『キー君』なんて珍妙なあだ名をつけられてしまった。
本当は断りたかったが、『キリト』や『キョン君』などの候補をあげられてしまっては了承するしかなかないだろう。
僕はコンビニ袋から鮭おにぎりを取り出し、一花は巾着袋から女子には少し大きめのお弁当を取り出した。蓋をあけるとなかなか栄養バランスが良さそうな中身だった。
へーこれが女子のお弁当。
「ジロジロみてそんなに女子のお弁当が珍しいかしら?」
「まぁそうだな」
「でもこれ量が多くないか?」
「私、水泳部に入ってるから栄養をちゃんと摂取しないとすぐにバテちゃうのよ」
「ふーん、なるほど」
「実はこれ自分で作ったのよ」
「それはすごいな」
「嘘よ。本当はママが作ってくれたわ」
「なぜそんな嘘を?」
よく、わからない嘘をつく奴だな。
それは昨日の告白も同様のことが言えた。彼女は僕のことなんか好きでもなんでもないことが、僕の名前を覚えていない時点ですぐに嘘だということがわかる。
じゃあなぜそんな嘘をつく必要があるのか?
よく女子がモテない男子にやる嘘告白というものがあるのだが、しかし今回の場合はその考えは除外していいだろう。
仮にあれが嘘告白だったりしたら昨日彼女と友達になった時点で種明かしされているだろうし、友達がいない彼女がそんなこと一人でやることはないだろう。誰かに命令されて僕に告白してきたと可能性も当然あるが、あの若葉一花が誰かに命令されてこんなことをするとは思えなかった。
だから彼女には何かしらの目的があって、そのために僕に告白してきたと今のところはとりあえずそう考えるべきだろう。なに、心配することはなにもない考える時間はいくらでもある。
「そういえばキー君はいつもコンビニで買ったものを食べてるわよね」
「まぁそうだけど?」
「それだと栄養が偏ってしまうわよ。今度、ママに頼んでキー君の分も作ってもらいましょうか?」
「そこは普通、一花が作るべきなんじゃないのか?」
「あら、キー君は私が作ったお弁当がそんなに食べたいの?そこまで言うなら仕方がないわね。明日、作ってあげるわ」
「……」
そんなこと一言も言ってないのだが?まぁいっか。
「一花が良ければ、よろしく頼むよ」
「ええ任せなさい」
それからお互い話すことがなくなり無言のままお昼を食べる。うーん気まずい。女子と一緒に食べるお昼、僕は思わず浮かれていて気づかなかったが彼女との共通の話題がなかった。
一花もそれを感じたのか「そうそう」と不自然に話を切り出した。いや、本当はこれこそが本題だった。彼女は今までタイミングをうかがっていたのだのだろう。こんな不自然なタイミングになってしまったのは彼女が人との会話に慣れていなかったからだ。でもだからこそ僕は気づかなかった。
彼女の狙いに。
「私がお昼に誘ったのは、一人で寂しく食べる君が惨めだったからて理由だけじゃないのよ」
「さりげなく僕が傷つくこと言うよな。でなんだよ?」
「私は一応、君と恋人同士になりたいと思っているの」
「ああ知ってるよ」
「友達だけじゃ私は嫌。男女の友情なんて私は信じてないの。なんなら私は君とセックスしたいと思ってるわ」
「セッ、セックス!?お前、いきなりなに言ってるんだ!?」
「あら、君はしたくないの?私とセックス」
「そ、それは…」
取り乱す童貞の僕。
いや、やれるもんならやってみたいが。でもちょっと待ってくれ、昨日告白されたばかりだぞ?いくらなんでも展開が早すぎる心の準備ができてないぞ!
そんな僕の想いはお構いなしに彼女は食べ終えたお弁当の蓋を閉めて言うのだった。
「だからタイムリミットをつけることにしたわ」
「タ、タイムリミット?」
「タイムリミットは一週間。それまでに私と付き合うのか答えを出して」
こうして僕の考える時間に制限がついた。