姉貴が僕の部屋に来るわけ
「おはよう!!愛しい弟よ!!」
「痛たたたたた!!ギブ!!ギブギブ!!」
毎朝、僕がまるで死んでいるかのように気持ちよく寝ているとまるで泥棒のように静かに部屋に入ってきて、そして毛布をいきなり剥ぎ取りプロレス技の一つである四の字固めで起こしに来る奴がいる。それは家ではいつもキャミソールとショートパンツという二十歳過ぎた大人とは思えないだらしない格好していて、もともとは刑事だったが訳あってやめてしまい現在はいろんなアルバイトを転々としているフリーターの女性ーーそう、つまり僕の姉だった。
「姉貴、マジでギブ!!起きるから!!」
僕は折れてしまいそうな足の痛みに耐えながら必死にそう叫ぶ。すると姉貴は「ハハハ」と人を馬鹿にしたような笑い方をしながらゆっくり四の字固めを解いた。
「相変わらず情けないな弟よ」
「姉貴はなんで毎朝、僕のことを起こしに来るんだよ」
「そりゃもちろん私の可愛い弟が遅刻しないように起こしてるんだよ」
「違う。アンタはただ僕を暇つぶしにイジメて楽しんでるだけだろ」
「まあもちろん、それもある」
そして高らかに笑う。
全くこれだから姉貴は苦手だ。特に自由すぎるところが、見えない拘束に縛られている不自由な僕と違ってとても嫌になる。それは羨ましいという感情に似ているのだろう。あるいは嫉妬か。
そんなこと思いながら僕はベッドから起き上がり、現在の時刻を確認する。本来起きようとしていた予定時刻よりも三十分早かった。まだ少しだけ眠れそうな気がした。
「さあ、制服に着替えから部屋から出ててくれ」
「そんなこと言ってアンタ、二度寝するつもり満々だろ」
「チッ、バレたか」
「血の繋がっている姉の、そして元刑事である私の目を騙せると思ったら大間違いだよ。弟の趣味嗜好はなんでもお見通しさ。最近、競泳水着を着ている女子校生のAVを見ていることももちろん知っている」
「アンタ、僕のスマホを中を勝手に見たな!!」
姉貴にそんなことを知られるなんて最悪だ!!
「まあまあそう怒るなよ弟よ。姉もの一切見ないのは姉として少し残念だけど、競泳水着なんて普通に健全でいい趣味をしてると思うぜ?弟のことだからロリっ子のものばかり見てるかと思ったよ」
「僕がいくら年下好きだからと言って勝手にロリコンにしないでくれ!てかパスワードかけてたはずなのにどうやって見たんだよ」
「さあ制服に着替えるのは後にして朝ごはんにしよう。私がせっかく作った朝ごはんが冷めちまう」
「露骨に話しを変えるな!!」
しかし、これ以上姉貴とこんな話しをしたくなかったので、姉がどうやって僕のスマホの中身を見たのか謎のままになってしまうが話しを変えることにした。
僕は深いため息をして姉に聞く。
「姉貴が朝飯を作るなんて珍しいな」
両親は仕事で忙しく僕達が起きる頃にはいつもいない。なので朝飯を作るのが面倒臭い姉貴は毎朝僕にプロレス技をかけ起こしては朝ごはんを作らされるのだが、こうして姉が面倒臭がらずに朝ごはんをしかも僕の分まで作ったくれたことはかなり珍しかった。
珍し過ぎて何か裏があるのではないかと疑わずにはいられない。
「そう警戒するなよ。ただ私は毎日、頑張っている弟のために朝ごはんを作っただけじゃないか」
「本当にそうだといいんだけどな」
「全く少しぐらいは家族を信じて欲しいものだね。まあでも仕方ない。可愛い弟に一つだけ聞きたいことがあったんだよ」
「なんだよ聞きたいことって」
すると姉貴の目つきは刑事のように鋭くなり言うのだった。
「アンタ最近面白いことに巻き込まれてるんじゃないの?」
一花から告白されてから四日目の朝。今まで僕は姉貴だけにはバレないようにしてきたが、しかしどうやら元刑事の目はやはりそう簡単に騙せないらしかった。