彼女がお弁当を作れなかったわけ
彼女にお弁当を作ってもらうなんて全男子の憧れの一つであり、そんなことが叶うなんて僕はかなりの幸せ者なのかもしれなかったが、しかし正直なところ不安というものがあった。
こう言ったラブコメのマンガやラノベだとヒロインが実は料理が下手でしたという展開は王道中の王道。昨日、一花が持ってきたお弁当は栄養バランスが整っていて美味しそうだったがあれは母親が作ったものであって一花の料理の腕はまだ未知数なのだ。
母親の料理の腕を一花が遺伝していればいいのだが、こればかりは才能や遺伝の問題ではなく経験の問題だった。
僕は例え不味かったとしても全部食べきるという覚悟を決めてお弁当箱の蓋をあけるとそれはどこにでもありそうな普通の唐揚げ弁当だった。
「えーと、いただきます」
「いただいてちょうだい」
僕は唐揚げを一口食べる。
普通に美味かった。なんか知っている味で親しみやすいそんな感じで、噛んでるとあの特徴的なBGMが脳裏で流れくる。
まさかなと思い僕は一花に聞く。
「なぁこれ、コンビニにある唐揚げ弁当をそのまま移し替えただけじゃないのか?」
「あら、バレた?」
「バレた?じゃねぇーよ!」
少し楽しみにしてたのに!!まさか本当にコンビニの弁当だったなんて!!ショック!!
「何よ、キー君は唐揚げ弁当よりもバターチキンカレーの方が良かったていうの?」
「確かに美味しいけど結構好きだけど、でもそれバックの中でぐちゃぐちゃになってるだろ」
「いいじゃない。混ぜる手間が省けるわよ」
「僕は混ぜないで綺麗に食べるのが好きなんだ。て、なんの話し知ってるんだよ僕たちは」
「ファミマの弁当は美味しいていう話をしてるんでしょ?」
「違う。そんな話はしてなかった」
僕は深いため息をつき、猛烈にガッカリしているもそれを見た一花が「ごめんなさいね」と言う。
「家を出る直前でキー君の分を作り忘れていることに気づいたわ。もう一人分作ってる余裕なんてなかったし、まぁキー君のことだから別にバレないかなと思ったのだけれど」
「正直に言えばなんでも許されると思うなよ?」
さすがに僕でも気づく。だってファミマ好きだもん。
「必死になってコンビニのお弁当を空の弁当箱に移し替えてるのを周りの人に見られるのは恥ずかしかったわ。一体これはなんの羞恥プレイなのかと思ったわよ」
僕はコンビニでその作業をやっている一花の姿を想像するとなかなかシュールな絵面だった。
「明日はちゃんと作ってくるわ。嫌いな食べ物とかあるかしら?ふんだんに入れてきてあげるわ」
「なんの嫌がらせだよ。だとしたら絶対に言わねぇーよ」
「キー君の嫌いな食べ物はブロッコリーかしら?」
「なぜバレた!?」
「だって残そうとしてるじゃない」
お弁当の中身がもうブロッコリーだけになっていることに気づく。
「残すのはダメよてお母さんに言われなかったかしら?」
「マヨネーズとかあったら別なんだけどね。茹でただけなのは苦手なんだよ」
「ジー」
「ジーて言いながらジーと見つめるなよ。わかったわかったから食べるって」
僕はブロッコリーを口に入れる。うぅまずい。
そしてお昼が終わり、嫌な満腹感のまま午後の授業を受け放課後になったが一花はいつものように水泳部、僕はバイトがあるのでその日は別れた。
海原と友達になったり、あのチャラ男に絡まれたりしたが、しかし一花との進展は特になかった。
――残り五日。