チャラ男が一花のことを聞いてくるわけ
彼が言う「どこまでヤッた」とは、つまりそれはセックスのことでありそれ以外の意味は持たないだろう。そして僕は一花に女子トイレに連れてこられたり電車の中で耳を舐められてたことはあったが、残念なことに僕はまだ童貞だった。
しかし、僕はチャラ男にそう聞かれて
「ご想像に任せるよ」
なぜか強がった。
その瞬間、僕の腹部に猛烈な衝撃が走る。僕は思わず「ぐはぁ!!」と言うまるで口から何かが吐き出そうな声を上げ、腹を抱えながらその場に両膝をついた。
あー最悪だ。トイレの床に膝をつくなんて……ズボン洗わないと……。
そんな流暢なことを思いながら、どうやら僕はチャラ男に腹を殴られたことを認識する。あまりにも突然のことだったのでまったく避けれなかった。
「イッテテテ……いきなり殴ることはないだろ。わかった……わかったから、正直に言うよ。僕と一花は君らが思っているような関係にはなってないから」
「いやそんなことは端っからわかっていことだったさ」
「……だったらなんで聞いたんだよ」
そしたらズボンだって汚れずに済んだのに。
「悪い悪い。お前みたいな奴、ついついからかいたくなってよ」
どこか乾いた笑みを浮かべながらそう言うと、周りにいた彼の仲間もつられて笑みを浮かべた。
どうやら僕はこのチャラ男について僕は大きな勘違いをしていたらしい。僕は昨日、彼のことをただの正義面を人間だと言ってしまったが彼の場合はそれよりももっと達が悪く、彼は自分自身がルールだと思っているみたいだった。
ルールそれはつまり王様あるいは神。
世界は自分を中心に回っていると思っている。
だからこそ僕は彼のルールに逆らった報いとして殴られたわけだ。
彼の行動は一花と違ってわかりやすくって助かる。
チャラ男は僕の髪を掴みながら言う。
「俺が本当に聞きたいことは、俺の忠告を無視したのはどういうことなのかってことさ」
なるほど、あれは一花に近づくなという意味だったのか。
「別に無視したわけじゃない。僕はただ授業でわからないことがあったから、頭のいいアイツに聞いていただけさ。ほら、ご覧の通り僕は友達のいないぼっちだからアイツ以外話せる奴がいないだよ」
そう言って苦笑いする。すると彼らは大爆笑した。
自虐もいいところだった。僕はそこまでして彼らに殴られたくないのか?情けなさすぎるだろ僕。
「いや、お前面白い奴だなー」
「……お前はどうしてそこまで一花にこだわるんだ?ひょっとして一花のことが好きなのか?」
それはさすがに踏み込み過ぎた質問だったかと思う。
しかし彼は飄々とあっさり言う。
「んなわけあるかよ。ただ体目的だよ。ほらアイツ、スタイルがいいだろ?」
あまりにもクズ過ぎる返答に、僕の胸の中にドス黒ものが溜まっているように感じた。
昨日までの自分ならそんなことを言われてもこんな気持ちにはならなかっただろう。
「援助交際をしてるらしいし、簡単にヤらせてくれると思ったんだけどな。誘っても全然、ヤらせてくれねぇの」
「……」
僕は何も言わずに黙る。自分の感情を殺すのに精一杯だった。
チャラ男をはそんなのお構いなしに話しを続ける。
「その原因が一花の奴お前に惚れてるからかと思ったんだけどよ。でもそれはどう考えてもありえねぇ話しなんだよな。お前みたいな陰キャに惚れる要素なんてどこにもねぇーし、アイツからもお前に惚れている様子なんて見えない。だとすればお前、アイツにいいように利用されているだけじゃないのか?」
「……」
「ふん、だんまりか。まあいい、そろそろ休み時間も終わるし最後に一つだけ頼み聞いてくれよ」
「……頼み?命令の間違いじゃねーか?それ」
「頼みだよ頼み。俺は人に命令するのは嫌いなんだ。で、その頼みて言うのは、まあきっと無理だとは思うが、もしもアイツを落とせるようなことがあったらーー俺達にも一回やらせろ」
命令形でそう言って、そして「じゃあな」と彼らはトイレから出て行った。
トイレに一人に取り残された僕は、ポケットからスマホを取り出す。
そして先ほど念のために録っといた録音を止めた。
「……」
これをインターネットに上げればきっと大問題になるだろう。今の時代、こんなもんがネットに上がればすぐに拡散され炎上し、彼らの名前や学校名、住所などすべて調べられ彼らの人生は終わるだろ。だけど本当にそれでいいのだろうか。
殴られたのに殴り返さないでバカにされても何も言い返さなくって、何もしないでアイツらにやられっぱなしされているだけ。
そんな今の自分は、トイレの床に座り込んでいる自分はあまりにもかっこ悪すぎた。
それでもしもそんなことしたら僕はただの卑怯者でしかなくなってしまう。昔のような卑怯者に。
これ以上僕は僕自身に幻滅したくはない。
だから僕は録音データを消した。
僕はスマホを片手で握り締めながら先ほどのチャラ男の言葉を思い出す。
お前はあの女に利用されているだけじゃないのか?
「わかってるんだよ。そんなことぐらい……」
そう一人で呟いた。
そしてチャイムがなった。