海原が一花を探すわけ。
一花はおそらく反対側の出口から遠回りして学校に行くつもりなのだろう。だから僕達は線路沿いを歩いて駅から一番近い踏切に先回りし待ち伏せしていた。
僕は彼女が来るのを待ちながら聞く。
「そういえばどうして海原は一花を探しているんだ?」
「えーと少し言いづらいだけど……私、一花ちゃんに嫌われてるみたいなんだよね」
「うん、まぁそうだな」
それは昨日の一花の様子でなんとなくわかっていた。てか、そうとしか思えなかった。あんな露骨に嫌いアピールする奴はなかなかいないだろう。
人間というものは基本、建前を使う生き物だ。
それが全然できてないアイツはなかなかレアだ。SSRだ。
「でそれがどうかしたのか?」
「私、別に全人類に好かれたいなんて大それたことは思ってないよ。そんなもん誰にだって不可能だろうし。でもね一花ちゃんは同じ水泳部だし、それにいつも一人で寂しそうにいるし、だからどうしても仲良くなりたいて思っているの」
「なるほど。それで一緒に登校しようと一花を探しているわけか」
「うん、そう」
彼女は頷く。
「でも毎回一花ちゃんには逃げられちゃってね。一回川岸まで追い詰めたのに、川の上を走って逃げられたことまであったよ」
「エリマキトカゲかよ!!」
アイツ、人間じゃねぇ!!
「アハハハごめんごめん。冗談だよ。そんな人いるわけないじゃん。そんな人がいたら百メートル自由形で優勝しちゃうよその人」
「なんだ。冗談かよ」
いや、案外彼女なら水の上なんて走れそうな気がした。
「でも逃げられちゃうのは本当のことだよ。お昼だって一緒に食べようと教室に行ったらいつもいないの」
そういえば一花はお昼になるといつもいなかったような気がする。クラスメイトとの関わり合いが全然ない僕がそんなことを覚えているのは変な話だが、でもアイツならおそらく海原から逃げようとするだろう。
そして、そのための人が来ない体育館裏。
あれは彼女の身を隠すための隠れ家なのだろう。
一花はいったいいつからあそこでお昼を一人で食べていたのだろうか?彼女は毎回と言っていたが、いったいいつから。
僕は聞く。
「いったいいつからそんなことをしてるんだ?」
「入学式の時からずっとだよ」
つまりそれは一年以上経っていると言うことだった。
マジか。いやもう、アイツいいかげんに海原と仲良くしてやれよ。どんだけ嫌いなんだ。そして、そこまで嫌われていても彼女と仲良くしようとするなんて海原はなかなか良い奴であった。若干ストーカーではないだろうかと思うが、しかし良いことではあると思うので
「アイツ、お昼はいつも体育館裏にいるぞ」
と教えてあげた。ほんとんど一花への嫌がらせだった。
海原は「えっそうなの?」と驚いた表情でこちらを見る。
「どうしてそんなこと知ってるの?クラスメイトの人に聞いても知らなかったのに」
「昨日、一緒にお昼を食べたからな」
「あーそうだったね。キー君と一花て一応今は友達同士なんだっけ?」
「まぁそうだな」
少なくともこの一週は友達という関係だった。じゃあ、答えをそれを過ぎたらどうなるのだろうか?それはまだ誰にもわからないことだった。
「いいな。私も一花ちゃんと一緒に食べたい。一花ちゃんと友達になれたキー君が羨ましいよ」
「僕はそんなことを思っている人がいる一花が羨ましいよ」
「うん?……えっ?キー君友達いないの?」
「ぐぅ……」
あまりにも直球すぎる質問に心が痛む。
「まぁ………いない……けど、さ……」
「でも中学の時に仲の良かった友達とかは?」
「いたけど、知らないうちに連絡がつかなくなってた」
「本当に?そんなことてあるの?」
あるんだよそれが。正直、僕自身かなり驚いてる。いや、まぁ別にいいんだけどね。彼らだって高校生活忙しいだろうし。でもなー……アドレスが変わるなら教えてくれてもいいのではないだろうか?
僕は少し落ち込んでいると突然、海原に手を握られた。
そして真剣な眼差しで言う。
「じゃあキー君、私と友達になってよ」
「ト、モ、ダ、チ?」
「うん、友達」
えーと友達、友達てなんだっけ?最近、聞いたことのようなあるような言葉だけど、でもあれは友達とはあまりにも違うと思う。えーと、あっそうだ。友達、それは一緒に遊んだりたわいもないこと喋ったりする人のことだ。英語にするとフレンド。
一年以上もそんな存在いなかったから友達の意味、忘れてたぜ。て、友達?僕と海原が友達?マジで?
「嫌かな?」
子犬のような人で僕を見る海原。
「お前はいいのか?」
「うん、もちろんだよ」
「えーと、じゃあよろしくお願いします」
「うんよろしくねキー君」
まるで太陽のような笑顔で微笑む。
やった!あの海原と友達になれた!!
例えそれが憐れみだったとしても、友達がいない僕にとっては嬉しいことだった。
なんて思っているとどこかで「ぐぬぅ……」という声が聞こえた。声がした方を見ると踏切の向こう側で恨めしいそうな目でこちらを見ている一花がいたのだった。