彼女が僕にイタズラするわけ
ドアが開いたら一花がいたなんてまるで彼女が僕をストーカーでもしてるのではないかと疑ってしまいそうな不気味さがあったが、さすがに僕がどのドアから電車に乗るのかわからないかぎりそんなことは到底不可能だろう。
あまりにも奇跡的すぎる出会いだった。
しかし奇跡的なんてロマンチックな言葉を使ったところで僕にとっては奇跡でもなんでもなくってこの場合はあまり好ましくもなかった。不運とも言えた。
「……」
「……」
電車が駅から発車してもお互い無言のままだった。
昨日はなんともいえない感じで帰ってしまったのでこうして予期しなかったところで会うと気まずさしかない。これなら教室で普通に会ってた方がまだ会話も出来てだだろう。
しかも会った場所は満員電車。人が一切の隙間もなく密集しているこんな場所で正しい態勢なんか取れるはずもなく、僕は完全に一花に背を向けている状態だった。そして彼女の胸は完全に僕の背中に当たっていた。
これでどうやって会話をしろと言うのだろうか。
「ねぇキー君?」
一花がそう聞いてくる。
彼女から口を開いてくれるとは助かる。
「なんだ?」
「満員電車っていやらしくない?」
「お前、いきなりなに言ってるの?」
マジで。
「ほら考えても見なさいよ。男女かまわず狭い車内に密集しているのよ?そんな状況で何かが起こらないわけがない。もしかしたら今もこの車内で何かが行われている可能性だってありえるわ」
「ありえねぇーよ」
「でもそんなことを想像すると楽しくならない?私、満員電車好きだわ」
「知らねぇーよ」
さきほど満員電車は憂鬱な気分が充満していて満員電車を好きになるような奴はいないなんて話をしたが一人の例外、いや変態によってそのロジックはあっさりと崩壊した。
なんて思っていると「ふふ」と笑い声が一花の聞こえた。
「どうしたんだよ」
「いえ、ただ単にこんな近いとイタズラのしがいがありそうねと思っただけよ。ちょとだけやってみようかしら?」
「おいおい、なにをするつもりだ」
「ふふ……まずはキー君の耳に息を吹きかけてみたりして、フー」
「おいやめろ!!……ッ!!」
彼女の吐息によって身体中がいっきにゾワッとする。
手で口を抑え声を出すのを必死に耐える。
「そうそう声は出しちゃダメよ。フー」
「ぐぅ……」
「あら、以外に耐えるのね。すごいすごい……。じゃあ、次はキー君の耳をパクリと」
「……!!」
右耳に生暖かい感触がいきなり伝わった。
マジでか!?マジでコイツ、僕の耳を食べやがった!!ヤバい……これは……耳を食べ、れているのに、気持ちいいだと!?ここのままだと本当にヤバい!!
しだいに僕の右耳は彼女の唾液によって濡れてきて、そして顔を近づけているため彼女の鼻息がかかり意識が遠のきそうな感覚に襲われる。
僕は出来るだけ周りの人に気づかれないように声を出す。
「お、おい誰かに気がつかれたらどうするんだよ!!」
「痴漢プレイしてみるみたいで楽しいわね」
「みたいじゃなくって完全にしてるだろこれ。あと、痴漢プレイは普通逆なんじゃないのか?彼氏が彼女にするもんじゃないのか?」
てかそもそも彼氏彼女なんて関係ではないけど。友達すらも怪しいところだった。
「そう言うのならキー君から今度は何かしてきなさいよ」
「誰がするか!!」
「しなさいよ。つまらない男ね。それだからキー君は未来永劫童貞なのよ」
「勝手に決めつけてるんじゃねぇ!!」
明らかに僕に何かをさせるために挑発してきてた。
「僕はそんな挑発にのらないからな!!」
「むー…そんなことを言うのなら仕方ないわね。パクリ」
耳に伝わるさきほど全く同じ感覚。しかし今度はただ食べているだけではなく、舌まで使ってきやがった。
いやらしい音が聞こえる。
さきほどよりも数倍気持ちいい。
「耳がふやけるぐらいまでやってあげましょうか」
そう言って一花は「ふふ」と笑う。
く、くそ……コイツ楽しんだやがる。ここまど本当にヤバい。だったら僕だってもうやってやる。僕だってやられっぱなしで終わるような男ではないのだ。
胸を揉んでやろうと脳裏によぎった。
しかしだ、と僕はそこでとたんに冷静になる。どんな時でも、それがたとえ女の子に耳を食べられている状態だったしても冷静を忘れてはいけない。
だから僕は冷静に考える。
こんな彼女に背を向けた状態でどうやって胸を揉めと言うのだ?
それは当然の疑問だった。
後ろを振り返るどころか腕を上げることさえ困難だと言うのに、高い位置にある胸を揉みしだくなんて体が柔らかい人間にしかできたいだろう。
だとすれば仕方がないので触る場所を変えるしかなかった。
僕が彼女に背を向けた状態で手が届く範囲があるとすれば、尻は彼女が僕と同じ方向をはずなのでダメ。スカート中はさすがにまだそこまでの勇気は僕にはないからダメ。 そう冷静に考えると残った場所は一つだけしかなかった。
そう彼女の太ももだった。
ムチムチ感がたまらない太もも。
それらな一花に背を向けた状態でも十分、届く場所だった。
そうと決まればすぐに行動する僕。
じゃあ…い、いくぞ……さわるぞ!!本当に、やるぞ!!
緊張する童貞の僕。呼吸が荒くなるのを感じる。
本当に電車の中でこんなことやっていいのかという倫理観が寸前で僕の動きを止める。しかし、このままだと一花に耳と同様に舐められるだけだった。
彼女の太ももを触ろうと震えながら手を後ろに伸ばす。
触る!!触る!!触る!!一花の太ももを!!
その時、電車が急になぜか止まった。
一体なにが起こったのかわからなかった。人身事故でも起こったのではないかと一瞬思ったが、しかしそんなこと現実でなかなか起こるはずもなくただ単に駅に着いただけだった。
「あら残念ね。もっとキー君にイタズラしたかったのに」
そう残念そうに言って電車から降りる一花。
たしかに、僕も少しだけ残念な気持ちになった。