僕が年下好きなわけ。
僕はおそらく後輩であろう女の子が泳いでいたところをただなんとなく見ていただけで、なんのやましいことは一つもない。そう、やましいこいことなんて。
だけど僕は一花に睨まれて、
「え?なんのこと?」
完全に目が泳いでいた。
プールで目を泳がせるなんてあまりにも寒い洒落で余裕あるじゃないかと思われてしまいそうだが、そんことは全然なかった。
「ぼ、僕はただみんなの練習風景を見ていただけださ」
言い訳がましいかもしれないけど本当のこと。
だけど疑いをぬぐいきれない一花は先ほど僕が向いて方向に視線をやる。そこには先ほど僕が見ていた女の子がまだ練習していた。
それを見た一花は、なぜかホッとした後に聞いてくる。
「ふーん、キー君てああいう子がタイプなのね」
「ちょっと待て、僕がいくら年下好きの奴だからって勝手に決めつけるのは良くないぞ」
「へー、キー君て年下好きなの?」
自ら墓穴を掘ってしまった。
中学生の時からずっとそのことを隠し通してきたのに、まさかこんなところで自分の好きなタイプがバレるとはおもってもみなかった。
これは、恥ずかしい。ベットの下に隠していたエロ本を母親に見つかったのと同じぐらい恥ずかしかった。
「別に恥ずかしがらなくってもいいわよ。私だってブラコンだけど、そんなのバレても全然恥ずかしくないわよ」
「羞恥心が欠如しているお前と一緒にするな」
お前はもっと隠せ。お前がブラコンだってことを僕は知りたくない。
「でもどうしてキー君はあの子が後輩だってことがわかったの?水泳部に来るのは初めてよね?」
「彼女を見てなんとなくそう思っただけだよ」
できないなりに一生懸命頑張ろうとしている姿がまさに部活に入部したての一年というように感じた。
ああいうを見ると考えてしまう。
僕も入学当時、ああいう風に頑張れたら少しは変わっていたのだろうか。でも結局、僕はどのルートを選んだところで同じ結果が待っているような気がした。
頑張ることなんて無駄。
まるで誰かにそう言われているよう感覚。
だからあいいう風に人が頑張っている姿を見ると、こんな僕でも応援したくなってしまうのだった。
僕は練習している女の子を見ていると一花また聞いてくる。
「年下のどこがいいのかしら。ブラコンの私にはわからないわ」
「多分、お前と逆なんだと思う。僕には三つ年上で現在フリーターの姉貴がいるんだけどさ、大っ嫌いなんだよね」
「あら、兄弟が仲悪いなんていけないことね。私のようにもっと兄弟仲良くしないよ」
「お前がどこまで兄と仲良いのか知らないけど、まぁ安心しろ。僕が一方的に嫌っているだけだよ。姉貴僕のことを嫌っているわけじゃないと思う。毎日に僕の部屋に来ては僕のことをおもちゃにして遊んでくるし」
それがとてもうざい。
だから僕は姉貴が嫌いだった。
「あら?いいお姉さんじゃない。私のお兄さまは全然私の部屋に来てくれないから、いつも私がお兄さまの部屋に行ってるわ」
「……多分だけど君の兄貴、お前のこと鬱陶しいと思っているぞ。あまり兄貴の部屋に行ってやるな」
なんか通じるものがありそうな気がした。
ぜひ今度会って話してみたい。
「あら、キー君もお兄さまと同じことを言うのね。夜這いしに部屋にくるなって」
「お前、そんなことしてるの!?」
「えっ兄弟なら普通のことじゃないの?」
「普通のことじゃあねぇーよ!!」
普通って文字を辞書で調べろ!!
こいつの変態性は今日散々見せられたが、この日一番の驚きだった。
「キー君のお姉さんもやってるのかと」
「いくら姉貴でもそんなことはやらねぇーよ。だとしたらもっと嫌いになってるわ。まあとりあえず、僕は姉貴がいる反動で年下の女の子に憧れがあるんだよ」
僕はそれてしまった話を強引に戻す。
「ふーん、そういうものかしらね」
あまり納得はできてないようだった。でも別に納得してくれなくっても結構だった。てかどうして僕は一花こんな話をしているのだろうか?
本当、一花はわけのわからない奴である。
僕は一花に視線を向ける。一花は練習している女の子を見て小声で何か言うのだった。
「あの子がもし仮にキー君のことを好きになっても……あの子にはそんな勇気はないか……いや、そもそもそんな可能性自体……」
「うん?なんか言ったか?」
「キー君なんかがあの子と付き合うのなんて無理よと言ったのよ」
はっきり言われてしまった。
これは少し落ち込む。まぁわかっていたことだけども。
「まぁでも一応あの子の名前を教えてあげる」
「えっ?」
どうして一花が、親切に彼女の名前を教えてくれるのか真意がわからず驚く僕。そんなことはお構いなし彼女は言うのだった。
「あの子の名前は雛村まつり。泳げるようになりたいからって理由で水泳部に入ってきたわ」