プロローグ
久しぶりの投稿。
若葉 一花はただの《クラスメイト》である。
親しい友人がいない僕にとって、彼女はただそれだけの認識でしかない。
こうしてギリギリ彼女の名前が出てきたことさえ、クラスメイトの名前をほとんど覚えていない僕にとっては奇跡だと言えるだろう。それはあまりにも酷い記憶力かもしれないが、しかしクラスメイトも僕の名前なんて覚えていないのでお互いさまである。
さすが友達のいないボッチ。
我ながら感心する。
さてそんな僕がどうして奇跡的に彼女のことを覚えていたのかというと、それは一週間前のことだった。
「ねぇ君。好きな人いる?」
休み時間、友達のいない僕はいつものように自分の席でラノベを読んでいると黒髪の少女からいきなりなんの前置きもなくそんな突拍子もない質問をされた。
「いや、いないけど」
「だろうね」
「……」
明らかに馬鹿にしていた。
僕はそれが少し頭にきて、やや強めの口調で「それがどうかしたか?」と聞くと「いや、ただ聞いてみただけ」とその黒髪の少女はそう言って自分の席に戻ってしまった。
どうして彼女は、そんな質問をしてきたのかわからなかったがその時はただ単純にいつも一人でいる僕のことをからかっているだけなのだろうとそう思った。
その後僕は彼女があの若葉一花だということを知るのだが、もう二度と彼女と話すことはないだろうと思っていたのですぐに彼女のことなんて忘れるだろうと思っていた。
しかし、くしくもこれがクラスメイトと交わした初めての会話だったため印象に残っていた。
そして現在――
「実は君のことが好きなの…だから私と付き合って」
なぜか僕は、あの若葉に告白されていた。
どうしてこんなことになっているのか、わからなかったが誰もいない放課後の教室に呼び出された時点で僕は気づくべきだったのかもしれない。
そして逃げるべきだったかもしれない。
まぁ、今さら後悔したって仕方がないだろう。
僕はとりあえず若葉に気になっていることを聞く。
「えっと、僕なんかのどこを見て好きになったんだよ?自慢じゃないけど、僕は友達のいないぼっちで、スクールカーストだと低辺にいるのような奴だぜ?」
「人を好きになるのに理由なんで必要?」
いや、必要だろ。
明らかにたぶらかしているのが見え見えだった。
「私は君が良いから、君と付き合いたいの」
彼女の目は決意に満ちていたが、しかしそれは好きな人に告白するような決意ではなくもっと別の何かだった。少なくとも若葉は僕のことなんか好きではないことが明白だと言える。彼女にそんな感情は一ミリも感じ取れない。
でもそれを出来るだけ悟らせないように彼女は胸が当たりそうなほど僕に詰め寄ってくる。気がつくと僕は教室の壁際まで追い詰められていた。
「で、どうする?私と付き合う?」
「ちょ、ちょっと待って。一回離れてくれ」
「どうして?」
そう言ってまた一歩近づいて、とうとう彼女の胸が僕の体に当たった。制服越しでも彼女の胸の柔らさかが伝わる。そして香水でもつけているのだろうか、さきほどからとてもいい匂いがする。
あーやばい、彼女にどんどん追い詰められいるのを感じる。
そんな僕を見て彼女は不敵に笑った後、言うのだった。
「友達がいない君がいきなり女子と付き合うのが怖いなら、別に友達からでもいいけれど」
それはまるであらかじめ用意されていたかのような逃げ道だったが、極限まで追い詰められいる僕とっては地獄に垂らされた蜘蛛の糸と同じようなものだった。
だからこそ僕は思わず答えてしまう。
「えっと……それじゃあ友達からよろしくお願いします……」
こうして僕に初めての友達ができた。