戦いの国へ
戦いの国アレス。
住民のほとんどが武術系のギフトを授かっていて、武術こそが正義と言う風潮がまかり通っている国。
その中でも首都アレスは世界各地から腕に自信のあるものが武者修行に訪れる武の聖地だ。
気性の荒い人間の集まる場所のため治安が悪いと言われることも多いのだが、意外とそんなこともないらしい。
何か揉め事があった時は、正式に立会人を立てて勝負をし、勝利したものが意見を通すことができる。
そのため、最低でも武術の中級クラスのギフトを持っていないとめちゃくちゃカモられるとか。
ーーーー
「首都まで後どれくらいかかりそうですか?」
村を出てから5日。
2度ほど馬車を乗り換え、首都アレスへの直通バスに僕は乗っていた。
そこそこ大きな乗合馬車で、乗客は10人ほど。
運賃は安いので、馬車には護衛はいない。
現在馬車は森の中の木々の合間の小道を通っている。
「そうさねえ……何事もなけりゃあ、あと2、3日ってとこかなあ」
先程から話していて少し仲良くなった御者さんが教えてくれる。
この人は首都アレスでの注意すべき点などを優しく教えてくれた。
「あんたも首都に行くのかい?その若さでずいぶんな自信だねえ。まだ10才にもなってないだろうに」
「僕はもう11才です!!」
乗り合わせた女が馴れ馴れしい態度で話しかけてくる。
細身だが、僕よりも身長が高い。
赤髪に赤目。その整った顔には不敵な表情を浮かべている。
……それにしても失礼な人だなあ、全く。
僕の身長は女の子のニーナにも大きく差をつけられるほど小柄で、顔も童顔のため、子供扱いされることが多い。
実戦では小さい方が小回りもきくし、相手の攻撃も避けやすいから不満はないけれど、やっぱり大柄の戦士のような男には憧れるなあ。
そんなことを思っていると、違う男も話に入ってきた。
金髪蒼眼。僕よりも5才くらい年上だろうか。
ニコニコと人当たりのいい表情をしている。
「なあなあ、そこの小柄な君は、11才で武の聖地に行くんだろ?相当に強いギフトを授かったの?」
「こら、よそ様のギフトを詮索するのはマナー違反だからやめなって」
様子を見る限りこの女と男は連れのようだ。
「そんな固いこと言うなっての。なああんた、ショートソード二本をぶら下げてるところを見ると、剣士だろ?あんたのギフトは剣術中級くらい?」
その男は女の制止も聞かずにグイグイと聞いてくる。
「いや、僕は剣術スキルは授かってないですよ。それどころか、主神様からひとつもギフトを授かることができませんでした。でも、それでも簡単に逃げ帰ることなんてできません」
別に隠すことでもないので正直に言うと、その男と女は目を見合わせて気まずそうに苦笑いする。
「あははあ……なああんた、悪いことは言わないから早く自分ちに帰りなよ。この馬車は首都アレスまで直通だから、アレスに着いたらすぐに引き返しな」
……純粋な優しさが逆にツラい。
「道中の魔物なら心配しなくていいぜ!俺とこの女と男と、そこに座っている無愛想な大男はみんなそれぞれ上級ギフトを授かっているから安心してくれ」
「はあ、すごいですね……。それでは困った時はよろしくお願いします」
しかし3人とも上級ギフトとは普通にすごいなあ。
ニーナに挑戦してきた人たちにもほとんどいなかったし、天才中の天才だろう。
そのまま3人でしばらく雑談していると、
「…………おい、あれ」
御者が苦い顔をして前方を指差す。
「お、オークだあっ!!20体以上いるぞ!!
前方の20メートルほどの木々の後ろからのしのしとオークの集団が現れる。
まずいなあの数は。
ところどころハイオークも混じってるし。
しかしやはりこの乗合馬車に乗っている乗客のほとんどが武者修行に来ているため、みんなそれなりの実力を持っているようだ。
僕以外の全員が武器を持ち、オークの群れに突進して行く。
その中でも先ほど僕と話していた馴れ馴れしい二人とその仲間の大男は明らかに実力が突出しているだろう。
飄々とした態度をとってはいるが、纏っているオーラが他の人間達とは一線を画している。
「せいやっ!!」
「はあああぁ!!」
先頭を走る乗客達がオークと接触し、戦いが始まった。