旅に出るよ
目を覚ます。
起きようとしても全身が痛くて起き上がれないや。
「ううぅ。イテテ」
「あ!!エドウィンが起きた!!死んじゃうかと思ったああ〜……」
ベッドの上で横になっている僕に覆いかぶさるように、ニーナが思いっきり抱きついてくる。
「あいてて……ニーナぁ、締め付けすぎないで……ホントに死んじゃうよ」
「エドウィン!エドウィン!!」
完璧に取り乱したニーナは僕の言うことを聞いてくれない。
僕は天井を見上げ、
「はぁぁぁっっ、やっぱり敗けたかあ」
そうつぶやくのだった。
ーーーーーー
10分後。
騒ぎを聞いて駆けつけた僕の両親によって暴れているニーナが正気を取り戻し、僕の部屋は落ち着く。
僕は3日も寝込んでいたらしい。
散々取り乱したニーナは顔を真っ赤にして俯いている。
「いやあーしっかし、エドウィンが無事でいてくれて、お父さんは嬉しいよ!」
「二人で力を合わせて回復魔法をかけ続けたかいがあったわね!」
僕の両親は二人とも“魔術上級”ギフトを授かっている、天才魔術師夫婦だ。
そんな両親から生まれた僕も当然、周囲からは優れたギフトを期待された。
村の人間は僕がギフト無しだったことに大きく落胆したが、両親は変わらずの愛を捧げてくれている。
ちょっとうっとうしい時もあるけどね。
「……ほんとに死んじゃったかと思ったんだから」
顔を赤くしたニーナがぼそりとつぶやく。
「殺しかけた張本人に言われても……ニーナ、全く手加減してくれなかったじゃん」
「…………手加減なんてして欲しかったの?」
「…………そんなことされたら、僕は一生君を恨む」
赤くなっていたニーナは、楽しそうにニヤリと笑いかけてくる。
「じゃあエドウィンは、これからどうするの?」
「旅に、出ようと思うんだ」
すんなりと言葉が出て、その後に認識した。
そうか、旅に出よう。
「ええええええ?お父さんそんなこと聞いてないよ!!」
「お願いだからそんなこと言わないでちょうだい!エドウィンは主神様からギフトをもらえなかったんだし、旅なんかしたら死んじゃうかもしれないじゃないの!!」
「お父さん、お母さん、エドウィンはとても強いし、そう簡単に死んだりしないよ。私が思うに、エドウィンは剣術なら極めたと言っても過言じゃないよ」
そう、確かに僕は剣術を極めた。人間の身で到達できる限界に達したのだろう。
しかしニーナには勝てなかった。
勝てる気もしなかった。
エクストラギフト“剣神”。
あれは神の領域だ。人間の身で剣の神に剣術で敵う道理はない。
このままではダメだ。
それ以外の道でのアプローチを試してみたい。
「うん。僕は旅に出るよ。そうだな、戦いの国アレスにでも武者修行に行くかな」
「私は応援するよ。エドウィンはもっともっと強くなれる。そしていつか必ずーーーー」
その後に続く言葉は言ってくれなかった。
……父さんと母さんはあまりのショックに固まっていた。
余談だが、全力で止めてきた両親と試合をし、コテンパンに倒すことで認めてもらった。
両親は剣術初級のギフトも授かっているので僕の実力の片鱗が見えたようだ。