そして
ーーーー長かった。
ーーーー憧れに近づくために、僕は努力を続けた。
砂塵が吹き荒れる中、風を切り裂き、ニーナは突貫してくる。
ニーナの木刀の腹を打ち払い、受け流す。つもりが、
激突した二つの木刀は、少しも拮抗することがなく、
「ッッ!!」
僕は巨大な質量に衝突したかのように、大きく弾かれ壁に激突する。
なんつー馬鹿力だってんだ!!
確かに受け流したはずなのに!!
「まだまだこんなんじゃ終わらないよ!」
白銀の弾丸と化したニーナに、僕の認識が追いつかない。
「くうッーーーー!!」
五感で追いつけない分を、今までの打ちのめされ続けた経験を活かして必死に食らいついていく。
神速の剣技をいなし、受け流し、それでも着実にダメージを受け続ける。
……高すぎる。
やはり僕の全身全霊を賭してもなお、高すぎる壁。
このままではジリ貧だ。
受けてばかりでは勝てないッ!!
「《疾風迅雷》ィィッッ!!!!」
ーーギフト“剣術上級”アクティブスキル《疾風迅雷》。
神に選ばれたごく一部の人間にしか扱えない力。
激しい修行の末に身につけた、僕の扱える最高速。
天才中の天才のみが扱える上級ギフト専用の移動系スキルを発動させる。
雷の如き速さで移動し続け、ニーナを切りつける。
刹那の攻防。
数百、数千の剣戟が繰り広げられる。
恐らくは歴史に残る一戦。
惜しむらくは、観測者がいないこと。
……やはり。
漆黒の雷に、やはり当然のように反応してのける白銀の剣士。
「ふふふっ。本当に強くなったね。それじゃあ……」
ーーーーもう一段階加速するね。
限界まで感覚が研ぎ澄まされ、繰り広げられる神速の斬り合い。
わずかな油断も許されない刹那の攻防。
しかし確かにハッキリと聞こえたその声に。
僕の認識は追いつかなかった。
ーー体が宙に舞う。
横一閃の剣技に弾かれた僕は、しかし戦意を失わない!!
「あああああああッッ!!!《百花繚乱》!!!!」
追撃をしかけてくるニーナに対して無数の斬撃を放つ!!
その全てを的確に受け切られるが、それでも僕は、
押し切るッッ!!!!
「《鬼纏》!!《修羅の舞》!!」
今までの修行では成功しなかった、上級スキルの同時発動。
数万にも渡る僕の斬撃が少しずつニーナのガードを押し切り、ニーナの木刀を大きく弾く!!
ーーーーここしかないッッ!!!!
「《限界突破》!!《乾坤一擲》!!」
ガラ空きになったニーナの胴体に、渾身の突きを放つ!!
ーーーー完璧に決まった!!
ニーナの体に僕の木刀が触れるその瞬間。
「《神憑き》」
時間が止まった。
限界まで研ぎ澄まされた僕の感覚が、何もかもがスローになったように感じる、その世界の中で。
ニーナだけが普段通りのスピードで。
片手で持った木刀を振り下ろした。
直後。
「ーーーーーーかはッッッッ」
致命的な一撃を受け、僕の体は大きく吹き飛ばされ、道場の壁を突き破る。
…………ああ、僕敗けたんだ。
朦朧とする意識の中、最後に感じたことは。
確かな敗北の味だった。