進化
数瞬。
僕を罵倒しようとしていた門下生が、何が起こったのかわからずに固まり、目を数回パチクリさせた。
直後ーー
「カハハハハァーー!!!!……笑わせんなよ無能が。今なんつったァ?もっペン言ってみろッ!」
門下生が肩に木刀を乗せ、僕に近づいてくる。
《一閃》
「ニーナを倒しにきたんだよ。もう聞こえていないだろうけど」
何をされたのかわからないまま、脳天への強い衝撃を受けて門下生が崩れ落ちてゆく。
木刀を構え、ゆったりと門の中をくぐり、道場へ入る。
途端に僕を中心とした円状に、門下生が囲んできた。
……全部で30人くらいか。
「ああ、誰かと思えばエドウィンじゃないか。どうしたいきなり。言葉の意味がわかっていないわけでもあるまい」
「ええ、先生。ほんとは不必要に力を誇示するような真似はしたくないんですが、彼女に自分を倒せと言われてしまったので」
ーーーー広い道場の隅にいる、正座をしている銀髪の少女に目線を向ける。
「ほう、本気のようだな。どれ、そこの門下生達相手に実力を見せてみろ 」
先生が言い切るのと同時に門下生達がジリジリ近づいてきた。
「能無しが一丁前に木刀を持ち歩くんじゃねえ!俺様が直々にぶちのめしてやる」
大柄な男が僕に近づいてくる。
確かこの人は、この道場で先生の次に強い人だったかな。
僕が小柄なことも相まって、その体躯は僕の倍ほどもある。
他の門下生達は僕の逃げ場をなくすように円を縮める。
だが、もとより逃げるつもりはーーーーない!
次の瞬間。
大柄な男は僕の目の前まで距離を詰めた。
剣術中級ギフト、アクティブスキル《縮地》だ。
目にも留まらぬスピードで移動するスキル。当然僕の目でも追えない。だがーーーー
「予備動作が大きすぎ。そんなんじゃ格下相手でしか通じないですよ」
相手の筋肉の弛緩、目線運び、そして《縮地》のスキルの、固有で発生する空間の揺らぎ。
それらを全て総合して大男の移動先を予測。当たりをつけ、
ーーーー《一閃》。
僕のスキルは寸分の狂いも無く、大男の脳天に直撃する。
「ガアッッッーーーー」
意識を失った大男が背中から崩れ落ちる。
「…………今のはなんだ!?縮地の移動先を……!?」
「いや、それも驚きだが、そんなことよりも……!」
「ああ!!あの無能、今確かにスキルを使ったよな!!」
「アイツ、分不相応にもニーナさんに訓練を付けてもらっていたのは知っていたが……」
ざわつく門下生達。
張り詰めていた空気が緩んだ隙を僕は逃さない。
《縮地》《なぎ払い》。
移動系スキル、攻撃スキルを交互に連続発動させ、一人当たりに一太刀で門下生を倒していく。
目まぐるしく動く視界と浮遊感に少しだけ不快感を覚える。
……が、そんなの気にもならない!
そうして最後の一人を倒して一呼吸付くと、先生が声を投げかけてくる。
「……ほう。そこまでの強さか。一応聞いておくが、君は本当にギフトを授かってはいないんだな?」
「はい。僕は正真正銘のいわゆる“無能”です。
残念ながら主神様からはギフトを授かれなかったので、強くなるためにいっぱい努力をしました……」
「軽く言ってくれるが、ギフトなしでその強さ、そしておそらく、前例のないギフトの恩恵無しでのアクティブスキルの使用。血のにじむ努力をしたはずだ。ここの門下生にも見習わせたいな」
「そんなたいそうなものでもないですよ。ただ、目標があるのでそこに向かって努力しただけです」
「目標か……。もしかしなくても、そこのアイツのことなんだろうな。しかしわかっているのか?ヤツはーー」
先生が何を言おうとしているかはわかる。だが、
「関係ありません。僕は絶対に彼女に打ち負かしてみせます。そして…………。だから他の誰にも負けるわけにはいかないんです」
「……男、だな。だが俺もそう簡単に、負けるわけにもいかないんでッッーーーーな!!!」
言い終わる前に《縮地》で距離を詰め、切りかかってくる先生。
先ほどの大男とは違い、限りなく抑えられた予備動作。だが、
「甘いですッッよォ!!!!!!」
奇襲にも近いその攻撃を木刀で受け、鍔迫り合いをする。
パッシブスキルの恩恵を受けた先生の力はとてつもなく強い。
僕を力でねじ伏せようと体重をこめ、押し込んでくる。
「アクティブスキルを使えるのには驚いた。だがな、パッシブスキルの恩恵なしでの純粋な力比べは辛かろう」
強引に押し込んでいく先生。
僕はジリジリと後ろに下がらされる。
「確かに先生は強いですね。さっきの門下生達とは比べ物にならないな。でも」
ーーーー足りない。
「んなっ!?!?」
下半身に大きく力を込め、先生の勢いを止め、押し返す。
ーーーー僕が目指している、あの子の領域には、何もかもが圧倒的に足りない。
「悪いですけど先生、超えさせてもらいます」
力任せに大ぶりで先生の木刀を弾き飛ばし、ガラ空きになった胴体に、
「《なぎ払い》」
僕の一撃をモロに受けた先生は、大きく吹き飛ばされて壁に強く打ち付けられ、気絶する。
そして、
「…………強くなったね。エドウィン」
道場の隅で正座し瞑想していたニーナが、置いてある木刀を手に取りゆっくりと立ち上がる。
「こうして対峙するのは何回目だろうね。ニーナが鍛えてくれたおかげで、僕もそこそこは実力をつけれたよ。これまでの全ては、君を倒すため」
「確かにエドウィンの成長ぶりには私も驚かされてばっかりだよ。でも、今まで一回でも私に勝てたことあったかな?」
「今日がその1回目になるんだよ。いくよっ!!」