スキルを使いたい!
自然な風の香りと、優しく照りつける日差し。
肌で感じる全てが僕の心を落ち着かせた。
眠い。
ずっとこのまま眠っていたい。
ふと、髪を撫でられた。細くて柔らかい指だ。
耳に当たる指が少しこそばゆくて、しかし心地いい。
「お母さん?」
その人は僕のつぶやきにピクリ反応し、静かに笑い出す。
「エドウィン、起こしちゃったかな?ごめんね?」
聞き覚えのあるその声を受けて、僕は重いまぶたを開く。
にっこりと笑う銀髪の少女、ニーナと目が合う。
「ーーーーう」
「う?」
僕の声に反応するニーナがとてつもなくかわいいが、それどころではない。
「うわああああああああああああああああ!!!!」
慌てて飛び起きてニーナから距離を取る。
「ごめんごめんごめんごめん……」
「ふふっ。いいよ。わたしが膝枕したかっただけだから」
自分の頰が急激に熱くなっていくのを感じる。
「と、とにかく修行の続きをしよう!!」
恥ずかしさを紛らわすために僕はそう言うしかなかった。
ーーーーーー
ニーナがエクストラギフト“剣神”を授かってから5年、 午前中はニーナの道場を見学して、午後はふたりで修行をすることが日課になっている。
“剣神”様直々のお稽古だ。
「うーん、やっぱスキルを使えたら便利だよなあ」
スキル。
ギフトを授かった人間が、そのギフトの階級によって使うことのできる技能のこと。
スキルは大きく二種類に分けられる。
一つが常時発動のパッシブスキル。
例えば剣術初級なら剣術が得意な状態を常に維持し続け、中級、上級と上がるにつれてその効果も上がる。
ゆえに、剣術初級を授かったばかりの子供でも、十分に訓練された大人を倒すことができる。
もう一つが任意発動のアクティブスキル。
これはギフトの階級により覚える種類が変わり、さらに本人の努力なしでは獲得することができない。
エクストラギフトを授かったニーナは、戦闘系のスキルは全てが扱えるらしい。
「言おうと思ってたんだけどさ、たぶんエドウィンはアクティブスキルを使えるよ」
「ホント?!?!剣神様が言うなら間違いないとは思うけど、僕をからかったりしてない?」
「いや、うーん、なんて言うかね。うーーーん、とりあえず実践してみよっか!見本見せるから頑張って模倣してよ」
「うん?ま、まあわかったけど……」
「じゃあいくね」
ニーナはそう言ってゆったりと木刀を上段に構え、
「ーーーー《一閃》!!」
雷の如く。
凄まじい速さで、しかし寸分のブレもなく振り下ろした。
轟音と衝撃波が遅れて僕のもとやって来る。
「…………。ニーナの一閃が凄まじいことはわかった。でも僕はそんなに早く綺麗に振り下ろしはできないよ。それに一閃は剣術中級のアクティブスキルじゃないか」
「いいからわたしを信じて。模倣して見せて」
「わ、わかったよ」
言われるがままに、僕は上段に木刀を構えた。
ーーニーナは“剣神”だ。
この世の誰よりも戦闘能力に秀でている。
理解が深いゆえ、人に教える能力も限りなく高い。
そんなニーナができるって言うんだ。
ーー集中しろ。僕ならできる。
「ハアアアアッーー!!!!《一閃》ッ!!!」