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エクストラギフト“剣神”

 翌日、いつもの日課である、この村唯一の剣術道場へ見学に来た。


「おいおいこんなところに無能がいるぞ」

「無能の雑魚が何しに毎日覗きにくるんだよ」


  ここに来たら必ず道場に通っている生徒に大声で罵倒される。もう慣れたが。

 

「黙りなさい。ウチは確かに剣術初級以上を持っていないと入門を認めていない。だが、見学は自由にしているんだ。今のうちに人に見られながら戦うのに慣れるのも重要だ」

「ちぇっ、はーい先生」


 道場の先生が、僕を罵倒して来た門下生を注意する。


 ーーーーギフトには階級があり、初級、中級、上級がある。

 階級はギフトを授かった時にすでに定まっていて、変えようがない。

 ギフトにも剣術、盾術、槍術、魔術などがある。

 剣術ギフトを持たなくとも、素振りをして実践経験を積めばそれなりの実力をつけることはできる。

 しかしどれだけ実力をつけても剣術ギフト持ちにかなうことはない。

 ギフトが発現したばかりの剣術初級持ちの5歳の少年と、十分に訓練した剣術ギフトを持たない大人で実際に戦ってみれば、少年が勝ってしまうのだ。

 ギフトを持つだけで体をどう動かせば相手を倒せるのかが自然とわかってしまうらしい。


「そこの君も何か気づいたことがあったら自由に指摘してくれて構わない。必要だと思ったら鍛錬に取り入れるのでな」


 ここの先生は厳しいけど教えるのが上手だと有名だ。

 噂によれば剣術中級を持っているらしい。

 中級程度大したことないと思う人もいるだろうが、この世界は中級ギフトを持っている人は立派な天才扱いをされる。

 上級といえば、世界でわずか数人しかいないと言われているエクストラギフト持ちの化け物を除けば敵うものがいない、天才の中の天才だ。

 ある学者が言うには、中級ギフト持ちは10人にひとりはいるが、上級ギフト持ちはなんと1000人にひとりの確率なのだとか。


「はい、いつも見学させていただいてありがとうございます」


  ちょっと悔しい気持ちになったけど気を取り直してこの道場に来た理由を思い出し、広い道場の隅を見る。




  ーーーーそれは、あまりに疾く。

 この世の全てを置き去りにしたかのように。

 まるでその人だけが、時間の進む速さが違うように。


  音を置き去りにし、光すらも置き去りにして。


  10数人の道場破り達が瞬く間に倒れていく。



  その中央にいるのは女神と見紛うような少女だった。



  短く切りそろえられた髪は、白銀。道場破り達を鋭く見下ろす瞳の色は青。


  僕よりも少しだけ背の高いその少女は構えていた木刀を下げ、何かを探すかのように入り口を見る。視点が定まると、鋭すぎた表情が優しく崩れ、周囲を放置してこっちへ走ってくる。


「エドウィン!今日も来てたんだ!今ちょうど終わったから一緒にお弁当たべよ!」


「ニーナ、お疲れ。今日もすごかったね」


  強すぎる、美しすぎる彼女は、僕の一生の目標で、同い年の幼馴染だった。




「それにしても最近はまた増えて来た気がするんだー、道場破り」


  場所を道場の裏の広場に移動して昼食にする。

  あれだけの人数と対戦して、なんともなかったかのようにニーナは平然と僕お手製のサンドイッチを食べている。

  しかし実際に、彼女からしてみれば10数人同時に相手取ることなどなんともないのだ。

 

  ――エクストラギフト“剣神”。


  持っているだけで天才の中の天才と呼ばれる上級ギフト、そのさらに上。

  神が自分に最も近しい人間に与えると言われる、規格外のギフト。それがエクストラギフト。


  その中でも剣術に特化したこのギフトは、ありとあらゆる剣技を使いこなす。

  剣じゃなくても使いこなす。素手でも強い。


  はっきり言って敵うものはいない。常識が通用しないのだ。

  どんな相手であっても、相手の土俵で戦って勝つことができる。

  どれだけハンデをつけても勝てる。


  けれど武人というものは、敵うはずもないとわかっていても挑まずにはいられないらしい。


「ニーナのおかげで村が前よりも活気付いたって、近所のおばあちゃんが喜んでたよ」


  ニーナが5歳の頃にエクストラギフトが発現して以来、噂が噂を呼び、武者修行としてこの村を訪れる人が増えた。

  “剣神”がいるこの街で悪さをする馬鹿もいないので、治安もいいまま活気付いている。


「ニーナはこの村から出ることは考えてないの?例えば剣の国アテナとか、戦いの国アレスに行ったら引く手数多なんじゃない?きっとすごいお金持ちになれるよ」

「うーん、とりあえずその予定はないかな。ここにいても強い人が勝手に来てくれるからいつでも戦えるし、何よりこの村が好きだから!」


  やっぱりこの娘、ちょっと戦闘狂なんだよな。こんなに可愛らしい顔をしてるのにいつも戦いを楽しむことばかり考えてる。

 

  そうして雑談しているうちにお弁当を食べ終わった。


「ごちそうさまでしたー!今日も美味しいご飯をありがとう!」

「いえいえ、僕もいつも付き合ってもらってるしこれくらいはね」


  僕がバスケットを片付けている間にニーナは木刀を持って準備運動をしている。


「よーしじゃあ、早速始めよっか」


  片付け終わって木刀を構えた途端、ニーナが超スピードで突進して来た。


「ッーー!!」


  不意打ち気味に放たれた、スピードの乗った喉狙いの突き。

  辛うじて反応するが避けきれずに右肩をかすめる。


  痛みに顔をしかめるが、追撃を逃れるために大きくバックステップをとる。


「へえ、今のに反応するのはなかなかやるじゃん」

「なんとなくだけどすぐに来るって思ってたんだよ。それでも躱しきれなかったけどね」

「バレてたかー。今日の道場破りさん達はちょっと張り合いがなかったからちょっと不満でーーーーねッッ」


  休む間を与えてくれない超速の斬撃。木刀同士が激しく音を立てる。


  速く、そして鋭い斬撃。一度防げば次には三度の剣閃が迫り来る。

  正面で向きあったかと思えば白銀の影が側面へ、懐へ、死角へ。

 

  怒涛の乱打。


  腕を痺れさせながらも辛うじて受けきる。がーーーー


  もう一段階加速したニーナを僕は目で追うことができず……


「《一閃》。はい、おつかれ」


  頭に強い衝撃を受け、僕は意識を失った。

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