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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第十三章 そして日常がやって来る
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第98話 魔王、冬を迎える

 ベーシク村に冬がやって来た。

 木々は葉を落とし、気温は徐々に下がってくる。

 余がショコラとともにやって来たのは、冬の終わり頃であっただろうか。


「これでちょうど一年ほどであろうか」


「ああ、私が来てからそろそろ一年だ」


「ユリスティナもそうであったかー」


「何を言う。ザッハと私は、ほとんど同じ時期に来たではないか。その頃は、ショコラももっと小さくてな……」


 改めてそんな話をしたのには理由がある。

 朝起きたら……雪が降っていたのである。


「パーパ! マーマ! おそと、ふってる!!」


 ショコラがパジャマのまま、ばたばた走って外に行こうとする。

 ユリスティナがすぐに追い付いて、ひょいっと抱き上げた。


「やーん!」


「だめだぞ。ちゃんとお顔を洗って、着替えて、朝ごはんを食べて、トイレ行ってから!」


「おそとー!」


「だーめ」


「むうー」


 ぷくっとショコラがふくれた。

 うむ。

 ぺちゃくちゃ、たくさんしゃべるようになったものである。

 一度言葉を覚えてしまえば、あとはすぐであった。

 堰を切ったように、ショコラはどんどんおしゃべりするようになり、赤ちゃん軍団と会うと、キャッキャと楽しく騒いでいる。

 本当に、赤ちゃんの成長は早い。

 もうすぐ、赤ちゃんとも呼べなくなるであるな。


「ショコラ、全部終わったら、冬用のお洋服を着て遊びに出るであるぞ。外で遊ぶのに、途中でお腹が減ったら大変であろう」


「ピャ! おなかへる、だめー!」


「であるな。だからまずは顔を洗うのだ!」


「はーい!!」


 良いお返事である。


「上手いな、ザッハ」


 ユリスティナはにっこり笑うと、ショコラを下ろしたのだった。





 ショコラは、もぐもぐもぐーっとご飯を食べた。

 もう、自分でスプーンも上手に扱える。


「あ、ショコラ、ぼろぼろこぼしてー」


「マウー?」


 上手に……。


「あー、よそ見したらまたこぼれる」


「マウ」


「あ、拾って食べた!」


 スプーンはまだまだ修行中であるなあ。

 ショコラはこぼしながらも、ご飯を全部食べきった。

 最近ますます、たくさん食べるようになったのだ。


「たべた! マーマ! あそぶ!」


「はいはい」


「余が食器は片付ける。ユリスティナはショコラを着替えさせてやってくれ」


「ああ、分かった。今朝はザッハの当番だったから、夜は私だな」


「うむ。楽しみにしておるぞ」


 食器を洗い終わった頃合いで、家の前に誰かがやって来た気配である。


「ショーコーラーちゃん!」


「あそぼー!」


「迎えがやって来たな。どれ、うちのお姫様は着替え終わったかな」


 廊下に出てみると、寝室でバタバタと走る音がする。


「マーマ! はやくー! あそぶー!!」


「ちょっと待って。ここを結んで、これで……よし!」


 寝室の扉が開いた。

 そこから、もこもこした真っ白なものが走り出てくる。


「ほう! このもこもこは何であるかな?」


 上からもしゃもしゃっと撫でると、キャーッとはしゃぐ声がした。


「ショコラよー!」


 それは、もこもこな小さなコートを着たショコラであった。

 フードの下に、ニコニコなショコラの笑顔がある。


「ほほう、パパはびっくりしたぞ。どこのお姫様であるかな?」


「んふふー」


「ショコラ、可愛いだろう?」


「うむ。これは世界一可愛いな」


 余とユリスティナ、満足してぐふふ、と笑う。

 さて、ショコラの外出開始である。

 扉を開くと、そこには毛皮のコートを着たチロル。

 丈夫そうなコートのチリーノ妹が来ている。


「ショコラちゃん、あそぼ!」


「あそびにいこ!」


 チロルもずいぶん、しゃべるのが上手になった。

 チリーノ妹は、ちょっと早いのだが名前をもらったらしい。

 確か、アドリアと言ったか。

 七歳までは、死ぬ可能性が高いために名前をもらえなかった子どもたち。

 だが、ここ最近のベーシク村では、みんな名前をつけてもらえるようになったようである。

 赤子のまま、死ななくなったであるからな。


 さて、我々も付き添いである。

 雪が降ってくるベーシク村を歩くことになる。


「どこであそぼっか!」


 アドリアがお姉さんらしく、二人を連れて先を歩く。

 これに、チロルとショコラが、うーんっと首をかしげた。

 考えている考えている。

 だが、もと赤ちゃんであった二人が考えても難しかろう。


「この雪である。村の子どもたちが黙って家の中にいるとは思えぬであるな。皆、出てこよう」


「そっか!」


 納得するアドリア。

 一年経って、すっかり大きくなった彼女は立派なお姉さんである。


「ショコラちゃん、チロルちゃん、こどもえんにいこ!」


「うん!」


「マウ!」


 三人が手をつないで、わーっと走っていく。

 雪が降ってきて、地面がぬかるんでいるのに、そんな勢いで走ると転ぶのではないか?


「きゃー!」


「ひゃー!」


 ほら。

 ……と思ったらだ。


「マーウー!!」


 ショコラが浮かんでいた。

 背中から翼が生えて、転びかけた二人を支えている。

 さすがはドラゴン、パワーが違うのである。

 ショコラにとって、二人のお姉さんを持ち上げることは造作もないことであろう。

 実際のショコラの大きさは、どれほどになっていることか。

 今度、村の外で確認してみねばな。


 子ども園に到着すると、余の予想は的中していた。


「ショコラちゃーん!」


「先生ー!」


 ほう、一期生の面々と、子ども園の年長さんたち、それに親と一緒に、赤ちゃん軍団もいるではないか。

 みんな遊ぶ気だったというわけだな。

 冬になってしまえば、畑仕事はなくなる。

 狩りに行くにも、獲物は冬眠を始めるし、外は村の中よりも雪が降り積もる。

 危険なのだ。

 そのようなわけで、冬は村人が暇になる季節だ。

 余がこの村に来たばかりの頃に参加した狩りは、いわばその年の狩り初め、とでも言おうか。


「よーし、では遊ぼうではないか。なに、雪の量が足りない?」


 子どもたちが、ワクワクした目で余を見ている。

 その期待に応えてやろうではないか。


「では、余が雪を追加してやろう。存分に雪遊びを楽しむがいい!」


 空に向かって、雪の魔法を放つ余なのであった。

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