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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第十三章 そして日常がやって来る
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第96話 魔王、秋の収穫をすること

 やがて夏が過ぎ、ベーシク村にも秋がやって来た。

 収穫の秋である。

 この季節、村の者たちは誰も彼も、畑の収穫を手伝うことになる。


「どーれ」


 余は野良着を身につけ、鎌を持って麦畑へと踏み入る。

 なかなか広大な畑である。

 ここで、村が消費する一年分の麦を収穫するのだから無理もあるまい。


「野良着姿もお似合いです。さすがは我が偉大なる魔王、隙と言うものがない……!!」


 相変わらず余を魔王と呼ぶベリアル。

 こやつ、執事服の上からエプロンをつけて、ねじり鉢巻をして鎌を持っている。

 ここの畑は、余とベリアルの担当なのである。


「それは良いから、作業にかかるぞ。魔法で一気にやることも容易いが、それではせっかくの収穫の時期に趣というものがない。手作業で行こうではないか」


「御意にございます」


 そして、余とベリアルの麦刈り作業が始まるのである。

 余所では、馬を使った簡単な麦刈り道具などもある。

 イシドーロの作品で、見た目はあちこち櫛状になった箱であり、横には車輪がついている。

 この車輪が内部の歯車と繋がっており、その力で回転式の鋤が麦を掘り起こす。

 掘り起こされた麦は櫛の部分から吐き出され、たまっていくというわけだ。

 だが、我ら二人は人力……否、魔力(まりき)である。

 元魔王と、その一の側近の力を見よ!


 ざくざくと麦が刈られていく。

 歩くに等しい速度で進みながら、通過した場所の麦を回転しながら刈って行く。

 余と対角線上にある場所からは、ベリアルがスタートしている。

 奴は両手に鎌を持ち、麦が刃に押されて曲がるよりも早く断ち切る。

 小走りほどの速度で突き進み、次々に麦を刈っているのだ。

 範囲を刈る、余。

 直線を刈る、ベリアル。

 いい勝負である。


「やるなベリアル」


「お褒めに与り恐悦至極。しかし我が偉大なる魔王には及ぶものではございません!」


 我らが収穫作業を行っているのを、土手に腰掛けた赤ちゃん軍団が見守っている。

 この子たちももう一歳を過ぎ、トコトコ歩くし、ぺちゃくちゃお喋りもするようになっている。


「ショコラちゃん、パパすごーねー」


「びゅんびゅんって! びゅんびゅんって!」


 親友である赤ちゃんたちに余を褒められ、中心にいるショコラがニコニコ笑う。


「ピャー、なの!」


 うむ……。

 ショコラも、パパ、ママだけではなく、ちょこちょことお喋りをするようになった。

 赤ちゃんの成長とは実に早い。

 もうすぐ、おむつも卒業であろうなあ。

 そして年長さんになるのだ。

 そろそろ、ショコラの後輩になる新たな赤ちゃんたちが子ども園にやって来ている。

 彼らは、人魔大戦が終わった後に生まれた新世代なのである。


「パーパー! マー……んーっ」


「ショコラちゃんのパパ、がんばえー!」


「がんばえー!」


「パーパ、がんばえー!!」


 頑張るぞ!!!!!!!


「ぬうっ!! 偉大なる我が魔王の速度が一段階速まっただと!? これはまるで、麦を刈るためだけにそんざいする竜巻のような!!」


 よく分からぬベリアルの形容を受けながら、余はバリバリと働いた。

 普段であれば、数日掛かりで収穫する畑であったが、余とベリアルに掛かれば半日で事足りる。

 お昼時には作業が終わり、麦を束ねて加工しやすくする工程に入るのである。

 その頃には、麦刈りを見るのに飽きた赤ちゃん軍団が、畑の泥をこねてキャッキャと遊んでいる。

 赤ちゃんの見守り担当は、一期生のお兄さんである。

 水魔法に長けた子なので、すぐに赤ちゃんたちの手足をキレイキレイにできるのだ。


「おーい、ザッハ! ショコラ! ご飯にするぞ!」


 ユリスティナがやって来た。

 他の奥さんたちと、村のみんなの昼ごはんを作っていたのである。

 作ったお弁当は配りきり、我らが最後というわけか。

 赤ちゃん軍団にも迎えがやって来た。


「ばいばーい!」


「ばいばーい!」


 赤ちゃんたちがぶんぶん手を振りながら別れる。

 余のところには、ベリアル以外の魔将もわいわいとやって来た。

 ブリザードとフレイムも、今日ばかりは見張りではなく、収穫に専念。

 パズスはやっぱり子どもの相手。

 ガルーダは外で何かしていたようで、ばさばさ羽音を立てて戻ってきた。


「では昼にするか」


「マウー!」


 ショコラが歓声をあげた。

 お喋りを覚えても、感激したりするとマウーとかピャーとか言うのだ。

 さっそく、ユリスティナ手製のサンドイッチを掴み、ぱくっと食べた。

 むちむちほっぺたが、もぐもぐと動く。

 中身はもちろん、スクランブルエッグだ。


「美味しいか、ショコラ?」


「おいひー! ママごはんおいしいー!」


 ほっぺに卵をつけて、ニコニコしながら答える。

 うーむ、見ているだけで余もニコニコになる。


「あれ? オロチがいないですな?」


「パズスよ、オロチは向こうの女子たちにお呼ばれしているのだよ」


 ベリアルとパズスの会話が聞こえる。

 オロチめ、すっかり村の女子たちと仲良くなったな。

 あやつがここまで丸くなるとは思ってもいなかった。

 思わぬ収穫である。


『ところで魔王様』


 小鳥の姿のガルーダが、余の肩に飛び乗った。


「どうした?」


『報告致ちまちゅ! 村を治める貴族の、徴税担当がやって来ていまちゅ!』


「ほう。初めて会うことになるな。後で挨拶に行こうではないか」


 だが、それまではショコラが食事をする姿をじーっと眺めているのだ。

 うーむ、なんと美味しそうに食べるのか。

 生まれた頃から、なんでも美味しそうに食べる子だったが、歯が生えてきてからは、より一層もぐもぐむしゃむしゃと、お口いっぱいに詰め込んで食べるようになった。

 ほっぺたが食べ物でふくらんでいる。


「ショコラ、汁が垂れてるぞ」


「んー」


 ユリスティナに口の周りを拭かれておる。

 しばらくすると、たっぷり食べて満足したらしい。

 ショコラがけぷっとした。

 そしてすぐに、うとうとし始める。


「食べるとすぐに眠くなる辺り、まだまだ赤ちゃんだなあ」


「余としては、もう少し赤ちゃんでいて欲しくもあるな。どんどん成長していくのは嬉しいが、ちっちゃいショコラもまた可愛いであるからな」


「分かる……!」


 ショコラを見守る、余とユリスティナなのである。

 すっかり、徴税担当がやって来ていることを忘れてしまっていた。


『魔王様!』


「おっと、いかんいかん。ショコラは無限に見ていても飽きないので、ついつい起きるまでじっと見ているところであった」


 余は立ち上がる。

 割り当てられた畑の作業はほぼ終わっている。

 ならば、徴税担当を見に行っても良かろう。


「どれどれ」


「お供しましょう、我が偉大なる魔王よ」


 ということで、野良着の余と、執事服にエプロンをつけたベリアルの二人で見に行くのである。

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