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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第十三章 そして日常がやって来る
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第94話 魔王、勇者たちを見送る

 なかなか大変であった、魔神撃退作戦も終わったのである。

 村人たちは、やがて来る収穫の時に備えて忙しくなる。

 我らも仕事を手伝わねばならぬだろう。

 そして、勇者たちもまた、己の住まう場所に帰らねばならぬ時がやって来たのだった。


「ザッハトール、約束のものをいただくわ」


 鋭い目で、魔拳闘士ラァムが余を見据える。


「うむ……。これである」


 余は、この日のために作っておいた薬を手渡す。

 紙袋に包まれており、一見して何かは分からぬだろう。

 だが、余とラァムには分かるのだ。


「……確かに……! ふふ、ふふふふふ」


 ラァムが不敵に笑う。

 隣りにいたファンケルが不安そうな顔をした。


「……なに?」


「私とファンケルの未来よ!」


「ええ……」


 答えてくれない奥さんを前に、ガクブルするファンケル。

 大丈夫、これは貴様らをハッピーにする薬であるぞ?

 無論、危ない意味ではない。

 嬉しそうに紙袋を抱いたラァムと戸惑うファンケルは、そうしてベーシク村を去っていった。

 そのうち、ショコラの弟分か妹分を連れてやってくるであろうな。

 楽しみである。


「なんか、ラァムがやけにニコニコしてたなあ。何があったんだ?」


「ガイには分かるまいな」


「ええー!? 教えてくれよー!」


「ダメである。貴様はデリカシーがないからな」


「ブー!」


 ガイからブーイングされても何も感じぬのである。

 それよりも、ガイにもお迎えが来たようだぞ。

 村の入口に向かい、ホーリー王国の一団がこちらに向かってくる。


「ガイーっ!!」


「げっ、ローラ!!」


 ガイが文字通り飛び跳ねた。

 ホーリー王国からの使節団らしいが、その中に仰々しい自動馬車がいる。

 そして自動馬車から身を乗り出して手を振っているのは、ローラ姫である。

 そう言えばガイのやつ、ローラを説得してこちらに来たのではなかったのだったな。


「やべえ!!」


 逃げようとするガイ。

 させるか!

 余は超高速で動いた。

 逃げようとするガイを、羽交い締めにする。


「うおおおっ! 離せ、ザッハトール!! ドラゴンオーラーッ!!」


 こやつ、ローラから逃げるためだけに全力を……!?

 恐妻家であるな。

 ということは、逃がすわけにはいかぬ。

 貴様がローラに叱られてシュンとするところを見たいではないか。


「魔闘気全開である! ぬうおおおおっ!」


「うおおおーっ! 限界を超えろ、俺ーっ!!」


 そこまでしてローラから逃れるつもりか!!

 ガイの魔力が、ドラゴンオーラの力がどんどん強まっていく。

 これは、魔神戦以上だと……!?

 そんなにローラが怖いのか。

 しかし、これはひょっとすると余でも捕まえきれぬかも知れぬ。

 どうしたものか……。


「任せろ、ザッハ」


 現れたのは、ユリスティナである。

 手動で麦を()くためのすりこぎを持っている。

 彼女の後ろでは、手をつないだショコラとチロルがいるではないか。

 ユリスティナ、そのすりこぎをどうするつもりだ。

 振りかぶって──!?

 いかん、それはショコラの教育に悪い……!!


「聖なるオーラ全力開放!」


 その瞬間、ユリスティナが眩く輝いた。


「ピャアー」


「キャアー」


 ショコラとチロルの目がくらむ。


「うわっ、まぶしっ」


 ガイも思わず目を閉じた。

 その頭を、ユリスティナはすりこぎでぶん殴ったのである。

 ものも言わずにぶっ倒れるガイ。

 こやつは頑丈だからこの程度どうということはない。

 だが、ローラ姫が到着するまでの間は、目を回して起き上がれぬであろう。


「マーマ?」


「なんでもないぞショコラ。ほら、ローラ伯母さんがやって来たぞー」


「マウー!」


「コンニチハ!」


 到着したローラ姫に、元気に挨拶するショコラとチロルである。

 ローラ姫は、妹に伯母さん呼ばわりされ、ちょっと笑顔を引きつらせた。


「ユリスティナ。お、伯母さんは早すぎるのではなくて?」


「何を言うのです。姉上は、私の娘であるショコラからすれば立派に伯母さんです。誇ってください」


「ユリスティナ、ちょっと論点がずれているのではないかな……」


 頬をひくひくさせるローラを横目に、余は我がパートナーに囁いた。


「そうか……? だが理論的に正しい」


「世の中は理論だけでなく、感情も大事であるからな。年若い娘が伯母さんと呼ばれて面白かろうはずもあるまい」


「? ……?」


 この娘、前々から思っておったが、乙女心的なものがどうも欠けている気がする。

 そんな我らをよそに、ぶっ倒れたガイが粛々と回収されていくのである。


「手間を掛けさせましたね。では、ガイはもらっていきます」


「うむ。みっちりと仕込んでやってくれ。王配としてどこまでものになるか、楽しみにしておるぞ」


「ええ、もちろんです。それにしても……」


 余とユリスティナ、そしてニコニコしながらローラを見上げるショコラ。

 そんな我ら一家をじーっと見つめるローラ姫。


「ユリスティナ、前には、ショコラさんは自分が生んだ子じゃないからーって言ってなかった?」


「ああ。私が生んではいないのです。ですが、ショコラは私の娘です」


 ショコラを抱き上げて、ぎゅーっとするユリスティナ。


「ピャー」


 いきなりむぎゅっとハグされて、ショコラがじたばたした。


「ショコラチャーン!」


 下でぴょんぴょん飛び跳ねるチロル。


「よし、来るがよい、チロル。イシドーロよりは背丈は低いが、余が抱っこしてやろう」


「ワーイ!」


 余はチロルを抱き上げた。

 ほうほう、魔族とのハーフだけあって、順調に魔力が育っておるな。

 子ども園を卒園するころには、魔法を使いこなす素養が備わるであろう。

 これはなかなかの逸材かも知れぬ。

 余がチロルの才能を検分している間に、ホーリー王国の王女姉妹は積もる話をしていたらしい。


「ショコラは、ついに私をママと呼んだのです! すぐに姉上も伯母さんと呼ぶことでしょう」


「教えなくていいからね!? ショコラさんも、私をそんな呼び方しなくていいからね?」


「マーウー?」


 ショコラは分かっていないようだ。

 ユリスティナに女子としての教育を任せておくと、大変心配である。

 子ども園の赤ちゃん軍団、そして小さき人々よ。

 お前たちに、ショコラの女子としての未来はかかっている……!

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