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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第九章 ホーリー王国は不景気なり
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第62話 魔王、ホーリー王国に産業を持ってくる

 ここは、王や側近たちが集まった会議室である。

 余とユリスティナはこの部屋に呼ばれ、カイザー三世とホーリー王国の財政立て直しのための会議をするのだ。


「ショコラちゃんはこっちにいらっしゃい」


「マウー?」


 ラァムに抱っこされて、外に連れて行かれるショコラ。

 ファンケルとともに、そのうち彼らにも子ができるかも知れん。

 その時の練習になろう。


「良い子にしているのだぞショコラ。すぐに余とユリスティナが戻ってくるからな」


「ショコラ、ラァムのお姉さんを困らせないようにするんだよ」


「ピャア」


 ショコラはたいへん良いお返事をした。

 これ、最近思うのだが、ショコラは我らの言葉をちょこちょこ理解し始めているようである。

 大人しく、ラァムの腕の中に納まるショコラ。

 ちなみにラァムの胸元は、ユリスティナよりも大きいので、ショコラとしてはそこに頭を預けて寄りかかるのはなかなか具合がいいようである。

 ファンケル、赤ちゃんを羨ましそうな目で見るのではない。


「おほん」


 カイザー三世が咳払いした。

 会議を始めるということらしい。


「ゴールドナイトと言ったか、そなたの案を聞こうではないか」


「うむ。聞かせてやろう」


 余の返答に、その場がざわっとなる。

 大臣たちが、国王に対して上から目線的な返答をした余をとがめるような視線を送ってくる。


「貴様ら、何か勘違いしてはおらぬか? 余はこの国の客であり、立場としても王の臣下ではない。あくまで対等に付き合おうというのだ」


「そうだな」


 ユリスティナが平然と頷いたので、大臣たちは唖然とした。

 実際、余は今は赤ちゃんを育てる人だが、元魔王である。

 魔王は魔界全土を統一した王であるからして、人間界のたかが一国の王よりも権威としては遥かに上なのである。

 ある意味魔神に匹敵する。

 だが、余も引退した身であるしな。

 同じ立場に立ってやるのである。


「話を進めて良いかな?」


「あ、ああ」


 カイザー三世が頷いた。


「まず問うが、ホーリー王国は外貨を稼ぐ手段として何を持っているのか?」


「そ、それは、武器や鎧の生産と、聖地グレートホーリーへの巡礼者が落とすお金がある」


 大臣の一人が発言する。


「ふむ。今は平和になってきているから、武器と鎧の需要は落ちてきているであろう」


「た、確かに」


「巡礼も数が減っているのではないか? ゼニゲーバの如き無神論国家が大きな顔をしているようであるからな」


「むう……」


 どうやらその通りのようだ。

 ホーリー王国は、人魔大戦で膨れ上がった戦費を、諸国へ借金して賄っていたようだ。

 だが、戦争が終わり、人的にも資源的にも消耗したホーリー王国は、借りた金を返せなくなっていた。

 そこでユリスティナの見合いの話が出たのである。

 最初はゼニゲーバ王国のムッチン王子。

 次は、また別の債権国であろう。


「本来であれば、ユリスティナは第二王女である。国のため、政略結婚するのも仕方がなかろう。だが、今はできぬ理由があるのだ」


「ああ。私はショコラを育てねばならないからな」


「……ユリスティナ、国家と赤子一人とどちらが……」


「今の私にはショコラが大事だ!」


 父であるカイザー三世に言い切るユリスティナ。

 猪突猛進の聖騎士ユリスティナに、そんな二択を説いてはいけなかったな。

 呆然とする、国王と大臣たち。

 だが、ユリスティナも無責任にそれを口にしたのではない。

 余の肩を叩きながら、


「大丈夫。私がショコラを育てるために、ザッハが良い案を出してくれるだろう」


 うむ、その信頼があるからこそ、ユリスティナはショコラを取ったのである。

 余としても、成長して一人前のドラゴンとなっていくであろうショコラと相対しても、真っ向から親として君臨できるユリスティナは大切である。


「ということで、余がこの国に二つほど、金策の手段を提供しよう。一つは即効性があるが、長くは持たぬ。もう一つは、遅効性だが国を挙げてしっかりと取り組んでいけば、長くホーリー王国を富ませてくれるであろう」


「そ……それはなんだ」


 かすれた声で言う、国王。

 余は立ち上がり、会議室の壁まで歩いた。


「失礼するが、こちらの壁に窓を空けて良いかね?」


「窓を……!?」


 会議室は、四方を石の壁に囲まれている。

 国策において重要な決定をする場所であり、万一にも外敵に襲われぬよう、緊急時には王族などが避難するためである。

 だが、今は平時。

 最大の敵であった魔族が敵対することも、もう無い。

 余が断言できる。


「どうするつもりだ?」


「構わぬのか?」


「いや、できるものなら問題ないが」


「では窓を作るとしよう。土変化(トランスアース)


 余が手を当てた部分から、岩壁に変化が生じる。

 ぼこっと大きく窪み、ひとりでにその部分がくり抜かれたのだ。

 それはまさに、四角い窓であった。


「おお……!!」


「なんという魔法……!」


 驚愕するお城の面々。

 いや、これは今から余がやることを見せるための処置であるぞ。


「少々待っているが良い。えーと、鉱物探知(サーチメタル)……お、あったあった」


 余は、ホーリー王国の地下に、目的のものを見つけた。

 希少金属の鉱床である。

 その名はミスリル。

 本来は、ただの銀であるのだが、魔法的な影響に長くさらされることで変質し、ミスリル銀という希少金属になる。

 ホーリー王国は、人間界における信仰の中心的場所であったから、あると思ったのだ。

 余はこの鉱床を、手近な山と入れ替える。


「リプレイス・ディメンジョン」


 これ、余のオリジナル魔法ね。

 無生物と無生物の場所を入れ替える魔法である。

 同じ体積でなければならないので、細かい計算が必要になる。

 余の魔法によって、一瞬だけホーリー王国が揺れる。


「わっ」


「うわっ」


 廊下の向こうから、ショコラのキャーッとはしゃぐ声が聞えてきた。

 この揺れを、高い高いと勘違いしたのではないか。


「な、何をしたのだゴールドナイト!」


 椅子にしがみつくようにしたカイザー三世は、汗を拭いながら余に問う。


「その目で見るが良い。あの山を、ミスリルの鉱床にしてやったぞ」


 余は窓の前からどく。

 そこに、国王と大臣たちが殺到した。

 遠めにも見える、きらめく巨大な鉱床。

 穴を掘らずとも、周りに付着したミスリル銀だけで相当な量になろう。


「おお……なんということだ!」


「陛下、あれだけあれば、借金を返す事ができますぞ!」


 わいわいと盛り上がる、国王と大臣たちである。


「待つのだ。鉱床はすぐに金になる。だが、掘り尽くせばおしまいよ。故、余は遅効性の策を貴様らに授けると言ったのだ」


「この上、まだ何かあると言うのか!?」


 文字通り、目を白黒させる国王。


「無論だ。むしろこちらの方が、ホーリー王国にとって重要であろう。余は貴様らに、これを進呈する」


 余が指を鳴らすと、魔界からとあるものが転送されてきた。

 事前に連絡を取り、新魔王デスサタンに用意してもらったものである。

 それは、小型の魔動バイクであった。


「これは、なんだ……?」


「魔動バイクだ。馬も無いのにひとりでに走る乗り物よ。ただし、乗り手の魔力を使う。貴様らはこれを解析し、ホーリー王国の産業とせよ」

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