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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第一章 育児見習い大魔王
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第5話 魔王、借家に住まう

 オルド村からの最後の避難民ということで、余は村から家を用意された。

 ガーディアスが滅ぼしたかの村からは、数えるほどの生存者しか戻ってこなかったのだとか。

 だからこそ、門番のブラスコが案内してくれた村長は、余とショコラをいたわる言葉をくれ、その上で空き家を提供してくれることになったのである。


「ふむ、空き家か。随分放置されていたものであるな」


 扉の中は、埃に蜘蛛の巣だらけであった。

 つい近ごろまで、獣の類が巣を作っていたようだ。

 

「ピョ」


「ああ、ショコラ、下に降りてはならん。余が今から片付けるからな。そのまま降りてはばっちいぞ」


 村人が、後で片付けの手伝いを寄越すと言っていた。

 だが、家まで用意してもらい、世話され通しではまるで魔王時代の余のようではないか。

 余は魔王を引退したのだ。

 故に、できることはきちんとやっておこう。


「よし、風よ起これ。魔風(イビルウィンド)


 余が手をかざすと、巻き起こった風が屋内を吹き荒れていく。

 風が埃や蜘蛛の巣を巻き取り、ぐるぐるとまとめ……。


「外へ放り出せ」


 まとめられた埃の類が、扉から外に出ていった。


「ピャー!」


 余の腕の中で、ショコラがバンザイする。


「よし、ショコラ、行ってよし!! 今、貴様を開放する……!!」


 余は厳かに宣言すると、ショコラを床の上に下ろした。

 猛烈な勢いで、ショコラが這い這いを始める。

 速い……!

 赤ちゃんとは言え、やはりドラゴンの血は争えんな。


「マウマウマー!」


「いいぞいいぞ」


 どんどんと突き進むショコラを追って、余は借家の中を見て回る。

 まずは入り口から、廊下。

 ここがリビングで、第一寝室。

 ほう、第一寝室は広いな。

 巨大なベッドが置いてある。

 余とショコラの二人きりで寝るには、少々大きいか。

 いや、元の姿の余であれば狭いくらいだな。


「マウマウー!」


「いいぞいいぞ」


 這い這いしていくショコラの後を、余はついていく。

 第二寝室は客間である。

 大した広さではないな。

 そして浴室。

 それなりに広い。

 ああ、いかん、トイレに突撃してはならんぞショコラ。

 食堂付きのキッチンがあって、これで全部か。

 

 家の中を全て見終えた後で、村の人々がやって来た。

 たくさんの掃除用具を持った彼らは、家の中がすっかり綺麗になっているのを見て驚いたようだった。


「こいつは一体、どうしたことだ!? ゴミも何もかも、なくなっちまってる」


「やあ、ブラスコ。掃除ならば、余がやっておいた。何、この程度のこと、自分でできずどうするというのだ。世話になり通しでは申し訳が立たぬというものだ」


 足元まで戻ってきたショコラを抱き上げる。

 たっぷり這い這いしたので、どうやら疲れたらしい。

 ショコラはほわほわと欠伸をし、余の胸に寄りかかって眠ってしまった。


「可愛いねえ、赤ちゃん」


「うむ」


 ブラスコや村人たちの言葉に、余は頷いた。

 聞けば、ブラスコの家にも三人子供がいるらしい。


「うちのガキどもにはさ、平和な世界を見せられそうでホッとしてるんだよ。いや、本当に、人魔大戦が終わって良かった良かった……」


「そうか。余も、当分はあのような大騒ぎを引き起こす事はあるまい。ショコラを育てねばならぬからな。これの母親と約束したのだ」


 余がそう言うと、村の者たちはハッとした顔をし、目頭を押さえたり、気まずそうな雰囲気を漂わせる。


「そ、そうか。ザッハ。あんた奥さんが……」


「奥さん……? 妻のことか。妻はない」


「ああ、いや、悪かったよ。悪い事を聞いちまった」


 なんだ?

 おかしいな。

 話が通じていない気がする。

 余は一言も、偽りなど口にしていないのだが。

 人間のコミュニケーションというものは、難しいな。


 その後、掃除の手伝いであった村人の集まりは、余とショコラの歓迎会になった。

 途中から、村の御婦人たちも駆けつけ、彼女たちが引き連れてきた子供たちも我が家に溢れることになった。


「ダウー?」


「うむ、ショコラよ。人間の赤ちゃんだ」


「マーウー」


「何を言っているのかは分からんが、その通りだ」


 多くの赤ちゃんたちが集まり、みんなショコラを不思議そうに見ている。

 ふむ。

 赤ちゃんの瞳の中に映るショコラは、ドラゴンの姿のままであるな。

 どうやら、余の幻術は赤ちゃんには通用しないらしい。

 だが、彼らは赤ちゃん。

 人間たちに真実を伝える術などあるまい。


「ショコラ、遊んでくるが良い」


「マウー」


 余が、ショコラを床に下ろすと、開放された彼女はのしのしと赤ちゃんたちに向かって突き進んでいく。

 赤ちゃんたちもまた、ドラゴンであるショコラを受け入れると、みんなでだあだあ言いながら遊び始めた。

 あのくらいの年齢であれば、竜であるとか人であるとかは関係がなくなるのだな。

 興味深い。

 魔と人のしこりは世界に残っているだろうが、幼い頃から偏見を取り払って教育すれば、余が引き起こしたこの戦いの傷跡は即座に消去できることであろう。


「おっ、ザッハさん、赤ちゃんたち見てるのかい? ショコラちゃん、すぐに友達作っちゃったなあ。これで村での暮らしも安心だ!」


 酒で顔を赤くしたブラスコがやって来て、余と肩を組んだ。

 途中で余の見えない鎧に引っかかり、不思議そうな顔をする。


「うむ。赤ちゃんというものは偏見を持たぬ。ゆえ、こうして新しいものを引き入れることもあるのであろうな」


「そうだなあ。これからの新しい時代は赤ちゃんが作ってくれるんだもんな! だけどな、赤ちゃんだけじゃ、育っていけねえ。俺たち大人が、そこは頑張らないとな! そうだ、ザッハさん、ショコラちゃんにも新しいお母さんがいると思わないか? あんたまだ若いしいい男だから、絶対嫁さん来ると思うんだけど……」


「あんた!! 何を失礼なこと言ってるのさ! ごめんなさいねえザッハさん。うちの旦那が……」


 アイーダが飛び出してきて、ブラスコを叩いて黙らせた。


「いや、気にする事はない。ふむ。ショコラの新しい母親か。なるほど、一考に値する」


 村に迎え入れられたことで、拠点は得た。

 こうして家を得て、村人たちからも歓迎をされている。

 では、次なる活動は、ショコラの新しい母親探しと行こうではないか。

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