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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第八章 やってきた母子
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第55話 魔王、チロルを弟子たちに会わせる

「それで貴様ら、どこに行くつもりだったのだ?」


 食事が終わった母子に尋ねてみる。

 ハンナは食事の礼を言った後、答えた。


「実は、魔界に行こうと思っていたのです。この子が暮らすにはそれしか……」


「そうか。だが魔界は人の足では辿り着けぬぞ?」


「え? 私達は歩いていったぞ?」


 ユリスティナがいらんツッコミをしてきたぞ。


「いいかユリスティナ。貴様や勇者パーティは例外だ。素手で魔族を張り倒すような娘と一緒にするな」


「そう言うものなのか」


 明らかに分かってない顔をするユリスティナ。

 分かんないかなあ。


「魔界に向かうのは諦めよ。それに貴様、あまり体が強くないであろう。そして年端も行かぬ、赤ちゃんと子どもの間くらいのチロルだ。無理であるぞ」


「そんな……」


 しょんぼりするハンナ。

 夫が魔族だったらしいので、魔界に行こうと思ったのだろう。


「人は人の間で暮らすのが良いぞ」


「いえ……。この子は、人の間では拒絶されます……!」


「そうなの?」


「そうなのです。ひどい目に遭わされて」


 チロルがハンナに駆け寄って、むぎゅっと抱きついた。

 その頭を撫でるハンナ。


「人は、自分と違うものを恐れます。そして害しようとするのです」


 だから人の間には居られないと言うわけか。

 いやあ、どうだろうな。


「ここの人間は大丈夫だと思うぞ? 特に子どもは、不思議なものを受け入れられるようになっている」


「はい……?」


 ハンナは不思議そうな顔をするが、イシドーロはうんうんと頷いている。


「ま、子供だけじゃねえがな」


「うん?」


「いや、こっちのことだ。っていうかザッハさん、気付いてなかったのかよ」


 何を苦笑しておるのだ、イシドーロ。


「ほれ、ザッハさん、お弟子さんが来てるぜ」


「うむ?」


「先生ー!」


「イシドーロさんところに行ったって聞いたけど!」


「先生ー!」


 ほう、あれは小さき人々の声。

 余に教えを請いに来たようだ。

 そう言えば、最近は魔法教室をお休みしていたな。

 子どもたちの声に、ハンナは慌ててチロルを隠そうとした。


「いや、必要はないぞ。見てみよ」


 イシドーロ宅にどやどやと入ってきた小さき人々は、見慣れぬ二人に気付いたようだ。


「新しい人だ」


「旅の人?」


「ちっちゃい子いる」


「マウマウマー」


 ショコラがテーブルに掴まって立ち上がり、チロルのところまで歩いていく。

 よろっとよろけた。

 危ないーッ。


「ショコラチャン!」


 チロルが咄嗟に動いて、ショコラを抱きとめた。

 すると、ハンナで隠れていた角が見えるわけだ。


「角がある!」


 子どもたちの指摘に、ハンナはギュッと目を閉じた。

 チロルもおろおろとする。

 だが、ここでチリーノが得意げに口を開く。


「魔界はもっと凄いのばっかりだったぜ? それにほら、うちの村、紫のお猿さんとか、すっげえ魔法使うザッハ先生とか、ぶん殴ってゴーレム蹴散らすユリスティナ様がいるんだぜ?」


「そう言えばそうかあ」


「角くらいはふつうだよね」


「ショコラちゃんと仲いいの?」


「ちっちゃいおねえちゃんだねー。かわいい!」


 わーっと寄ってきて、チロルに話しかけたり、頭を撫でたりしてくる。

 これには、ハンナとチロルの母子は目を丸くする。


「あの……なんで……?」


「ベーシク村はこのところ、奇妙なことが多くてな。というか、チリーノ、貴様ユリスティナがこの間の騒ぎで、外でゴーレムを殴り倒していたのを見に行っていたのか! 危ないではないかー」


「あっ!」


 やべえ、という顔をするチリーノ。

 全く、貴様が怪我をしたらブラスコとアイーダが悲しむではないか。


「良いか? ちょっと冒険をしたい時は、余に言うのだ。そうすれば、貴様らをビシバシと鍛えて、冒険できるだけの力をつけさせてやろう」


「ほんと!?」


 チリーノばかりではない、小さき人々全員が目をキラキラと輝かせた。

 いかん……!!

 全員に言質を取られてしまった。


「うかつだぞ、ザッハ」


 笑うユリスティナ。

 イシドーロもゲラゲラ笑う。


「というかザッハさん、あんたやっぱり魔法が使えたんだな。いや、それどころじゃないだろって、村のみんなが知ってるが」


「なにっ!?」


 衝撃が余を襲う。

 一体どういうことなの……。


「なに、俺ら村人も、あのでかい戦争の後だろ? お人好しなだけじゃねえよ。それに、あんたが来たっていうオルド村、見に行ったことがある奴がいるのさ。あそこは人が住めるような状態じゃなかった」


 なんたることであろう。

 余の素性は、微妙にバレていたのだ。


「何ということだ。余が巧妙に正体を隠していたというのに」


 すると、イシドーロもユリスティナも、子どもたちも笑った。


「ワラッテル」


「マウー」


 きょとんとするチロルのほっぺを、ショコラがぺたぺたと触った。


「ショコラチャン、ヤワラカーイ」


「ピャア」


「こんな場所があったなんて……。チロルを受け入れてくれる場所が……」


 呆然とするハンナ。


「時代は変わるぞ。人も魔も無い、そういう時代になる。この子どもたちは、そういう新しい時代を作っていく者たちなのだ。どうだ貴様。ベーシク村で暮らしてみぬか?」


「ああ。住む所なら、うちがちょうど部屋が余ってる。好きに使うといい」


 余とイシドーロの言葉に、一瞬だけハンナは無言だった。

 そして、じわりとその目に涙が浮かんできて、彼女はこくりと頷いたのだった。

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