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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第六章 魔王一家、魔界へ行く
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第38話 魔王、乳母車を受け取る

 余に新しい日課ができた。

 牛の乳絞りを手伝いに行き、報酬として牛乳を分けてもらうのである。

 これを使い、様々な料理や菓子を作る。

 一度は、近所の小さき人々を招いてミルクプリンパーティーを開催した。

 村の子どもたちの間では、「ショコラちゃんのお父さんはお菓子作りのてんさい」という評判が立っているようだ。

 フフフ、村人の人心掌握は着々と進行しておる。

 次はリクエストでケーキがあったので、鶏の世話を手伝って卵をもらってくることにしよう。


「こうか、ザッハ」


「うむ。良いぞ。だが分量は正確にな……。むむっ! ユリスティナ、貴様、いま砂糖を目分量で入れたな? 菓子作りとは正確な計量が肝要! 慣れぬ内に目分量など千年早い……!」


「くっ、厳しい……!」


 ちなみにユリスティナが、ショコラに赤ちゃんプリンを作ってあげたいと言うので、余に弟子入りした。

 余はその頃には、村の奥さんたちのお菓子作りレシピを全てマスターし、時間を作っては都会のお菓子作り教室に通っていたのである。

 既に、余が作るお菓子の腕前はベーシク村最強と言えるほどになっている。


 そしてユリスティナの他、村の奥さんたちが余から都会のお菓子の作り方を習い来る事になっている。

 明日は、我が家を開放しての大お菓子作り大会だ。

 奥さんたちに引き連れられ、大量の小さき人々が来襲することは確実である。

 余はユリスティナに教えつつ、明日のための焼き菓子を用意せねばならぬのだ。


「よし、できた! 早速ショコラに……!」


「赤ちゃんに食べられる熱さまで冷ますのだ。今回は余が手伝おう。コールドブリーズ」


 冷たい風が吹き、熱々のプリンを冷ましていく。

 ショコラはお行儀良く、ユリスティナがお菓子を作るのを待っているのである。

 手にしているのは、木工職人イシドーロが作ってくれたおもちゃ。

 丸い木の球に穴を開け、紐で繋いだものだ。

 くにゃくにゃと不安定で、持っているとくにゃりと右に曲がり、左に曲がり。

 予測不能の軌道が楽しい。


「マーウー!」


 ショコラは大喜びで、おもちゃを振り回している。

 さあ、ここでユリスティナのプリンがちょうど良い温度に冷まされた。

 いそいそと運んでいく姫騎士である。


「ショコラ、お菓子ができたぞ」


「ピョ!」


 プリンのいい匂いをかいで、ショコラがパッと振り返った。

 おもちゃを放り出し、猛烈な勢いで這い這いしてくる。


「マウマー!」


「おいでおいで」


 招くユリスティナの膝の上によじ登ったショコラ。

 あーんとお口を大きく開けて、プリンの到着を待つ。

 ユリスティナも加減というものを知らぬ。

 ボウルいっぱいにみっしりと詰まったプリンを、大匙でごっそり掬い、ショコラの口へ運ぶ。

 ショコラはそのプリンを、つるつるつるっと吸った。

 これ、噛んでないのではないか。

 余はちょっと心配した。


「ミャウー」


 おお、大丈夫であった。

 口をリスみたいに膨らませたショコラが、むにゅむにゅとプリンを噛んでいる。

 ご機嫌である。

 ユリスティナのお菓子は、ショコラに合格点をもらったのだ。

 ちなみに、ショコラがお菓子に対して合格点を与えるのは、余が見るに20点からである。



 ショコラのお腹が膨れたところで、我らは乳母車を受け取りに出かけた。

 ずっと待っていたらしきイシドーロが、余の姿を認めると、すぐさま工房の奥へと引っ込んだ。

 そして、見事な作りの乳母車を持ってくる。

 表には獣の皮が貼られ、内には藁が敷き詰められている。

 この上に布を敷き、赤ちゃんが入るのだ。

 ちなみに藁は悪くなるため、大体数日に一度交換する。

 使い終わった藁は、牛が食べる。

 エコである。


「どうだい。ショコラちゃんがちょっとくらいでかくなってもいいように、余裕を持たせて作ったぜ。その間は、藁を多めにして布で覆ってくれ」


「うむ、感謝する。ショコラ、乳母車であるぞ」


「ピョー?」


 ショコラはこの、不思議な乗り物を目を丸くして見つめている。

 そこに余が載せてやると、ちょうど良い狭さと乗り心地に、みるみる笑顔になった。


「マウマ!」


「満足らしい」


 ユリスティナがショコラの言葉を代弁した。

 我らは赤ちゃん語は分からぬが、ショコラはすぐ顔に出るから、思っている事がとても分かりやすい。


「イシドーロ、良い仕事であった。これは報酬代わりの工具である。余がこの間作っておいた。刃先は余が秘密裏に入手したアダマンタイトを使っておるから気をつけて使うのだぞ」


「おお、感謝するぜ、ザッハさん。……アダマンタイト? なんだそりゃ。いや、銀色に光り輝いてやがる……」


「ダイヤモンドに等しい硬度を持つ鉱石である。金属自体の時間を止めてある故、勇者による必殺技でも食らわぬ限りは刃こぼれすることは無い。話によると、このユリスティナが使う聖剣も同じ素材で作られているらしいぞ」


「そりゃすげえ! ちょっと使ってみていいかい?」


「うむ。切れ味抜群故、気をつけてな」


 その後、工房から、「うおー!! 硬い木の板がパンを削るみたいに簡単に彫れるぜ!!」という喜びの声が聞えてきた。

 気に入ってもらえて何よりである。


「……あれ? どうしてザッハがジャスティカリバーの材質を知っているんだ……?」


「それは聖騎士マニア界隈では常識であるぞ? そもそも聖剣とはアダマンタイトで作られるものなのだ」


 ユリスティナが危険な疑問を抱いたので、ノーウェイトで返答しておく。

 今考えた。


 危ない危ない。

 ついつい、ユリスティナがかつて余と戦っていた聖騎士であることを忘れてしまう。

 下手なことを話せば家庭崩壊である。

 そんなことをしたら、ショコラを養育する環境が悪化してしまう。

 それだけは避けねばならぬ。


「おお、ザッハ! この乳母車凄いぞ! 砂利の上を走っても、ショコラに来る振動が全然少ない!」


 ユリスティナのはしゃぐ声が聞えた。

 あやつ、もうさっき何を話していたのか忘れたな。

 だが、余だってショコラを乗せた乳母車を押してみたいのだ。


「待つのだユリスティナ! 一人で堪能するのはずるいのだぞ!!」


「マーウー!」


 大喜びのショコラ目掛けて、余も走り寄って行くのである。

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