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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第五章 ベーシク村の劇的なビフォーでアフター
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第32話 魔王の朝食事情

「なんだろうなあ、この落書きは」


 村人が、塀に大きく書かれた顔の絵を見て首を捻っている。

 ベーシク村の四方を囲むこの塀は、害獣や魔物の襲撃から人々を守っている。

 村ができるずっと昔からあったらしく、広い畑さえ完全に覆ってしまうほどの規模がある。

 そのうち、住宅がある側の塀に、チョークで書かれた大きな顔が幾つも出現したのである。

 書いたのは、チリーノと彼の弟、妹。


「とりあえず消しとくか」


 村人が背伸びをしたところ、落書きの顔がむにゅっと動いた。


『ヘイ!』


「……? うわあっ、落書きが喋った!?」


 落書きから声が発せられたので、村人は一瞬フリーズした。

 そしてすぐに、びっくりして腰を抜かす。

 そう、これは余が命を与えた、塀ゴーレムの顔なのだ。

 内側五箇所、外側実に十六箇所に落書きは施され、これら全てがゴーレムとしての自立意思を持つ。

 簡単な魔法を使うだけの知能も与えてあるので、村への襲撃者を迎撃する時に役立つであろう。


「ザッハ、何をニヤニヤしているんだ?」


 余が塀ゴーレムの視界をジャックして、村人が驚く様を眺めて楽しんでいると、ユリスティナが肩を揺さぶってきた。


「うむ、昨日の成果を確認していてな。貴様こそどうしたのだ。余を揺さぶるなど緊急事態か?」


「ああ! ショコラが今、すごく面白い顔をしていてな」


「なにっ!!」


 すぐさま塀ゴーレムとの視界共有を切り、振り返る。

 そこには、なんとも言えぬ顔をしたショコラがいた。


「いいよショコラ。ザッハそっくりだ!」


 ユリスティナが大喜び。

 えっ。

 あれって余にそっくりなの。


「余はそんな顔してたかなあ」


 魔法で鏡を取り出して、横目でチェックする。

 ショコラはすぐに元の表情になって、ユリスティナに受けたのでキャッキャとはしゃいでいる。

 解せぬ。

 だが、ショコラが体を使って色々な表現をするようになったという事ではないのか。

 しかも余の真似とは。

 昨日見られなかったのは、きっとこれであろう。


「昨日の物真似も上手だったが、今日のはまた違った味わいがあるな」


「えっ」


 昨日のと違うの!?

 余が知らぬショコラの表現があるというのか。

 くく……悔しい。


「ピャピャー」


 おや、今度はショコラが、余を見て何か言っている。

 手を振っているようであるが。


「ザッハに抱っこして欲しいのだろう。最近は私がショコラと一緒にいる事が多いからな」


「おお、言われてみればそうであった。余としたことが、村の防衛にかまけて赤ちゃんとのスキンシップを怠るとは。まだまだ未熟である」


 余が抱き上げると、ショコラは「マーウー」と満足そうに言いながら、余の胸元で顔をむぎゅむぎゅさせた。

 ふわっふわのもちもちである。

 よし、今日は一日、ショコラと一緒に過ごすとしよう。


「ザッハ、私たちはいつもそうやって、ショコラを抱っこしたりおんぶしたりして歩き回っているのだが、忙しい奥さんたちは赤ちゃんを乗せる車を使っているらしいぞ」


「ほう。赤ちゃんを乗せる車……? 確か、それらしきものを見た記憶があるな」


 ユリスティナからの耳寄りな情報である。

 彼女はお付き合いのある奥さんたちから、「ザッハさんとユリスティナ様のうちは、乳母車使わないのかい?」と聞かれたらしい。

 気になったユリスティナは、乳母車なるものについてリサーチしたのだそうだ。


「王宮では、赤ちゃんは大きなベッドに寝かせ、乳母がつきっきりで面倒を見るものだった……らしいからな」


 実際に見たわけではないようだ。

 人も金も充分にある王族であれば、乳母車ではなく人を使うのであろう。

 だが、人も戦争の影響でギリギリ未満、金などあるわけがない庶民にとって、赤ちゃんのお守りだけで人が割かれてしまう事は問題だ。

 余も、子ども園の外に停められた木製の小さな荷車みたいなものを何度か目撃していた。

 その時は、子ども園に備え付けの小さな荷車だと思っていたのだが。

 もしやあれが乳母車というものか。


「よし、では今日は乳母車なるものを研究してみようではないか」


「いいな! では朝食を片付けてから行こうじゃないか!」


 本日の予定が決定した。

 ベーシク村襲撃まではまだ少し時間があろう。

 その間、余はショコラのため、生活のクオリティを上げることにまい進するのである。


 ちなみに本日の朝食当番はユリスティナ。

 余の教えを受け、最初はオーブンでのパン焼きすら真っ黒にするほどだった姫騎士である。

 まさか黒焦げのパンを元の状態に戻すために、限定箇所の時間を巻き戻す大魔法を使うことになるとは思わなかった。

 だが、失敗したならその場でしっかり教えることで、人は同じミスを繰り返しにくくなるものだ。

 余は、そういう教育コストはきっちりと掛ける性質(たち)なのである。

 お陰で、ユリスティナはパンの焼き加減を完璧にマスターした。


「ショコラにはパン粥を用意してある。ほら、あーん」


「マー」


 ショコラが大きく口を開け、パン粥をむしゃあっと食べた。

 唇の端からちょっとこぼしつつ、むにゅむにゅ咀嚼(そしゃく)する。

 余はテーブルの上の布を使い、ショコラの口を拭いてやった。


「ピャー」


 顔を拭かれるのを嫌がるショコラ。

 逃げるな逃げるな。

 お洋服がパン粥のミルクで汚れてしまうではないか。


「ピャピャ!」


 ショコラはテーブルをぺちぺち叩きながら、パン粥のお代わりを要求した。

 とてもよく食べる。

 巷の赤ちゃんは好き嫌いが多かったり、アレルギーがあったり、ご飯で遊んだりと大変らしい。

 だが、うちのショコラはとても食い意地が張っているため、目の前にある食物はとりあえず食べてしまわないと気が済まないのだ。

 お陰で食事は大変楽なのだが、次から次に食べるため、余とユリスティナが食べている暇が無くなる。


「ユリスティナ、貴様は食事をするのだ。ショコラには余がご飯を与えよう」


「そうしてくれると助かる。実は私もお腹がぺこぺこで」


 ユリスティナもとてもよく食べる。

 体格的にも標準的な人間の女よりは大柄であるしな。

 必要な栄養の量も多いことであろう。

 余がショコラに粥を食べさせていると、向かいで猛然とパンを平らげるユリスティナの姿があった。

 たっぷりと、バターにジャムを載せて食べる。

 スクランブルエッグを載せて食べる。

 ユリスティナが作る付け合せは、大抵スクランブルエッグである。

 目玉焼きを作っていたはずなのに、目を離すと次の瞬間にはスクランブルエッグになっている。

 卵焼きも、大体すぐにスクランブルエッグに変化する。


「はあ、食べた。ショコラも全部食べたようだな、偉いぞ」


「うむ、ショコラは常に偉い」


 お腹一杯になり、けぷっとしているショコラ。

 余とユリスティナに褒められ、ニコニコしながら「マーウー」と発した。

 さて、ショコラをユリスティナに預け、余も朝食をやっつけるとしよう。

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