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最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第三章 魔王一家の華麗なる日常
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第18話 魔王、ブラスコの息子と会う

「なかなかイカスお洋服ではないか」


 今日ユリスティナが作ったという、ショコラのお洋服を手に取り、余は仔細にチェックした。

 一見して、無骨な貫頭衣に見える。

 だが、この縫い目の強固さを見よ。

 まるで防具のようだ。

 この幾重にも重ねられた布地の厚みを見よ。

 生半可な刃であれば通らぬであろう。

 それは、実に優れた性能を持つ布の鎧……クロースアーマーだった。


「これは防御力が高そうだ」


「ああ。だが、赤ちゃんの洋服に防御力はそれほどいらないらしい……」


 散々、上の階の編み物教室で突っ込まれたのだろう。

 ユリスティナがしょんぼりとした。

 聖騎士ユリスティナ手製の洋服ということで、興味をいだいた奥さんたちが見に来た。

 そして、「あっ」という顔をすると、静かに引っ込んでいく。


「うーん、私の感性は変なのだろうか……」


「いやいや、貴様はつい先日まで常在戦場であっただろうが。まだ心が戦場から帰ってきておらぬのだ。ゆっくりと皆のようなやり方に合わせていけば良い」


「そうか、そうだな……。よし、次は張り合わせる布を一枚減らしてみよう」


「いいぞいいぞ」


 余はユリスティナの挑戦を応援した。


「マーウー!」


 ユリスティナの登場に気付き、ショコラが全力で這い這いして来た。


「おおー、ショコラちゃーん!」


 ショコラを迎えて抱き上げるユリスティナ。

 余は、ユリスティナが作った服を構えつつ、ショコラにあてがっては「むむむ」と頷いた。

 サイズ的には少し大きいようだな。

 だが、これならドラゴン状態のショコラでも身につけられるだろう。

 実は先見の明に基づいた編み物なのではないか。


「あらショコラちゃん、お父さんとお母さんが揃ったねえ」


「ザッハさん、ユリスティナ様、そろそろお帰りですか?」


「うむ、そう言えばそうである。帰ろう」


「そうだな。帰るとしよう」


「ピャ」


 我らがこども園を出ると、ちょうど畑仕事を終えた親たちが迎えに来たところである。

 ここで余は、見慣れた顔を見つける。


「ブラスコではないか」


「あっ、ザッハさんじゃねえか」


 門番のブラスコだった。

 彼は、次男と長女をここに預けているのだとか。


「それが貴様の息子か」


「おう、長男のチリーノだ。チリーノ、ザッハさんに挨拶しろ」


「こんにちは」


 チリーノは、茶色い髪を短く刈った、気の強そうな男の子だった。

 七歳だとか。


「うむ、こんにちは」


「こんにちは」


 余とユリスティナが挨拶を返すと、彼はちょっと気圧されたように後ろに下がった。


「と、父ちゃん、この人たち、なんか普通じゃねえ……!」


 おっ、鋭いな。

 余には、この子どもが余の魔闘気と、ユリスティナの聖なるオーラを感じ取ったのが分かった。

 年が年ならば、勇者パーティに選別していただろう。

 才能のある子どもだ。

 だが、それも平和な時代には宝の持ち腐れである。

 彼の頭を、ブラスコのげんこつが見舞った。


「いてっ!」


「こらっ、失礼だろ? ザッハさんはオルド村からどうにか逃げて来たんだぞ。それに、ユリスティナ様は聖女様だぞ!」


「ええー……。俺、父ちゃんが平気な顔してるのが分かんねえ……」


 警戒の色を隠さないチリーノだが、ユリスティナが抱っこしたショコラだけは別なようだった。

 ご機嫌で、「ピャピャー」とはしゃぐ赤ちゃんに、ちょっと不思議そうな目を向けた。


「あれ? 赤ちゃんがさっき、変な動物に見えたような」


 余がショコラに掛けた幻術は、小さい子供には通じないことがある。

 チリーノは、幻術を見破れるギリギリの年なのだろう。

 こども園の入り口で話していると、ブラスコの息子と娘が、奥さんたちに連れられてきた。


「おーい、こっちだー!」


「にいちゃーん、とうちゃーん」


「にいたん、とーたん」


 まだ名付けを受ける前の二人なので、正式な名前はない。

 ちびっこたちは、チリーノとブラスコと手をつなぐ。


「ブラスコ、貴様の子どもとショコラは、年が近いのだな」


「そうなんだよ。まあ、うちはなんとか赤ん坊の時期を抜けられたよ。あとは二人とも七つになってくれるのを祈るだけだ」


「なに、平和な時代になったのだ。戦時よりは子どもは育つであろう」


「だよなあ。本当にいい時代になったぜ……」


 我らがそのような話をしている間に、ショコラとブラスコの子どもたちが邂逅していた。


「赤ちゃんだー」


「変なのー。羽生えてるー」


「ぷにぷにー」


「マーウ、マーウ」


 ユリスティナがしゃがんでいるから、子どもたちも手が届く。

 二人ともショコラが伸ばす手を、触ったりつついたりしている。

 この世代の子どもたちは、ドラゴンの子どもと過ごすことになるだろう。

 大人になれば、今の世代が知らぬような世界になっていくかも知れんな。


「こらっ、お前たち、羽に触ったらだめだろ」


 チリーノが、弟と妹がいたずらしそうになるのを止めている。

 ほう、いいお兄ちゃんではないか。


「貴様ら、ショコラと遊びたいのか?」


 余が尋ねると、ちびっこどもはコクコク頷いた。


「よし、今度、我が家に遊びに来るがよい。余が手ずから出迎えてやろう……!」


「いいのー!?」


「いのー」


「こら、お前たち……」


「チリーノも来るが良い。余が見る所、貴様は才能がある。その才能を遊ばせて置く気がないのならば来るが良い」


「ザッハ。お前、またろくでもない事を考えているのでは……? あ、ああ、ブラスコ殿。ザッハがこう言っているが、お子たちを我が家に招いていいものか?」


 ユリスティナに言われて、ブラスコは目に見えてかしこまった。


「あ、はあ。もう、そりゃあ、もちろん。聖騎士ユリスティナ様のお住まいともなれば!」


 むむむ、聖騎士の人徳、強い。

 一国の王女でもある以上、世界一影響力がある娘かも知れぬな、こやつ。

 いやいや、余だって魔王ザッハトールの本性を顕せば……。

 あ、いかん。

 村がパニックになる。

 冷静になれ、余。

 余は深呼吸すると、冷静になった。


「では決まりだな。近く、我らの家にあそびに来るが良い。ちょうど、ショコラと年の近い友人が必要であると思っていたところだ」


 余の言葉を聞くと、ブラスコの子チリーノは緊張に満ちた表情をした。

 なんだその顔は。

 まるで伏魔殿にでも行くような顔をして。


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