表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔王のドラゴン赤ちゃん育児戦記  作者: あけちともあき
第三章 魔王一家の華麗なる日常
18/106

第17話 魔王、子ども園デビューする

 村長の奥さんに連れられ、余はショコラを抱っこして移動するのである。

 後ろをひょこひょことパズスが歩いてくる。

 ショコラのおむつ関連の洗い物は既に終了していた。

 余とパズスの分担作業により、汚れたおむつは早急に洗濯され、今は軒先に干してある。

 廊下の水気も拭き取り済みである。

 いつユリスティナが帰ってきても問題ない。


「ザッハさん、主夫力高いわよねえ。うちの旦那なんか、尻を叩いても洗濯一つまともにできやしないのに」


「フフフ、赤ちゃんを世話する者として、一通りはできねばならぬからな。だが、これらの技も全て村の奥さんたちに習ったのだ」


 この村に来たばかりの時、余は洗濯はおろか、衣類の折りたたみも良くできなかった。

 これらの技術を、村の奥さんたちとの付き合いの中で素早く吸収したのである。

 千年間魔王を続けてきた中で、磨きぬかれた状況判断能力、対応力があったお陰だ。


「マーウマウ」


 ショコラが余に向かって何か言っている。

 赤ちゃん語は相変わらず分からぬが、顔を見ればショコラの気持ちは分かる。


「うむ。やはり散歩は屋内よりも外に限るな」


「ピャ!」


 ご機嫌なショコラとともに、訪れたのは村の突き当たり。

 そこにそこそこ大きな建物があり、ここで子どもを預かっているということだった。

 管理運営は、村の奥さんたちが当番制で行っている。


「ザッハさん連れてきたわよー」


 村長の奥さんが声を掛けると、中にいた奥さんたちが「キャーッ」と盛り上がった。

 なんであろうか。

 余は知っているぞ。

 これ、黄色い歓声というやつだ。


「ザッハさん、うちの村の女衆から人気があるのよ? 狩りで大きな鹿を、矢を手で投げつけて狩ったそうじゃない。それに男衆と違っておしゃべりも楽しいし、話が合うし」


「ははは、恋バナのことか。あれは余の趣味であるからな。弓矢に関しては許せ。魔法が掛からぬ弓には疎くてな。手で投げた方が早かった。少々趣に欠けたな」


 その点に関しては、反省することしきりである。

 さて、余は奥さんたちに迎えられながら、建物に入った。

 ここは、子ども園と村で名づけられた施設なのだそうだ。

 建物の前には大きな庭があり、丸太を削って作った、てこの原理で動く遊具や、砂場がある。

 そこでは五人ほどの子どもたちが遊んでいた。

 パズスはそこに、子どもたちの歓声を受けて迎えられた。

 このお猿さん、先日我らが狩りに行っている間に、子どもたちから絶大な支持を得るまでになっていたようだ。


「子どもを一箇所に集めて守ろうって話でね。昼間、親が仕事に出てる間、手伝いできないくらい小さい子どもはここでまとめて預かるのよ」


「ほう! なるほど、これほど子どもがいるならば、ショコラの友達もできるかも知れぬな」


 赤ちゃんたちが集まっているところがあったので、余はそこでショコラを持ち上げた。


「よし、ショコラ。貴様を解放する……」


「ピャ!」


 床に下ろされて、ショコラは気合の入った鳴き声をあげた。

 ここは、赤ちゃんたちがめいめいに遊んでいる場所だ。

 その数はショコラを入れて六人。

 ここを担当する奥さんは二人で、外の担当は一人。

 預かる時間は、昼過ぎまで。

 今日は、外にパズスも加わるので、担当の奥さんはさぞ、楽であろう。


「マウマー!」


「あぶぶー」


「んまー」


 ショコラが這い這いしながら、赤ちゃんたちの中に入っていく。

 どの赤ちゃんも、余とショコラが今の家に来た時の歓迎会で、親に連れてこられた赤ちゃんばかりだ。

 皆、顔見知りである。

 六人の赤ちゃんは、赤ちゃん語で会話しつつ何やらおもちゃをやり取りし始めた。

 赤ちゃんも六人寄れば社会が生まれるのである。


「あらあら、ショコラちゃんは大人気ねえ」


 若い奥さんが、この様子を見て目を細めている。


「ザッハさんに似て、みんなから慕われるのかも」


 そう言ってちらっと余を見る、年かさの奥さん。


「うむ。仲良きことは美しいのである」


 余は頷きながら、奥さんたちのさりげないアプローチをスルーした。

 そういうのは後からドロドロするからいけないのだぞ?

 余は人間社会の恋バナを研究しているから詳しいのだ。

 何度か、奥さんたちからのアプローチを回避しつつ、赤ちゃん社会を見学する余である。

 赤ちゃんは、男の子が二人と女の子が三人。

 まだ分別がついてない年頃だから、この年齢で性別の違いは関係あるまい。

 男の子は、手にした積み木をあむっと食べた。

 それを見て、女の子が三角形の積み木を食べる。

 その形は危なそうである。


「あ、危ない危ない」


 慌てて奥さんの一人が駆け寄って、それを止めた。

 止められた女の赤ちゃんが、ぴゃーぴゃー泣き出す。

 おお、泣くのが連鎖し始めるぞ。

 六人中、四人の赤ちゃんが泣き出した。

 これは大変である。


「ほんと、目を離すと赤ちゃんって何でも食べるでしょう? こうしてみんなで見てても、年に何人かは誤飲で赤ちゃんが死んでしまうの。もう、気が気じゃなくって」


 ベーシク村の子どもの数は多い。

 村民人口300人ほどで、そのうちの四割が成人していない子どもなのである。

 それでも、疫病やら何やらで子どもたちのうち少なからぬ数は大人になれずに死ぬのだ。


「子どもは天からの授かりものだからね。年が七つを過ぎるまでは、神様がきまぐれで連れて行ってしまうって言われてるの」


 ベーシク村の子どもは、七つまでは適当な名前を付けられて過ごす。

 そして、七歳になった時、初めて人間としての名前を貰うのだそうである。

 その中で、最初から名前があるショコラは大層珍しいらしい。

 なるほど、それで村の者は皆、ショコラちゃんショコラちゃんと持ち上げるのか。


「ピョ、マウー」


「あば、あぶー」


 二人だけ泣いていなかったショコラと、女の赤ちゃんが、何やらお喋りしている。

 二人は一緒に積み木が入った籠から、四角い形の木を取り出す。

 いや、女の赤ちゃんはまだあまり握力が無いのであろう。

 掴んでは、ぽとっと落とす。

 ショコラはパワフルなので、スッ、スッ、と次々に積み木を取り出していく。

 この様子を、目を丸くして見つめる赤ちゃん。

 そして、「ぴゃあ!」とよだれを垂らしながら喜んだ。

 ショコラはちょっとドヤ顔で、「マー」と笑う。


 うーむ。

 社会の縮図である。

 赤ちゃん社会、恐るべし……!!

 余は、泣いている女の赤ちゃん二人をあやしながら、未知の世界を垣間見た興奮に震えたのである。

 女の赤ちゃん二人は、すっかり泣き止んでいた。

 一人ずつ片手で抱っこしているように見えるが、実は魔闘気で補助しているのだ。

 安定感は抜群。

 抱っこ時のホールド感と触感の快適さも、魔闘気を使って表現している。

 これで赤ちゃんに与える安心感もばっちりである。


「ザッハさんお上手」


「すっかり赤ちゃんあやしの達人ね!」


「ふふふ、貴様らからの教えがあったからこそである。まずはこの技を開発した先人に敬意を。そして賛辞をありがとう」


 余と奥さんたちが、ぐははは、うふふ、おほほと笑っていると、背後から足音が聞えた。

 階段を降りてくる音だ。


「あれ? ザッハトー……じゃない。ザッハじゃないか。どうしてここに?」


 ユリスティナがそこにはいた。

 彼女の手に握られているのは、布を張り合わせて作った野趣溢れる小さな衣装。

 ほう、この上の階が、ユリスティナが向かった編み物教室であったのか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ