番外編4 ハンナの恩返し
チロルの母、ハンナ語りき
チロルを子ども園に送った後のことです。
ちょうどユリスティナ様がお帰りになるところでしたので、一緒に歩きました。
いつもは明るく、自信に満ちた彼女なのですが、今日はなんだか様子が変です。
先日私たちはブラスコさんのご一家と、ザッハさん、ユリスティナさんご夫婦についてのお話をしていましたから、それが関係あるのでしょうか。
「どうされたんですか、ユリスティナ様?」
「あ、ああ。ちょっと悩んでいてな」
「まあ、お悩みと言いますと」
ユリスティナ様、ちらちら私を見てからもごもご言います。
なんでしょうか。
「大丈夫です。秘密はちゃんと守りますから。私も娘も、あなたがたのお世話になったおかげでこの素敵な村で暮らせているんです。お困りの事があるなら、お手伝いをさせてください」
「う、うーむ……その、実は……。ショコラに妹か弟を作ろうという話で……」
「まあ!」
「こ、声が大きい! それでだな。ザッハもそういう話をして来たので、今後の事を話し合ったんだけど……。お互いそっちの知識が疎くてだな」
ユリスティナ様はそうかも、と思っていましたが、ザッハさんがあまりご存じないのは意外でした。
いえ、アイーダさんから聞いた話では、村に来たばかりのザッハさんは育児の事も全然知らなかったそうですから、珍しくないのかもしれません。
「分かりました!! このハンナにお任せ下さい! 魔族の夫と愛し合って子を成したことに関しては、ユリスティナ様の先輩ですから!」
「おお……!!」
ユリスティナ様の目が、きらきらと輝きました。
希望の輝きです。
「よろしく……お願いします……!!」
ぐっと私の手を握るユリスティナ様です。
「はい、お願いされました。では、ザッハさんがおうちに戻られた頃合で、お二人にレクチャーいたしましょう」
「えっ、ザッハも一緒に!?」
「当たり前です! お二人は夫婦なのですから、きちんと互いに知識を深めて、正しくショコラちゃんの弟妹をお作りになるべきです」
「わ、分かった……!」
私の勢いに押されて、ユリスティナ様がカクカクとうなずきました。
さあ、これから忙しくなります。
私は家に走って帰り、夫にこれからの予定を告げました。
「えっ、俺も行く」と言う夫をお店に押し込み、ザッハさんとユリスティナ様のお宅に向かうのです。
そして……。
この日から、私とザッハさん、ユリスティナ様の勉強会が始まりました。
ザッハさんは勉強熱心ですし、ユリスティナ様はショコラちゃんにお願いされていることで、高いモチベーションがあります。
やがて数日が過ぎた後、私は子ども園でユリスティナ様から報告を受けました。
「成果があった! ありがとう、感謝している!!」
両手を握られ、ぶんぶんと振られます。
ユリスティナ様は大変力がお強いので、結構痛いです。
「そ、それは良かったです、あいたたた」
「あっ、済まない! だが、何もかもハンナ殿のお陰だ。ありがとう、ありがとう」
「いいえ。私は前に進もうと言うお二人を、少し後押ししただけです。一歩を踏み出したのはお二人の意思なのですから、偉いのはお二人なのです」
「そういうものか……」
「そういうものです」
それに、まだまだ受けたご恩は返しきれているとは思いません。
私とアイーダさん、それに村の奥様たちは、新米ママであるユリスティナ様をお待ちしているのです。
今から、生まれてくる子どもが楽しみです。
男の子かしら。
女の子かしら。