番外編1 魔王と姫騎士の関係は?
アルファポリスで要望があった、いつの間にザッハとユリスティナに子供が!?
という問いへのアンサーです。
オマケ更新であります。
ベーシク村の門番、ブラスコ語りき
「俺はな。どうも分からん事があるんだ」
「そりゃあ、何だよ」
俺の前で、頭を剃り上げた大男が首を傾げた。
こいつはイシドーロ。
ベーシク村で木工職人をやっている男だ。
随分前に、戦争で嫁さんと子供をなくし、寡夫暮らしをしていたのだが、最近再婚した。
隣に座って、俺のかみさんとお喋りしているのが、その相手。
ハンナさんだ。
幸薄そうな美人だな。
で、イシドーロの膝の上で、匙を握りしめてシチューを食べてるのが、連れ子のチロルちゃん。
額に角が生えている、魔族との混血なんだそうだ。
今は、俺の家とイシドーロの家で夕食会の最中。
「分からん……。なあ、ブラスコ」
「だから何が分からないってんだ?」
「いやさ。ザッハさんの事だよ」
その名を言われて、俺はすぐに納得した。
ザッハさんか。
そりゃあ分からん。
俺はあの人が、初めてベーシク村に来た時に相手をした。
村人で誰よりも付き合いが長いと自負している。
だが、そんな俺でもさっぱり分からん。
ザッハさんがどういう人なのか、全く分からないのだ。
どうやら、魔族らしいという事は分かっているのだが。
あの、分からない事だらけのお人の、どこが分からないというのだろうか。
「ザッハさんはよ、ユリスティナ様と夫婦なんだよな?」
「だな」
「……俺はよ、あの二人がどうも夫婦に見えなくてな……」
「はあ?」
俺が思わず、素っ頓狂な声を上げた。
だが、ハンナさんと、うちの嫁はうんうんと頷くじゃないか。
「確かにねえ。ザッハさんとユリスティナ様、仲はいいんだけど、あれはどっちかというと夫婦というより、友達みたいな感じかね?」
「そうなのか、アイーダ?」
思わず嫁を見たら、あいつは太い体を揺らしながら、鼻で笑いやがった。
「気づかないのかい、ブラスコ。かーっ、これだから男は」
「いや、イシドーロだって男だろうがよ!」
「イシドーロは女心が分かる男だからねえ……」
「なんだとぉ?」
という事で、俺は嫁といつも通りの喧嘩をして、だ。
「あれねえ。ユリスティナ様はなんか、ザッハさんを意識してると思うんだよねえ」
「あら、ザッハさんだって、ユリスティナ様を憎からず思っていらっしゃるでしょう?」
「そうだねえ。なんかこう、仲はいいんだけど、二人ともその先に思い至ってないっていうか、ねえ?」
嫁とハンナさんが、ねー、と頷き合う。
なんだなんだ、通じ合いやがって。
「分かるか、チリーノ」
「なんのこと?」
分かるわけないか。チリーノもまだ八つだしな。
「ザッハさんとユリスティナ様がな、そんな仲が良くないなって話なんだよ」
「えー! 仲いいよ。先生もユリスティナ様も、凄くいいコンビだもん」
「そうだよなあ」
「そうじゃなくて、ですね?」
ハンナさんが口を挟んできた。
「ご夫婦として、お二人はまだ、自覚が無いのかも知れないって私は思うんです」
「夫婦の……自覚?」
なんだそりゃ、と思ったが……。
確かにあの二人、気がついたら一緒に暮らしてたんだよな。
その理由は、ショコラちゃんという、ザッハさんの連れ子を育てるためだ。
最初はまるで、人間というよりは動物っぽい赤ちゃんだと思ったもんだが、今ではすっかり可愛い赤ちゃんになったもんだ。
「ショコラちゃんの前では、二人ともちゃんと父親と母親してると思うがなあ」
「ショコラちゃん!? ショコラちゃんね、かわいいよねー」
「ショコラチャン! カワイー!」
うちの娘とチロルちゃんが騒ぎ始める。
ショコラちゃんは、この二人の妹分みたいなものなんだよな。
「だからさ、そうじゃないのさ。親であると同時に、男と女だろ?」
アイーダの言葉で、ようやく俺は気付いた。
「父親、母親だけ上手くったって、それじゃダメなんじゃないかね? 大事なのは、愛だよ、愛」
「違いないな」
俺は頷いた。
「そう、それよ! 俺はあの二人に世話になってるし、おかげでハンナとチロルにも会えた。感謝してもしきれねえ。だから、何かできることがねえかと思って考えてたんだよ」
そうしたら、イシドーロは、ザッハさん夫婦がおかしいことに気付いたらしい。
「人様の家庭に口出しするってのは違うと思うんだけどね。これはもうちょっと根本的な話さ。あたしら、ザッハさんとユリスティナ様には世話になってるだろう? ここらで、恩返しをしようじゃないか!」
アイーダが一つ、ぶち上げてきた。
いいね、いいじゃないか。
何をもって恩返しになるのか、さっぱり見当もつかないが……。
とりあえず、やってみようじゃねえか。