転生者嫌いの魔神様
「はぁ、はぁ、はぁ!」たったったっ
私は国王陛下の私室へ向かい城の廊下を急いで走っている。
廊下を走るのは不躾だとかそんなことはどうでもいい。早く国王陛下にこのことを伝えなくては!
陛下の部屋の前には近衛兵が二人番をしていた。
走ってきた私にただならぬ空気を感じたのか二人は焦った様子で何事かと尋ねてきた。
「テレシア上級騎士殿!いかがされた?」
「緊急事態だ!国王陛下に合わせてくれ!急げ!」
「き、騎士殿の謁見とあらば国王陛下も無下にはしないでしょうが・・・。分かりました。」
近衛兵は振り返りドアをノックする。
「国王陛下!テレシア上級騎士殿が謁見を願い出ております!」
「よいぞ、入れ。」
会話が聞こえていたのか陛下はすぐに入室の許可を出した。
近衛兵がドアを開けると私はすぐに部屋に入り敬礼する。
「テレシア・デル・フィレイニーレ上級騎士であります!陛下、緊急事態が起こりました!」
「テレシアよ落ち着け、何があった。」
陛下は椅子に座り紅茶をすすっていた最中だったらしい。ティーカップを置くと私の方へ振り返り落ち着くように促した。
私は呼吸を落ち着けて陛下に要点を伝える。
「この王都が・・・、多数の魔物の軍勢に取り囲まれております!」
「・・・。」
陛下はポカンと口を開けあっけにとられた表情をしている。
「テレシアよ、その情報確かか?」
「はい!私もこの目で確認いたしました!その中には絶滅したとされていたオーガやサイクロプス、ケルベロスなど災厄級の魔物も数多く!」
「なにっ!?」
陛下は立ち上がり私に詰め寄ってきた。相当焦られているのだろう。
「人食い鬼に一つ目鬼!?あれら強大な魔物はかつて魔王が倒されたあと勇者たちによって駆逐されたと!」
200年ほど前人間と魔王の熾烈な戦いがあった。
人間は苦戦を強いられながらも神の加護を受けた勇者サイモンとその仲間たちによって魔王は倒された。
魔王を失った魔物たちは力を失い、人間たちによって駆逐されていった。
現在に残っているのはスライムやゴブリン等危険度の少ない、数の多い魔物だけで、サイクロプスなど希少な魔物はとっくに絶滅してしまっていた。
そう考えられていたのだが。
「実際に王都が取り囲まれております!陛下、一度その目でご確認ください!」
「ふむ、テレシアよついてまいれ。近衛も来い!城壁の上に行き確認する!」
陛下は私と近衛二人を連れ王都をぐるりと囲む城壁へむけて移動することとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
馬を走らせ城壁にたどり着いたころには城壁の内側は兵士たちが集合していた。
みんなうろたえた表情をしている。
「国王陛下の到着である!道を開けよ!」
兵士たちは陛下の到着に気づくと城壁の上へ続く階段へ道を開けた。
歳を召された陛下はそんなことを感じさせない足取りで急ぎ上へ駆けあがっていく。
私達も陛下の後に続き上へ上がっていった。
城壁の上にも兵士たちがおり将軍のグレイブマン殿が指揮をとっていた。
歴戦の勇士グレイブマン殿も焦りの表情は隠せないようだ。
グレイブマン殿は陛下に気づくとすぐに敬礼をする。
「国王陛下!それに女騎士のテレシア、非常にまずいことになりました!」
女騎士と呼ばれるのは好きではないと言っているのに、まあこの際どうでもいいことだが。
「テレシアから聞いておる!絶滅したはずの強大な魔物が城を取り囲んでおるとの報をうけたが・・・。」
陛下は城の周りを見渡す。
「間違いではないようだな・・・。」
王都周辺の平野には町や村が点在しているが、それらからは火の手が上がり、王都周辺1km程のところまで軍勢は迫っている。もう目と鼻の先だ!
大小の魔物がおり詳しい数は解らないが王都をぐるっと包囲できるほどの数だ。
明らかにこちらの戦力よりも数が多い!
「城壁の上に魔導兵や弓兵、投石兵などありったけ配置しましたが・・・、防ぎきれる見込みはありません・・・。」
「・・・魔物の軍勢を率いている者は?」
これほどの大群がきちっとした距離を保って城を包囲している。
たしかに何者かが魔物の群れを率いているのだろう。
「ここからは確認できません。すぐに襲ってこないところを見ると、陛下と接触したいのか、それとも攻め入る期をうかがっているのか。」
グレイブマン将軍の言う通り、これほどの戦力があれば我々など一ひねりだろう。
「なぜ王都が包囲されるまで報告が入らなかった!?」
たしかに国外から攻め入って来たのなら必ず陛下のもとへ連絡がいくはずだ。
まるでいきなりこの城の周りに軍勢が現れたかのようだ・・・。
「わかりません・・・。気づけばこの状況でございました・・・。」
「ううむ。降伏すれば国民の命は助けてもらえるだろうか・・・。」
降伏・・・。戦っても勝ち目はないと陛下はお考えなのだろう。
しかし、魔物に降伏してもひどい目にあわさせれるのは明らかだろう。
どっちみち死ぬことになるなら騎士として戦って散りたいものだが。
「話の通じる者がおればですが。あれほどの大群を率いているのです、かなりの知性を持つものがいるのでしょう。」
「・・・!陛下、あれを!」
将軍と陛下が話しあっている最中魔物の軍勢の中から何者かが一人こちらへ向かってきているのが見えた。
奴らからの使者だろうか。
「どうやら奴らから接触を図ってきたようだの。」
向かってきたものは凶暴そうな黒馬にまたがり全身に黒い甲冑を身にまとっていた。
一見人のようにも見える。
「この国の代表者をだせ!交渉をしようじゃないか!」
「すでにここにおるぞ!貴殿があの軍勢の代表か!」
国王陛下はすぐに黒甲冑の男と会話を始めた。
国民の命を左右する重要な交渉だ。
「そうだ!魔神デルシウス様より軍を預かっている!まあそれはさておき・・・。貴様らの国に転生者と呼ばれるものはいないか!」
黒甲冑の男は意味の分からないことを言い出した。
転生者?生まれ変わった者?
この国に転生者がいたとしたらなんだというんだ。
「すまんよく意味が解らなんだ!転生者とはなんだ!」
「別の世界からこの世界にやって来た人間のことだ。普通の人間に比べ異常なまでの強さを誇ったり、特別な能力をもっていたり、前世の記憶があると触れ回っている者もあやしい!」
黒甲冑の男はそのようなことを言っているが全く信用できない。
もし転生者とやらを差し出せば我々を見逃してくれるのだろうか?
「すまんが転生者とやらのうわさを聞いたことはない!」
「そうか、ならば念のため攻め入らせてもらう。命に危機が迫れば隠れていることも出来ないだろうからな。」
「なっ!」
結局こうなるのか。戦うよりほかに道はないのか。
「まて!国民に危害を加えるな!」
「その国民に紛れ込んでいる可能性があるだろう。」
「ぐぬぬ、この悪魔め!」
いよいよ戦いになる、覚悟を決めたその時だった!
「あの~、すいませ~ん。」
「「「!?」」」
後ろを振り返ると兵士の制止を無視して一人の青年が階段を上ってきていた。
「その転生者って俺のことだと思うんですけど。」
陛下に向かって無礼な口を利く狼藉者だ!
見たことのない衣服を身にまとっている。肌の色から東方出身のものか?
「貴様!国王陛下に向かって無礼な口を!」
私は青年に怒号を飛ばした。
しかし青年はひょうひょうとした態度で。
「すいません、でも俺のスキルならあいつらなんて簡単に倒してやりますよ。」
こいつ馬鹿か?
オーガやサイクロプスなども兵士十数人で囲んでようやく倒せるかどうかの強さを誇る。
そんなレベルの魔物が数えきれないくらいの大群で押し寄せているのだぞ!?
「お前は戦士には見えないな、どうやって奴らを倒すんだ?」
「まあまあ見ていてください。では、よっと。」
何と青年はジャンプして城壁の外へ飛び出していった。
「なにっ!?」
15mある城壁だぞ!死ぬ気か!?
しかし青年は我々の心配をよそにすたっと無傷で地面に着地した。
「な、何者じゃあ奴は・・・。」
「あれが魔物が言っていた転生者なのでしょうか・・・。」
青年はスタスタと黒甲冑の男のところへ歩いていった。
「俺が転生者だけどどうする?戦うか?」
「貴様自分が転生者だというか。ならば力を見せてもらおうか、オーガよ!こいつをやってしまえ!」
後ろの軍勢の中からオーガが一匹飛び出してくる。
オーガは身長3mを超す魔物で、人食い鬼と恐れられていたそうだ。
頭部からは2本の角を生やし、手には丸太のような棍棒を持っている。
「やれやれ・・・。こんな雑魚と戦えっていうの?」
「オオオオオオオオオ!!!!!」
オーガは棍棒を振り上げて青年にむかっていく。
しかし青年は避けるそぶりを見せない!
「よけろ!死ぬぞ!!!」
私は声を上げたが棍棒は無情にも少年の頭上に振り降ろされた。
どごおおおおおん!
棍棒の振り降ろされた場所はものすごい衝撃で砂煙が待っている。
もろに受けてしまってあれではもう生きてはいないだろう。
砂煙が徐々に消えていく。しかしそこに会った光景は恐るべきものだった!
なんと青年は片手でオーガの棍棒を受け止めていたのだ!
「な、なにいいいい!?」
グレイブマン将軍が素っ頓狂な声を上げたが無理もない。
あんな細い腕で自分の身体より大きい棍棒を受け止めてしまったのだから。
「今度は俺の番ですね。」
ばっきいいいいいいいいいいいい!!!!!!!
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
青年がオーガに飛びかかり胸元に一発パンチをお見舞いすると、オーガの胸元はえぐれ、後ろに吹き飛んで行った。
城壁の上の私達はみんな目を丸くしてそれを見つめていた。
「これで俺の力は解ったかな?ちなみに今のはただ力任せに殴っただけだよ?」
「「「うおおおおおおおおお!!!!!!」」」
見ていた兵士たちから歓声が上がった!
彼がいれば勝てる!皆がそう確信した!
「スキル・『通信』。デルシウス様、転生者を発見しました。」
黒甲冑の男は遠くの誰かへ連絡を取っていたが皆の歓声でこちらには聞こえなかった。
「次の相手はアンタかな?」
彼は余裕綽々の態度で黒甲冑の男に話しかけた。
「いや、お前の相手は魔神デルシウス様がなさるそうだ。」
「魔神?なんか強そうだなぁ。はあめんどくさ。」
ブオオオオオオン
次の瞬間、青年の前にゲートが開いた。
遠くからでも一瞬でテレポートできる魔法だろう。
その中から一人の魔物が現れた。
見た目は人に近いが体は大きく頭からは二本角が生え、全身に黒の鎧にマント、長い爪は何でも引き裂いてしまいそうだ。
これが魔神デルシウスだというのか。
「こやつが転生者か・・・。」
低くドスのきいた声で魔人は黒甲冑に尋ねた。
「はっ、この貧弱な体に似つかわしくない強大な力に、生意気な態度、間違いありません。」
「分かった、おい小僧、おれが息の根を止めてやる!」
「はぁ、この世界に来ていきなりラスボスとか、この先張り合いなくなるなあ・・・。」
魔人を目の前にしても彼は余裕の表情を崩さない。
絶対に勝てる勝算があるというのか。
「言っとくけど俺には勝てないと思うよ?『不老不死』って言うスキルをもらってるからね。しかもレベルも99でマックス。職業の武闘家とバトルマスターもレベルマックスだし、あんたも多分一発で倒せると思うよ?」
「それは楽しみだ。来い。」
彼はめんどくさそうにしながらも魔神デルシウスに向かって突っ込んでいった!
「じゃあ早く終わらせてあげるね、武道技『星砕』!」
彼の拳が眩く光り、ものすごい速さで突きが繰り出される。
遠くから見ていても物凄いパワーだ!魔人といえどもアレをくらえばただでは済まないだろう!
ぺちん
「!!?!??!???!」
魔人はダメージを受けるどころかビクともしていない!?
そして彼はここから見てもわかるくらい動揺している!
あたふたしてもう一度技を繰りだろうとしている。
「なんで効いてないんだ!?くそ!『天龍脚』!!!!」
今度は飛び上がり足技を魔人の頭めがけて繰り出す!
「ふんっ。」
ブシャアアアアアアアアア!!!!
「わあああああああああああああああ!!!!!!」
今度は血しぶきが舞った。
しかしそれは魔人の血ではなく彼の右足が吹き飛んでの物であった。
ドシャアアアアアア
「!?・・・?・・・!!!」
地面に叩きつけられた彼は何が起きたのか分からないようであった。
しかし徐々に襲ってくる痛みにより自分の身に何が起こったのか徐々に理解し始める。
「うあああ・・・!!!熱い!痛い!痛いよおう・・・!!!」
地面に叩きつけられた彼は膝あたりから無くなった右足をかばう様に身を丸めている。
「顔に汚い足を近づけるのはやめてくれ。まあそれ以外なら構わんぞ、さあかかってこい転生者よ。」
魔人は血の付いた右手の血を払いながらそう言った。
彼は!?
「ひ、ひいいい!?治らない!??!?不老不死になったんじゃないのか!??!?」
「どうした来ないのか?さっきの威勢はどうした?」
酷い!魔人はもう彼が戦う意思が喪失しているのが分かっていて、それでもなお彼を戦わせようとしている!
「スキル!くそ!どうして・・・、うああああああ・・・・!!!」
彼の足からはどんどん血が流れ出ている、早く止血しないと死んでしまう!
「ふふふふ、一ついいことを教えてやろうか?」
いいこと?
「この魔神デルシウスには二つの特殊な能力がある。一つは人間に命を絶たれた魔物達をこの世に呼び戻すことが出来るというもの。」
死んだ魔物を生き返らせる!?そんな禁断の術を使えるというの!?
だからとっくの昔に絶滅したはずの魔物がこんなにたくさんいるというのか・・・。
「そしてもう一つは、努力で得たのではない偽りの力を無効化するというもの。」
「な・・・なにい・・・!??!」
「分かりやすく言えば転生で得た力、お前らの言葉でチート能力。それを無効化できるということだ。」
「ひ・・・ひいいいいいいい!!!!!たすけてえええええ!!!!」
彼はこちら側に何とか逃げようと地面をはいつくばっている。
助けてあげたい!でも私では何もできない・・・。
「正直に言うと私はそこまで強くはないぞ?勇者とまではいかなくとも歴戦の勇士なら私を殺せるだろう。だが・・・」
「やめてえええええええええええええ!!!!」
ぐしゃ
「何の努力もせず力を得たお前ら転生者でかなう相手ではないということだ。」
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