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私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
1章~普遍的共存の中に私たちがいる~
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9話『博士の好物が特売デー』

 「あー!しまったー!!」


大きな声を出して叫ぶ白衣姿の男は、椅子から勢いよく立ち上がった。


「どうしたのですか?左近博士、いきなり大きな声を出して驚くではありませんか」


「アンドロイドに驚くとかないだろ!A-ジョッシュはスケジュールをインプットしたはずだろ?どうして教えてくれなかったんだよ!」


「スケジュール?何の話ですか?」


とぼけた顔をするA-ジョッシュに左近博士は怒りをあらわにする。


「今日は僕の大好きなチョコアイスクリームの特売デーだろー!!」


「仕事以外のスケジュールは知りません。あなたが忘れていただけです」


店舗セール日程と博士スケジュールの相違を断固として言い切る。

そして自分の職務を全うする。


「あー!!あの店は並ぶから嫌なんだよ!しかもこの時間だったら売り切れてしまうじゃないか」


子供が嘆くような言い草に呆れてしまう。


「あなたそれでも大人ですか?」


「君は嫌なことを言うね。僕はチョコアイス大好きな、まだまだ若い20代の青年であり、博士だよ!」


「何の功績もないアンドロイドの研究博士・・・。ただのアンドロイドヲタクでしょう」


左近博士は頭をかきむしり奇声を発する。

平気で持ち主のダメなところを指摘するようプログラミングされたA-ジョッシュは自分の仕事をいったん保留にして、買い物の支度をする。


「どこにいくんだよ。仕事中だろ?」

落ち着かない博士の姿は仕事に集中していない証拠だ。


「優先順位が変わりました。仕事は後にしてチョコアイスクリームを買ってきます」

ぼさぼさ頭で目が点になる博士は、状況を察した。


「そうか・・・。チョコアイスクリーム5個買ってきてくれ」


「承知いたしました」


研究室は資料の山で足場もないほどだ。

毎日資料とにらめっこの博士の顔はげっそりしており、髪の毛が乱れている。

一本線で描いたような顔立ちだが、目はキツネのようにつり目である。

塩顔と言われるようだが、清潔感が無いのは残念極まりない。


しかし、それほど研究に没頭するには理由があった。


それは一つの資料が物語る・・・。



『スパイプラグの構造』



その資料には、A-米井澤の首元に突き刺さったプラグと同じ形の物が図面で記されていた。


(このままでは間に合わない。時間が足りない)



切羽詰まる思いが博士にはあった。

大好きなチョコアイスクリームの特売デーを忘れてしまうほど、と言ってしまうと気が抜けてしまうが、余暇はもちろん、食事、睡眠時間を惜しむほどだった。



世間を騒がせているニュースは【マリオネット】の存在だ。

しかし、世論はことに関して黙殺する。危機感が全くと言っていいほど無い。いわゆる政治という舞台には話題に上がらず、マリオネットの主張(アンドロイドの根絶)はワイドショーで視聴率を取る程度であった。


しかし、アンドロイドを研究する左近博士は、マリオネットが使用しているスパイプラグが危険極まりないと察知した。


「アンドロイドがこの世から消えてしまう・・・」


スパイプラグは小さく、簡単な構造に思えたが、

アンドロイドを乗っ取るほどの技術が、あのプラグの中に収まっている。


研究を重ねても、プラグの構造がどうなっているのか答えにたどり着かない。

スパイプラグの危険性は専門家でも認知しておらず、

危機感を抱いていたのは左近博士だけであった。


頭を抱えて天井を見上げる。

天井には何も書いていない。

資料から目をそむけたくなる時は天井を見上げるのであった。


そういう時にも時間は刻一刻と過ぎていくのであった。




そのころ、大学キャンパスにはいつもの顔ぶれが団らんしていた。


授業に向かおうとする菅原にA-真子姫が話しかける。


「菅原殿、今日はチョコアイスクリームの特売デーです。おすすめのアイスクリームなのですが、お買いになりますか?」


「チョコアイスクリームの特売デー?うむ、甘いものが食べたくなってきたから頼んでもいいか?」


「はい!喜んで!!」


満面な笑顔で返事をした。


「A-真子姫よ、気を付けていくのだ。拙者は菅原殿の護衛をする」


「ありがとう、A-権蔵、俺は授業だから中に入ってくるんじゃないよ」


「御意!!!!!」


それぞれの持ち主から買い物を頼まれたA-ジョッシュとA-真子姫は同じ店へと足を運ぶのであった。


そして同じ時間に居合わせた。

店は客が押し寄せており、順番に列に並ぶよう店員が誘導する。


A-ジョッシュの前にA-真子姫が並ぶ。


2体のアンドロイドが言葉を交わす。


「どうも、はじめまして。A-ジョッシュです。あなたはチョコアイスクリームをお買い求めですか」


手の甲を見せて、自分がアンドロイドである証拠を相手に見せる。


「はじめまして。A-真子姫です。えぇ、チョコアイスクリームを買いに来ましたわ」


微笑みながら言葉を交わすが、こともあろうか客からの案内がアンドロイドを困惑させた。



「チョコアイスクリームは残りわずかとなりました!後ろの方で並んでいる方は申し訳ございませんが、足りない恐れがありますのでご了承くださいませ」


A-ジョッシュとA-真子姫の目つきが変わった。


手に汗握る攻防が始まるのかと思いきや・・・

アンドロイドは汗が出ないのがオチである・・・。



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