8話『操るものは何者か』
日常は何の変哲もない、景色もいつもと変わらない。
多くの人でにぎわう繁華街に一体のアンドロイドがいた。
そのアンドロイドの名はA-米井澤。男型であるアンドロイドは持ち主に買い物を頼まれ、一体で外を歩いていた。
買い物袋を両手に持ち、歩いていると黒色のスーツの男が背後に近寄られた。
一瞬の隙だった。
スーツの男はポケットから小さなプラグをA-米井澤の首筋に打ち付けた。
A-米井澤の目が瞬間的に真っ白になり、身体が小刻みに震える。
「いいか、よく聞け。お前はもう、俺たちの操り人形だ」
スーツの男はそう言って、ゆっくりと背後から離れていった。
そして無線を使ってヒソヒソと話す。
「プラグ接続完了。データ搾取と強制操作を」
「接続確認。アンドロイドの名はA-米井澤、己よ、操り人形となれ」
直立不動の状態となったアンドロイドはゆっくりと手を動かす。
そして首を大きく回し、前を向いて眉間にしわを寄せた。
「私は・・・操り人形・・・」
手に持っていた買い物袋を床に落とす。
周囲の人は何事かと思い、目線を注いだ。
「何よ、あれ」
「買い物袋を落としたわ」
「拾わないのかしら」
「きっとアンドロイドよね・・・」
落とした買い物袋を拾わず、周囲の人たちを睨みつける。
そうすると周囲の人は怪しい動きに困惑して離れていった。
「よし、ワゴンに乗ってもらい、連れ去ろう」
「アンドロイドは操作できる。成功だな」
「自分からワゴンに乗りに来るんだ。誘拐にはならないだろう。ケケケッ」
怪しいスーツの男たちはワゴンに身を潜めて、A-米井澤を操作した。
ゆっくりとワゴンの方に歩かせて、中に乗せる。
そのまま、ワゴンはエンジンをふかして繁華街を出ていった。
「とうとうアンドロイドを5体も集めてしまったな」
「ボスは何を企んでいるのだろうか」
「まぁ、気にすることは無い。俺たち【マリオネット】はアンドロイドをこの世からなくすのが目的だ。ボスも同じ目的なのだから、何でも従うさ。俺たちは社会に見放された居場所のない者同士なのだから」
「今更、後戻りはできないってか」
ワゴンが向かった先は、何らかの廃墟だ。
人が出入りしないような場所にワゴンは停車した。
ワゴンの扉が開くと操られたA-米井澤が外に出ていく。
そして建物の中に入っていった。
その後ろをスーツ姿の2人が歩いていく。
「それにしても操作はどのようにしているんだ」
「俺の意志で動いているんだよ。プラグと俺の意志は連動している。頭の中で指示しているんだ」
「操作は難しいか?」
「簡単だよ。思い思いに動かせる」
「今度俺にもやらせてくれよ」
「あぁ、マイクロチップを頭に埋め込むだけだ。代わってやってもいいさ」
「頭にマイクロチップを埋め込んでいるって?痛そうだな。やめておくよ」
「ハハハッ。痛くないさ」
A-米井澤はスーツの男に簡単に操作されていた。
廃墟の建物の中にいた4体のアンドロイドが同時に振り向く。
「このアンドロイド達も、お前の捜査か?」
「そうだよ。同時に指示ができるんだ。違う指示を同時に出すことだってできる。面白いだろ」
じっと複数のアンドロイドが同じ方向を向いている。
「怖いな・・・」
「しかし、どうしてボスは俺たちに顔を出さない」
疑問を浮かべる男に杭をさす。
「ボスが誰だってかまわない。俺は多くのアンドロイドを操作させてもらえている。このアンドロイドを何に使うかはわからないが、この先が楽しみでならないよ」
怪しい笑みを浮かべて二人はこぶしを合わせた。
「アンドロイドの絶滅は俺たちの手にかかっているんだな」
「しかし、もっとアンドロイドが必要だと・・・」
「集めるのは簡単だ。また作戦があれば向かうぞ」
「ひとまず、次の指示を待つか」
そこに集わされたアンドロイドは無表情で、
マネキンのように仁王立ちしていた。
その姿は不気味で、命を吸い取られたように、中身が抜けた人形そのもののようだった。
「何と惨めだ。動かなければ本当にただのガラクタだな」
「これが本当のアンドロイドの姿だ」
怪しいスーツの男たちは高笑いをしてアンドロイドを見下げた。
「ただの人形め・・・ずっと操られていろ」
真っ暗な廃墟に立つアンドロイドは
魂を抜かれた生き物のように悲壮感を漂わせていた。
「さぁ、次の指示があるまでのんびりするか」
スーツの男はあっけらかんとしており、
無慈悲にアンドロイドを眺めていた・・・。
「涙も流さない人形を、生き物のような扱いをしやがる世の中が哀れだ」
憎らしい顔を浮かべてスーツの男はアンドロイドに指示を出す。
「我々は操り人形・・・意思を持たない。今日から我々はあなたの操り人形・・・」
スーツの男がアンドロイドにそう言わせた。
「アンドロイドはこうあるべきなんだよ」
「確かに、本来はこうあるべきだ」
二人は話を合わせるように意見交換する。
すると建物奥から大勢のスーツ姿の男が出てきた。
「私たち【マリオネット】はアンドロイドを操り、大きな企みをもっている。どうかボスの言うとおりにやってみようか」
スーツ姿の男たちは腕組をして外の景色を眺めていた。




