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私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
1章~普遍的共存の中に私たちがいる~
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4話『義母ではありません。義姉でもありません。』

 ピンポーン♪

インターホンが屋内に鳴り響く。


「お、孫が来たかのう。A-桜小町よ、迎えてあげてくれないか」


「かしこまりました」


玄関を開けると、鈴音大地が立っていた。

ボストンバッグを背負うことで腰が曲がり、いかにも重たそうにしている。


「鈴音大地さんですね。ようこそお越しくださいました」


「本当にアンドロイドだ・・・」


口をあけて、物珍しそうに全身を見回す。


「あまりジロジロ見ないでくださるかしら」


「あっ!ごめんなさい」


アンドロイドを興味津々に見入ってしまうのは若気の至りである。

しかし、姿は人間であって、ジロジロ観察するのは傍から見たら滑稽だ。


「お荷物をお持ちします」


重たそうにしている姿を目の当たりにすると手伝うようインプットされているのだろうか。

しかし、女性に荷物を持たせるのは申し訳ない気持ちになる。


「いいよ、自分で持てるから」


そう断りを入れても、A-桜小町は片手で軽くボストンバッグを持ち上げた。


「筋肉マンかよ」


筋肉はない。ロボットだ。

しかし、呆気にとられるのは無理もないだろう。


「こちらです」


颯爽と歩き始めて、鈴音大地を案内した。


奥へ歩くと重次郎がくつろいでいた。


「大くん、よくきたな。まぁ挨拶がてらお茶でもしようじゃないか」


そう言ってA-桜小町にコーヒーを持ってこさせる。

祖父はいつも孫のことを(大くん)と呼んでいる。

成長して20歳になった今でもその呼び名だ。


「A-桜小町ちゃん、こいつが孫の大くんだ。なかなかのイケメンじゃろう」

なんだか飲み屋の姉さんに対する絡み方だ。


「大ちゃんって呼んであげてくれ」

そう言うと鈴音大地はコーヒーを吹き返した。


「なんだよ!その呼び名は!恥ずかしいからやめてくれよ」


「よろしくお願いします。大ちゃん」


そう言われると照れ隠しもできず、顔が真っ赤になる。

とても違和感なく、自然な感じに言われて心臓がドキドキした。


「・・・よろしく」


「なんじゃ!アンドロイド相手に照れているのか!まだまだ子供じゃのう!」

大袈裟に言ってからかう重次郎は涙を流すほど大笑いした。


「面白いのう。まぁ大くん、このアンドロイドはお手伝い型アンドロイドじゃが、良き遊び相手にもきっとなってくれるわ。仲良くやってあげてくれ」


鈴音大地はA-桜小町の顔をじっと眺めた。

それに気が付いて、ニコッと笑い返した。


(まじで、人間じゃねぇか・・・)

笑顔で見つめられると、また照れてしまって顔が赤くなった。

コーヒーを飲む手が止まってしまい、飲むのを忘れるほど

アンドロイドの印象が素敵でならなかった。


アンドロイドであっても、

見た目は人間で、それでいて綺麗な顔立ち。細い一本一本の髪の毛は艶やかだ。

肌も白く透き通っていて、触ると柔らかそう。

目も繊細で、睫毛も、瞳孔も人間そのもののようだった。


まるで夢にでしか出会わないほど整っている顔立ち、また容姿は

一目ぼれしてしまうほど綺麗だった。


(あれが・・・人間だったらな・・・)


「どうかしましたか?」

考え事をしている鈴音大地に心配そうに声を掛けるアンドロイド。


「いや!何でもない!何でもないから気にしないで!」

両手を挙げるほど不意を突かれて焦る鈴音大地は、たいした返事もできなかった。



これからアンドロイドと一つ屋根の下で一緒に生活をする。

まぁ、元気な祖父も一緒だが・・・。


これからの生活が少し楽しく思えてくるのも本心だ。


しかしながら、大学で勉強するために、

こうして祖父の家にお邪魔してきたのだが、

はたして勉強にきちんと向き合うことができるのだろうかと

心配になる鈴音大地であった。


「A-桜小町ちゃんよ。ついでだが大くんに勉強も教えてやってくれないかの」


「勉強!?」

大学生の鈴音大地がその言葉に一番驚いた。


「あら、アンドロイドは勉強を教えることは不可能と思っているのかしら?私は700の辞書から、小説や実用書まで何でも記録にございます。それに様々な外国語にも対応していますので、わからないことがあったら何でも言ってください」


一瞬で鳥肌が立った。

勉強は逃れられない!と言い切れるほど秀才な者、いや物が立ちはだかるとなると、

教学にも向き合わざるをえない。そう思うと驚愕だ。


「嫌でも賢くなりそうだな・・・」


「A-桜小町ちゃん!みっちり勉強指導を頼むよ」


そう言う重次郎を鬼の形相で睨みつける。

鈴音大地は勉強が苦手で、勉強机に向きあうのが嫌で、嫌で仕方ない。


「単位を落としたら激怒しますわよ」


恐ろしいその言葉は耳を塞いで聞いていないふりをした。



一気にコーヒーを飲み干して、鈴音大地は立ち上がった。


「とにかく、これからよろしくお願いしますよ!A-桜小町さん」


「えぇ、よろしくね。大ちゃん」


二人は向き合って挨拶を交わす。

これからの生活を良くしていこうと誓いを立てつつ、

なるべく、勉強は堪忍したいと目で訴える鈴音大地であった。


外は夕暮れで赤い日差しが部屋を包み込んだ。

その赤い光はA-桜小町の皮膚を照らす。

芸術的幻想。

不可思議な景色。

目の前にいる物体はいったい何者なのだろうか。

これは夢ではない。現実なんだ・・・。


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