37話『誰の為に・・・』
一つの部屋にはユミエと鈴音がいた。その二人は距離を置いてそれぞれ立つ場所を動かない。二人はそれぞれの身体、顔、目を見ていく。
マリオネット、サファイア=ファミリアという立場、簡単には懐に入れない事情を抱えて、相手を知りたいという思いだけが募っていく。
一つ屋根の下でずっと一緒にいるというのに今まで言葉を交わすことは無かった。
鈴音からしたらユミエの身柄確保は重要案件で、同じ大学の友達である田邊が率いる組織の一員を部屋にかくまっているのだから気が気でならない。
一方、ユミエは意気揚々と一つの部屋を自由に動き回る日々だった。
しかし、サファイア=ファミリアの一員が部屋に入ると警戒心を持って相手を見定める。
それでも鈴音の存在には違和感を持っていた。
なぜ、穏やかで平然と人に接する鈴音が、この一発触発ともいえる危険を抱える組織に身を置いているのか。
ユミエはサファイア=ファミリアの存在と鈴音の存在が受け入れられない現象に思えた。
「あなたはなぜこの組織に属しているの?」
重い口を開いたのはユミエだった。
お互いが牽制しあう中、やはりユミエが先制するように疑問をぶつけた。
そっと肩の荷を降ろすように力を抜く。
それでもユミエに近づくことなく鈴音が答えた。
「僕はアンドロイドを大切に思っている。どうしても僕の人生にアンドロイドを消してしまう出来事はあってはならないんだよ。アンドロイドがいるからこそ、僕がいる。そのような人生を毎日過ごしているのだよ。それを君が属するマリオネットは反対している。アンドロイドの存在を消そうとする組織を黙って見過ごすわけにはいかないから、今君はここにいるのじゃないか」
長々と話をする鈴音にユミエは耳障りに思ってソファにぐったりと座る。雑音を聞くように膝に肘を置いて、その手で顎を押さえた。
「あなた長ったらしく話すのね。鈴音君だっけ?私が知りたいのは、なぜそこまでアンドロイドを好きになれるかってこと」
ユミエはむすっとして、口が「へ」の字になった。
その口を遺憾と思った鈴音だが、首を振った後にまた話し出す。
「僕はおじいちゃんのお手伝いロボットとして働くα-桜小町が好きなんだよ。人間をとにあく大切にしてくれる。それにおじいちゃんは救われているし、僕も勉強のスケジュール管理をしてくれるα-桜小町がいなくてはならない存在だって思う。今だって戦わせて申し訳ない気持ちでいっぱいなんだよ」
「ふーん」
興味があるのかないのか、冷たい反応をするユミエは目を細めた。
「色々と面倒みてもらっているのね・・・素敵じゃない」
まるで他人事のように受け止めるユミエに、鈴音は心の距離を感じた。
「つまらない話をしてごめん。君はアンドロイドのことが嫌いだったね」
「いいの、私が聞いたのだから」
ユミエはテーブルの上に置かれたミルクをグッと飲み干した。
「ここの博士が作る牛乳が好き。美味しいよね」
(牛乳・・・)
鈴音は飲み終えた後のカップを手に取って部屋を出ていこうとした。
「私はアンドロイドが大っ嫌い。その気持ちは一生変わらないから」
後付けするようにユミエは鈴音に言葉を投げかけた。
鈴音は背中を向けたまま話す。
「どうぞご勝手に。君の気持ちは君にしかわからない。決めるのも君だ」
そしてドアノブに手をかけて出ていく瞬間に鈴音は思い出すように立ち止まる。
「そうそう、このミルクは作ったのはアンドロイドのA-ジョッシュだ。右近博士じゃないよ」
「ふん」
嘘でも本当でもどうでも良い。聞いても聞かなくてもどうでも良い。そんな言葉もユミエには大きく引っかかる。アンドロイドが作ったミルクを「好き」と言ってしまったことに心で後悔した。
それでも感情を隠すように平然を装った。
部屋の外にはA-ジョッシュとα-桜小町が待っていた。
「僕が作ったミルクは喜んでくれましたか?」
気にかけていた相手の反応を、鈴音に問いかける。
「あぁ、美味しいって言っていたよ。また作ってあげてくれ」
「ユミエさん、本当はいい人なのかもしれないね」
α-桜小町は何かを悟るように上を向いた。
「いいや、ユミエが良い奴だとしてもα-桜小町とA-ジョッシュは近づいてはならないぞ」
しつこいくらいに鈴音はアンドロイドに足止めさせた。
あの部屋には一人の女が居座っているだけだ。
しかし、アンドロイドが部屋に入るとその女は暴走するだろう。
想像以上にアンドロイドを拒絶している現実が
マリオネットを企てた。
気を付けてユミエと接しないと足元をすくわれるに違いない。
鈴音は部屋にアンドロイドが近づくことを警戒した。
「この部屋の中に私が入ってはいけないのね」
「あぁ、ダメだよ。相手はマリオネットの人間だ。話していてもアンドロイドを嫌っているのがわかる。α-桜小町はここに入ってはいけない」
「大ちゃん、部屋に入って話してみないとわからないじゃない」
「ダメだ」
部屋に立ち入ろうとするα-桜小町に鈴音は手で押さえて止めようとする。
その手を払いのけてα-桜小町は扉に手を伸ばした。
「何をしている!ダメだと言っているだろう!」
その言葉をものともせず、
α-桜小町は部屋の中に入った。
「知らないぞ~」
A-ジョッシュは思いもよらない展開に動揺を隠しきれずにいた。




