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私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
4章~新たな刺客β型に対抗すべく、更なるサファイア改造を~
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35話『俺の名はβ-矢内』

 いつからだろう。アンドロイドが日常に当たり前のように生活していて、

人間と一緒に歩んでいるのは。


アンドロイドは人間の要望に応えて、お手伝いをする。

買い物、家事、仕事。


人間が大変に思うものを淡々とこなすアンドロイドが

増えに増えて、人間とアンドロイドの比率は半分半分となっていた。


仕事までもアンドロイドがこなすようになってからは

優雅に生活する人間がいる一方、仕事が無くなって生活が困難になってしまった人間もいた。


必要ないといわれてリストラにあい、仕事も見つからず

路頭に彷徨っていた一人の男がいた。


その男の名は矢内瑠偉(やうちるい)

彼は40歳になってからいきなりのリストラ宣告を受けた。

今まで通っていた職場も労働者をアンドロイド化に進めていく方針となり、

人間をリストラしていくことになっていった。

その犠牲となった一人が矢内だった。


リストラになってからは、

ハローワークに通い続けても採用を得らない。


生活困窮になり、いつしか矢内は空を見上げることが無くなり、

ずっと都内のコンクリートを見るようになっていた。


グレーの床は細目に黒、白の小粒が重なり合っていた。


その小粒を凝視しても何か現れてくるわけではない。


それでも矢内はずっとその小粒を見続けていた。


「このままでは生き続けていくことができない。どうなってしまうのだろう・・・」



独り言はうつむくままコンクリートだけに囁かれた。

その独り言は響き渡ることもなく、コンクリートだけに聞かされたようだった。


矢内は人がいないビルの階段を登っていた。

誰もいないビルの階段は矢内を後押しすることは無い。

矢内一人が一歩一歩自分の足で登り続ける。


外は真っ暗だが、階段の踊り場だけが蛍光灯で足元を照らしていた。


目先を上に向けても壁となっていた。


何段も登り続ける矢内はある数字を見た。

「F7」と表示されている壁の元で足を止めた。


「7階なら死ねるだろうか・・・」


さらに上に行ける階段は無く、外に繋がる扉が一枚あった。

矢内はそっと扉を開けて外に出た。


下から吹き上げる風が矢内の足を包み込む。


その風をものともしないように足を動かして

フェンスに手を添えてビルの真下をのぞき込む。


自動車が何台か駐車しているが、人は誰もいない。


矢内はフェンスをよじ登ってビルの角に直立した。


「くそ・・・何も言い残すことは無い。俺なんて必要ない人間なんだ・・・」



一粒の涙が靴の上に零れ落ちた。



「さようなら・・・」



目を閉じてフェンスに手を離した。

一歩前に進めば下に落ちる。

風がまたもや矢内を下から吹き上げた。


矢内の足はすくんでその場でかがんだ。

恐れおののき、矢内はもう一度フェンスに手をかけた。


「ダメだ・・・」


その場でしばらくかがんでいると、

先ほど矢内が開けた扉から髪の長い一人の女性が出てきた。


「ごきげんよう。あなた名前は?」


楽観的に話しかけてくる女性はゆっくりと矢内に近づいてきた。


「それ以上近づくな!」


矢内が女性に叫びかけた。


女性は立ち止まって髪をかき上げた。


「あなたは今から飛び降りようとしているのね」


「だからって何だって言うのだ!止めようとしても無駄だ!どうせ俺なんて生かしても生きる意味なんてないんだよ!」


矢内は震える足を鎮めるようにゆっくりと立ち上がる。



「あなたは死なない。私が生かすのだから」


「何を・・・わけのわからないことを・・・」


「良いわよ。飛び降りても。私に借りができるのだから」



わけのわからないことを言う女性に矢内は怒りをこみ上げた。


「最後までわけのわからない世の中だ。お前もアンドロイドに人生諸々飲み込まれるがいい!」


そう言って矢内は女性を背に向け、フェンスから手を離した。


思いっきりビルの端を踏み切って下へと落ちていった。



女性は腕を組んで囁いた。


「誰かはわからいけど・・・私があなたを生き返すわ」



ビルの7階から飛び降りたはずの矢内は目を開けると先ほどの女性が見つめていた。



(夢か・・・ここはいったい・・・)



「おかえりなさい」


またもや女性は髪をかき上げて矢内の頬に手を添えた。


「あなたは死なないって言ったでしょう・・・」


矢内は眼球を動かして自分の身体を見渡す。


今までの自分の身体とは違っていた。


人間と同じ身体のようだが、過去の自分と違う身体だ。


「これはもしかして!!!」



「おかえりなさい・・・β-矢内さん」


「なぜ俺の名前を!!β・・・?どういうことだ!?」


口だけを動かして矢内が女性に話しかける。


女性は癖のように髪をかき上げて話し始める。


「あなたは生き返ったのよ。β型のアンドロイドとして」


「俺がアンドロイド!?飛び降りたのに生きているっていうことか」


矢内が体を起こして両手で顔を覆った。


(少し顔の形が俺と違うような・・・)


矢内が壁に掛けられた鏡を見た。


すると今までとは全く違う自分の顔の形に驚く。

手で口を押えて目を見開けた。


「いったい俺は誰なんだ!!」


全くの別人の顔だった。


整った眉、キリっとした目つき。

10歳若返ったような顔立ち・・・。


「言ったでしょう。あなたはβ-矢内だって」




矢内はゆっくりとベッドから降りて立ち上がった。


今まで味わったことのない頑丈な身体を味わうかのように。


「俺の名は・・・β-矢内・・・」


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