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私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
4章~新たな刺客β型に対抗すべく、更なるサファイア改造を~
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34話『ユミエの過去』

 静かな空間、外で起こっている出来事も忘れてしまうくらいに落ち着いている。

ユミエはゆっくりと目を開けて身体を起こした。

自分の存在を、過去の行動を振り返りながら思い出す。


(私は・・・気絶してここにきたのか・・・)


「目を覚ましたようだね」


コーヒーカップを片手に、もう片方の手でマドラーをくるくると回す。


「コーヒー飲むかい?」


右近博士がそっとユミエの顔にコーヒーカップを近づけた。


ユミエはそっぽを向いて一言も発さない。


「そうか、まだ僕のことを信用していないね」


ユミエの態度を包み込むように、博士は微笑んだ。


「僕の名前は右近真一だ。ここでアンドロイドの研究をしている。君の名前を教えてくれないか?」


そっと振り返ってユミエの表情を見つめた。不思議な生き物を覗き見るように、興味を示しながらに。


「私はユミエだ。お前もサファイア=ファミリアのメンバーだろ・・?」


「あぁ、そうだよ。僕がサファイア=ファミリアの右近博士だ」


コーヒーカップを口に近づけて傾ける。


「美味しい。ユミエちゃんも飲めばいいのに~」


呑気にとぼけるようにコーヒーを無駄にお勧めしてきた。


「私はコーヒーが飲めないのだ!・・・牛乳はあるか?」


「ユミエちゃんはミルク派なのか。・・・牛乳と言うところが可愛いね」


右近博士は冷蔵庫から牛乳を取り出して小さい片手鍋に注ぎ、コンロに火をつけた。


「ユミエちゃん、安心しなさい。サファイア=ファミリアは暴力的な組織ではない。酷い拷問なんて全くするつもりもないしね。だけど訊きたいのだよ。なぜユミエちゃんはアンドロイドを嫌うのかを・・・」


常に優しい顔で話しかけてくる右近博士に思わず口が開いた。


「アンドロイドはこの世に必要ない。人間を不幸にする人形だ」


ユミエの表情が暗んだ。


「それはいったいどうして?」


「私の家族はアンドロイドを買ってから関係が崩れた。アンドロイドを間に置くことで、夫婦の亀裂がより一層深まっていくのを目の当たりにしたの。アンドロイドの忠誠心は人間が求める理想の振る舞い。夫婦が相手に求めているモノよりも、完璧だったのかもしれない」


「両親はアンドロイドを買ってからどうなったのだい?」


「父はアンドロイドと一緒に家を出ていったわ。母は私を見放して家に帰ってこないまま。私は施設に入ってアンドロイドに世話をしてもらうことになったけど、周囲の人からはアンドロイドと出ていった父親の子供って言われて続けてきたの・・・」


アンドロイドによって、人間の生活は大きく変化していった。アンドロイドによって恩恵を受けた人間がいれば、反対にアンドロイドによって不幸となった人間もいる。


悲しい現実を受け止められなかったユミエは子供ながらに、世話をするアンドロイドをぶっ壊したそうだ。

苑麻施設を出ていき、自分で生きることに・・・。


自分一人で生きている時もアンドロイドが付きまとう世の中に嫌気がさしたのだ。


「アンドロイドを一生恨みながら生きているわ。もちろん今でもよ・・・」


「そうか・・・」


子供ながらに考え悩んでいた時期に支えてくれる人がいなかったのだろう。


アンドロイドをひとまとめに考えてしまうユミエに可哀想と思ってしまう。


「ユミエちゃんにとってアンドロイドは皆、同じなのかい?」


「あんなの全部同じ人形よ。心なんてないわよ」


「ユミエちゃんの言いたいことはよくわかったよ。いやなことを思い出さしてごめんね」


右近博士はそう言ってミルクが入ったカップをユミエに渡した。


「ありがとう・・・」


ちゃんとお礼を言うユミエに、右近博士は小さくため息をついた。


「またマリオネットに戻るつもりかい?そのつもりなら、引き止めるぞ」


ユミエがミルクを一口飲んで返答する。


「どうせ返してくれないでしょ。おとなしくしているわ。その代わりに、私の目の前にアンドロイドを連れてこないでね。ぶっ壊すのだから・・・」


アンドロイドの理解を得るのは、かなりの時間と説得が必要だと感じた。


「サファイア=ファミリアのメンバーにも伝えておくよ。とりあえずここで身柄を確保させてもらうから、済まないね」


「どうぞ、ご勝手に!」


そう言ってユミエはミルクをぐっと飲み干した。


本当にただの人間だ。特別な思考を持っているとするなら、それはアンドロイドを絡めた議題に関してのみなのだろう。


ただの人間なのに、武力を持って戦うほどの意志を沸き立たせてしまうマリオネットの存在は恐ろしい。


「ふぅ、疲れたわ…もう少し眠らせてちょうだい。戦いで身体が痛いの・・・あの糞ロボットのせいでね」


「糞ロボット・・・」


アンドロイドの悪口を聞いて右近博士は苦笑いをした。


ゆっくりとドアのそばに歩み寄り小さな声で話し始めた。


「A-ジョッシュ、聞いたか?この部屋に入ったらぶっ壊されるから入るんじゃないぞ」


「なんとまぁ、恐ろしい方でしょう。入らないように気を付けます・・・」


壁一つ挟んでアンドロイドがいることも知らずに、ユミエはぐっすりと眠り始めた。


マリオネットを根絶しない限り、ユミエはまたアンドロイドにたてつく凶悪な人間に返り咲いてしまう。


それを阻止するためにもサファイア=ファミリアの活躍に期待したい・・・。




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