33話『息もない跡地』
スパイプラグは司令塔がいないと使い物にならない。まるで、手が糸から離れた操り人形のように、スパイプラグが打ち付けられたアンドロイドは全く動かなくなる。
そのアンドロイドは動かぬ操り人形となり、何もかもを失う。記録もプログラムも拒絶し、息の根を止められた人形だ。
そもそも人形なんて息をしていないと、しかし生きているとも思わせない。魂が抜けた鉛もののようだ。
ぐったりとしたアンドロイドは160体にも及んだ。
司令塔を失うことで何もかもが終わったようだった。
真夜中の街中で、A-岩男に殴られてぐったりとする鮫沖と、完全に気絶してびくともしないユミエは絶望的な状態となっていた。
冷たいコンクリートに横となってくたびれて、天を向く。うつろな目を月の光が照らしていた。
「お前たちの悪行はこれでおしまいだ。アンドロイド警察が待機している。現行犯逮捕で連行されるのだよ」
A-岩男が捨てセリフのように鮫沖に言葉を投げかけた。
「・・・」
鮫沖が小さくつぶやく。
口元から微かに発するのが伺えた。
「・・・」
「どうした?何を言っている?」
「・・・終わりじゃねぇよ」
うつろな目が一瞬にして鬼の形相となる。月をも惑わす獰猛な瞳がA-岩男に向けられた。
鮫沖はすぐさま立ち上がり、瞬時に操り人形に指令を送り出す。
「α-権蔵!!食い止めろ!!」
菅原の命令に反応して、α-権蔵が全力疾走で鮫沖に襲い掛かる。
一気に距離を縮めて鮫沖の肩に掴みかかろうとした。
しかし、近くにいた操り人形がα-権蔵に立ちはだかり押し返された。
「何!?」
ものすごい速さで走ってきたα-権蔵を、アンドロイド3体が真後ろに飛ばした。
「奴隷ども!!俺を守りながらアジトに退散するぞ!!まだ終わりじゃねぇ!!」
4体・・5体・・・10体と操り人形となったアンドロイドが鮫沖に集まり、盾のように壁を作った。
そして走りながらリボルバーを縦横無尽に撃ちまくる。
その流れ弾は、同じ操り人形をも滅多打ちにするほど暴れまくった。
撃ちぬかれた操り人形を盾にα-桜小町は追撃をした。
α-桜小町が放った光線は、壁を作る操り人形に当たり、電撃を走らせショートさせた。
次々と操り人形を動かなくしたものの、代わりの操り人形が壁を厚くしていった。
「これじゃぁ、アンドロイドを撃ち抜くだけだわ」
「追撃を中止するんだ。俺たちサファイア=ファミリアもアンドロイド警察に捕まるかもしれない。ここは逃げるぞ」
鈴音の一言に皆が頷いた。
「私とα-ショコラは、倒れたアンドロイドからスパイプラグを拒絶する作業に取り掛かる。それからすぐに逃げるわ」
麗奈がそう言ってα-ショコラと辺りを散策し始める。
そしてα-真子姫は何も言わず、動かぬユミエの手を肩に回して抱えた。
足も動かず歩くことすらできないのを知ると、お姫様抱っこをして空を飛びだした。
飛んでいくところを菅原が見守り、そのまま無線を送る。
「α-真子姫、ユミエは一旦、右近博士の研究室に連れて行ってくれないか」
「承知いたしました」
一目散にスパイプラグの拒絶をし始めたα-ショコラを背に、
鈴音がA-岩男に話しかけに行った。
「俺たちはサファイア=ファミリアだ。アンドロイド警察には危害を与えない。どうか全員を追わずに逃してくれないか」
「君は病院で会った鈴音君だね・・・。今あのアンドロイドは何をしている」
「あれは、操り人形から元のアンドロイドに戻している作業だよ。どうか温かく見守ってくれないか」
「そうか・・・。マリオネットの敵対組織と言うことだな・・・」
そう言ってA-岩男が振り返り、自動車へと帰りだす。
背中越しに鈴音に言った。
「早く退散することだな。追手はこないと言い切れないのが私の立場だ。次に会う時は逮捕をするかもしれないから覚悟しておけ」
背中越しのその言葉は励ましを送っているように思えた。
「よし!一掃したところで俺たちも退散だ!!」
サファイア=ファミリアも街中を走り抜けて右近博士の研究所に帰ることにした。
走っていく姿をずっと自動車から定点観察をするアンドロイド警察も、追うことなくひたすらに車内待機する。
誰もいなくなり、ようやく自動車から出てきたアンドロイド警察はゆっくりと現場を捜査し始めた。
「販売店はボロボロだな。銃痕があちこちにある・・・」
「この戦火の中に飛び込むなんて到底できないな」
武器を持たないアンドロイド警察は手を打つすべが全くなかった。
自分の無力さにA-岩男が握りこぶしで胸を2度、3度叩く。
「お前はよくやった」
肩をポンと叩いてそう言ったのは鏑木撰だった。
「鏑木さん、アンドロイド警察はこれからマリオネットとサファイア=ファミリアにどう立ち向かうべきですか」
「それは私もわからない。試行錯誤して戦うさ・・・」
銃痕を指でなぞってため息をついた。
戦いの後は静まり返っていて、販売店はまるでゴーストタウンの一角のように、
無残な跡地となっていた。
「どうやら人間の犠牲者は出なかった模様だな。この争いで・・・奇跡としか言いようがない」
そう言い残して、アンドロイド警察は捜査に向き合った。
果たして捜査をしたところで、対峙できる相手なのかと考え悩むほど、
手が進まぬ作業となった。




