31話『堪忍しなさい。』
真夜中に数台の自動車が同じ向きで駐車をしている。
車内にはアンドロイド警察が身を潜めていた。
「いよいよマリオネット一斉逮捕の時が来たな!」
身をひそめながらも、車内にいる隊員に力強い言葉を放つ。
「静かにしろ・・・我々の存在がマリオネットにバレてしまったら全ての計画が水の泡だ。ここまできてようやくマリオネットの動向を突き止めることができたのだ。絶対に無駄にするなよ」
言葉を交わすアンドロイド警察の中に、鏑木撰が沈黙のまま暗闇に包まれた販売店を見つめる。
(お前たちは知らない・・・マリオネットは武器を持って我々の捜査に穿つ。力を持たない我々アンドロイド警察はサファイア=ファミリアとマリオネットの対戦を見届けるまでだ・・・)
全く言葉を発しない鏑木撰にA-岩男が話しかけた。
「鏑木さん、大人しいではないですか。何かありましたか?」
何かを怪しむ目で鏑木撰を見ていた。
(こいつ・・・。現場突入班のアンドロイドだろ・・・。俺に疑いを持っていないか・・・?)
鏑木撰は横目でA-岩男を見た。
「おい、アンドロイド。作戦通りに行けよ。マリオネットが盗みを働いた瞬間を差し押さえだ」
(差し押さえる前にサファイア=ファミリアが突入する・・・。何もしなくてよい・・・)
「私の名前はA-岩男だ」
アンドロイドを重んじる鏑木撰だが、A-岩男の態度に怒りを覚える。
普段はアンドロイドに対して、きちんと名前を呼ぶ鏑木撰だが、
部下であるA-岩男の怪訝を抑え込もうとする思いが言葉を悪くした。
・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
その頃、マリオネットは全軍を引き連れて東西南北全方向から走って販売店に向かっていた。
「これほどまで、堂々と大丈夫でしょうか・・・」
走りながら不安がる鮫沖に、真横で走るユミエが罵声を浴びせる。
「販売店の在庫には100体のアンドロイドが保管されている!!このミッションを成功すれば、マリオネットはさらに強力な組織となるのだ!!足を引っ張るなよ!鮫沖!!」
「は!・・はい!!」
(ダメだ・・・絶対に犠牲者がでる。真夜中とはいえ、ミッションが無事に終わるわけがない。真正面から販売店に突入するなんて・・・)
路肩を歩く通行人が、多くの集団で通り過ぎるマリオネットの姿を不思議そうに眺めた。
「何か催し物でもあったかしら。こんな真夜中に」
マリオネットは車内で身を潜めるアンドロイド警察に気づかず、自動車の真横を通り過ぎた。
「来たぞ!!マリオネットだ!!」
「待て!!操り人形の右手に機関銃が・・・」
ゆっくりと顔を上げて販売店の方を見た。
すると激しい銃声音と共に、窓ガラスが次々と割れる音が響いた。
ダダダダッ
ダダダダダダダダッ!!!!
「何だよ。あれは・・・銃を販売店に乱射しているではないか・・・」
衝撃な光景に、アンドロイド警察の隊員の頬には汗が垂れ流れた。
「マリオネットに立ち向かうなら乱射を受けてしまうぞ!」
木っ端微塵となった販売店の正面玄関から、マリオネットは集団をなして突入した。
中をあさっている姿が、自動車の中から確認できた。
しかし、誰も動こうとせず、アンドロイド警察の上官も指令を出すことができなかった。
(まだか・・・サファイア=ファミリアは・・・)
鏑木撰はサファイア=ファミリアの出現が遅いことに焦りだす。
しかし、マリオネットの強奪は留まることなく、ついには在庫のアンドロイドにスパイプラグを打ち付けていった。
新たな操り人形がゆっくりと足を進めて倉庫から表へと出てきた。
「私は操り人形・・・私は操り人形・・・」
「私は操り人形・・・私は操り人形・・・」
ユミエが操り人形となったアンドロイドを外まで誘導する。
「操り人形たち、今日から私の奴隷だ!外へ行け!!」
販売店の正面玄関から、大量のアンドロイドが出てきた。
それらのアンドロイドは足並みをそろえて前進する。
まるで軍隊のようだった。
そんな状況を目の当たりにしても、アンドロイド警察は黙ったまま頭を車内の下に引っ込めた。
「鏑木さん・・・指令はありませんか」
A-岩男は堂々と胸を張って指令を促す。
A-岩男は相手が何であろうと突入する体勢でいようと、ドアノブに手を添えた。
「お前の命を無駄にしない。A-岩男」
その言葉にA-岩男の目が泳いだ。
「私はアンドロイドです!」
「アンドロイドにも命があると言っているんだ。とにかくそのまま待機だ」
手を添えたドアノブを強く握り締めて真っ二つに割った。
何もできない怒りが湧いて出てきたような行動だった。
全てを強奪し終えたマリオネットは撤退し始めた。
「アジトに戻るわよ。10キロ先の車両にすべてを送り込むわ」
ユミエと鮫沖は100体ほどのアンドロイド全てに指令を送った。
そして最後尾ながら、ゆっくりと歩み始めたユミエに空中からα-真子姫が突然現れ、取り押さえる。
背中から羽交い絞めされたユミエは身体をもがいた。
「何!?」
「強奪お疲れ様ですわ。だけどあなたは捕まえました。堪忍しなさい」
α-真子姫の力は強く、ユミエは自力で離れることができなかった。
「お前はあの時のアンドロイド!!」
ユミエは横目でα-真子姫を睨んだ。




