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私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
3章~僕らの希望は+αにかかっている~
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27話『唇の感触を記録します。』

 スクランブル交差点での出来事が、α-桜小町にもメールで知らされた。


「なんですって!?」


突然の知らせに動揺する。

α-桜小町は鈴音と出歩いていた最中だった。

前を歩く鈴音に声を掛ける。


「大ちゃん、右近博士から知らせがあります。スクランブル交差点でマリオネットが大きな騒ぎを起こしたそうよ」


振り向きざまに鈴音は足を止めた。


「サファイア=ファミリアのメンバーは無事か?」


「α-ショコラと麗奈が偶然にも居合わせて戦いました。怪我無く5体のアンドロイドを救出とのことです」


大きく深呼吸をしてホッと一安心する。

ゆっくりとα-桜小町に歩み寄り、長くて細い髪の毛を触った。


「いきなり!何をするのですか!!」


足を一歩引いて、胸に手を当てる。

心臓の音が高鳴ることもないのに、驚く姿を見せるアンドロイドは不思議でならない。


そのような様子を見ても、鈴音は顔色一つ変えず、物申した。


「皆、無事だったから安心だろ?今日は二人きりで居たいから、博士のところは戻らなくていいだろ」


鈴音は真剣なまなざしでα-桜小町を凝視した。


「大ちゃん、いきなりどうされたのですか?二人きりって・・・私はアンドロイドなのよ」


「いいからついてきて」


鈴音が勢いよくα-桜小町の手を握った。

力強く握ってくる手は、硬くて暖かくてたくましかった。

見た目は細身で、力が無さそうな華奢な男であるのに、

手を握られた瞬間は、男らしい一面の印象をα-桜小町に植え付ける。


「大ちゃん、そんなに急がなくても!」


駆け足でどこに向かのだろうか。

サファイア=ファミリアの任務を後にして出歩くのは、

何か意味があってなのだろうか。


なんだか普段と違う様子であることは、α-桜小町もわかっていて、

それでいても何も言わずついていく・・・。


鈴音が足を止めると、横幅のある建物が目の前にそびえたっていた。

周りは人でいっぱいとなっており、入り口では列をなしている。


「ここは何をするところなのですか?」


α-桜小町は、はじめてきた場所に疑問を抱く。しかし、疑問を埋める間もなく、鈴音が列の最後尾にむかって連れていく。


ずっと手を握りしめたまま、列に並んだ。


「手を握るのは恥ずかしいですね」


「アンドロイドも恥ずかしいと思うのか?」

笑いながら鈴音がからかう。


α-桜小町は頬を膨らまして、お尻で鈴音の腰を小突く。


「私だって恥ずかしい。って言ってもいいじゃないですか」


「ごめん、ごめん」

苦笑いをしたまま、鈴音は優しく謝った。


そして列が進み、入り口付近まで来ると、ようやく鈴音がα-桜小町の疑問に答えた。


「ここはボーカロイドのライブ会場だよ。チケット持っていたから一緒に行きたくてね」


やっと謎が晴れて、α-桜小町は喜びの笑顔があふれ出る。



中に入ると、色とりどりのネオンライトが前後左右に揺らしながら辺りを照らしていた。

そのネオンライトに目を輝かせるα-桜小町はしばらく見惚れていた。


「ねぇα-桜小町ちゃん、僕たち明日死ぬかもしれないだろ?」


「えっ?」


いきなりの言葉に、周囲の雑音が一気にかき消され、鈴音の口元に視線が向く。


「僕は怖いんだよ。この当たり前の生活が無くなってしまうのが・・・」


話をする鈴音の顔は、何かに怯えているようだった。

それでも口を震わせながら、話を続ける。


「α-桜小町が生きながらえてくれるだけで、僕は嬉しい。どうせ人間は朽ちていく生き物だから・・・」


「そんなこと言わないで!!」


「同情は良いんだよ。もし死んだとしたら、君が僕の生きた証となるんだよ・・・。だから、ここで僕の大好きな曲を聴いてほしい。しっかりと記録して・・・」

すると頬から、ぽろぽろと雫がこぼれた。

鈴音が話している最中に涙をこぼしたのだ。


「大ちゃん・・・」


お互いが何も言えなくなった。

少しの間、沈黙が続いた。辺りは音楽が鳴り響きだす。


周囲の人も飛び跳ねたり、叫んだりと、会場が盛り上がりはじめた。

その中で鈴音とα-桜小町は無言のまま向き合っていた。


すると涙を拭い、目を閉じていた鈴音に体がそっと近づく。

そして鈴音の唇に、そっと柔らかい感触のものが触れた。


目を開けると唇と唇が重なり合っていた。

そのまま腕を背中までもっていき、抱き合った。


唇が離れると、α-桜小町は鈴音の耳元でそっと囁く。


「私は大ちゃんを忘れない。アンドロイドのために命を惜しまない。そんな大ちゃんが大好きだから・・・私は大ちゃんに生きてほしいの・・・。私も頑張るから・・・」



「ありがとう」


再び、今度は鈴音の方からキスをした。

交わりあう唇は、ネオンライトに照らされていた。


ボーカロイドの音が会場内に広がり、全体を音楽で包み込んだ。


「大ちゃんの好きな曲、忘れない。素敵な曲を忘れない」


鈴音の身体は温かい・・・。

その温かさで生きていることが確認できる。


「大ちゃんのあたたかい身体・・・これからもずっと・・・」


α-桜小町は、鈴音のありとあらゆるものを記録した。

そして思い出も、容量が鈴音で満たされるように・・・。


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