23話『家族のような存在です。』
「それではA-真子姫ちゃんの復旧作業に入ろうか」
菅原が固唾を飲んで見守る。
「断線個所は2か所。そこを繋ぐだけの作業さ。オレンジブラッドは流れ出ていない。運よく銃弾が外れたと思われる。まぁ説明はさておき、できれば皆には席を外していただきたいな。部屋の外で待っていてくれないか」
博士のその言葉に肩の荷が落ちた。いや力が抜けてしまって、うなだれる様だった。
A-権蔵が菅原の肩を担いで、運ぼうとする。
足を引きずるように、菅原は部屋から出ていった。
「菅原君大丈夫かしら。意外とナイーブな子なのね」
心無い言葉をこぼす麗奈にため息をつく。
「麗奈、俺たち仲間だぞ。同情ということを知らないのかよ」
「あんたに説教されたくないわ。死亡フラグ野郎」
相変わらず言葉がきつく、強情な女だ。
麗奈と鈴音はきつく睨み合う。
それを止めるかのようにA-ショコラが間に入る。
「やめましょう。麗奈様。鈴音君」
「あんたは黙ってて!私、こいつが気に入らないのよ。いつもなよなよしていて、私にだけ一丁前に説教するんだから!」
「二人ともこんな時にやめてください。仲間を大事にして」
A-桜小町も間に入るように二人に忠告する。
「あんたも気に入らないのよ。本当、ただのロボットって感じで、一定のテンションが腹立たしい!少しは人間らしいところを見せたらどうなの」
次第に言葉がきつくなる麗奈に、急に張り手が飛んだ。
ビシッ!!
「何するのよ!!」
頬を真っ赤にしながら麗奈がA-桜小町を睨みつけた。
「これは菅原さんとA-真子姫に変わって叩きました」
「もう、喧嘩は止めなさい」
A-ショコラの言葉でようやく場が落ち着く。
誰も願っていない喧嘩。しかし、落ち着いた状態でいられないのは皆同じだった。
アンドロイドもどうしたらよいかわからなくなっていた。
心のよりどころが無い僕たちにとって、
支えあわなければならない者同士だ。
喧嘩なんて・・・仲間割れなんて・・・絶対に起ってはならない。
扉が開くと、右近博士が白衣の裾で顔の汗を拭きながら出てきた。
「お待たせ、菅原君」
そして右近博士の後ろから、A-真子姫が飛び出してきた。
「菅原殿―!!!!!」
「まこちゃん!!!!」
二人は力強く抱き合った。
菅原がまた涙を流す。
「よかった・・・。直って本当によかった!」
「私もですわ。菅原殿―!私は何時間活動停止していたのかしら?」
「そうだな・・5時間くらいかな」
菅原が涙ながらに話した。
「ふぅ、A-真子姫ちゃん、元気になってよかったわね」
さっきまで酷い口調で物申していた麗奈が、嘘のように優しくなっていた。
(なんだよ・・・今まで僕にめちゃくちゃ言ってきたくせに・・・)
鈴音が麗奈をあっけらかんと眺める。
「大ちゃん、本当は麗奈さんも優しいのよ。誰だってアンドロイドが動かなることを望んでいない。おそらく彼女は、復旧作業が施されている間、気が気でなかったのよ」
「うーん」
説得するかのようにA-桜小町が鈴音に話をした。
鈴音の両肩に後ろから手を添え、小さな声で、優しい声で囁く彼女。
そんなA-桜小町に鈴音は頬を赤くして下を向いた。
(A-桜小町はアンドロイド・・・A-桜小町はアンドロイド・・・)
照れてしまった自分に、相手はアンドロイドであると心で訴えて理性を保つ。
そして横目で麗奈を見ながら、
本当は優しい人だなんてことも
A-桜小町に言い聞かされたことをそのまま受け止める。
彼女の良いところを見つけ出そうと決めた。
たとえ麗奈が何と言おうと、同じサファイア=ファミリアの仲間だからと・・・。
「みんな、お待たせしました。心配かけてごめんなさい」
A-真子姫が皆にお辞儀をする。
上体を起こした後の彼女の顔は笑顔だった。
皆がその顔を見て一斉に微笑む。
本当に良かったと仲間をたたえた。
「おかえりなさい」
A-ショコラのその言葉に感化して
麗奈が言った。
「何だか本当に私たち家族みたいね」
そして気持ちを切り替えるように、右近博士が白衣の襟を正す。
「さぁ、続けてアルファー型の改造を実行しよう。時間が無い。順番におこなう」
右近博士はA-真子姫の復旧作業を終えて間もなく、
アルファー型改造をおこなうという。かなりの長丁場となりそうだ。
「大丈夫ですか?右近博士・・・」
右近博士の身体を心配するA-ジョッシュだが、いつも研究をする時、
身体を捨てる思いの右近博士を止めることができなかった。
心配の言葉を吐きつつ、
助手として隣でサポートをすることに専念する。
「そうだな、今回は2体のアンドロイドをアルファー改造する」
首の骨を鳴らしながら、右近博士は2体のアンドロイドを指名した。
「A-桜小町ちゃんと、A-ショコラくん、私の研究室に来てくれ」
指名されなかったA-権蔵が不満を訴える。
「拙者ではないのか!忍者だぞ!!強いんだぞ!!」
呆れた顔の右近博士。
「A-権蔵くん、君の忍者はコスプレだ。心配しないで。君もちゃんとアルファー型にするから。今回は保留だ」
「ムムムッ!!」
納得がいかないようだ。
しかし、菅原の顔が衰えている様子を見ると、
自分を制御した。
「菅原殿、すまぬが今回は保留ということだ」
「焦るなよ、自分の体を大事にしろ」
菅原の説得で静まるA-権蔵だった。
アルファー型の改造がこれから始まる・・・。




