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私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
1章~普遍的共存の中に私たちがいる~
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2話『手の甲の光がアンドロイドの証』

 「どうも、A-勅使河原です。アンドロイドと人間は、見た目から印象まで極めて類似しております。そのため、見極めることが困難であります。それが厄介となるケースもある思います。

しかし、アンドロイドと人間は全く別の存在です。

その別々な存在を、見ただけで分かるようにと国から指令を受けたのも、

隠せない事実であります。


要はアンドロイドと人間をしっかり区別し、生活の中で共存したい。という人間の意見により、

私たちアンドロイドは見た目で分かるようにしました。


皆さん、アンドロイドの手を見てください。


アンドロイドの手の甲には、薄青い光を放っています。

形はひし形で、人間がパッと見てわかるように

LEDの光が目立つように備わっております。


これはアンドロイドと人間を見極めるだけが目的ではありません。


この光こそが私たちの活動期間を表しております。


光が点滅すると残り40時間ほどで活動停止になる信号となります。

そうなれば、お客様はアンドロイドに各販売店に行くよう指示をするか、

販売店に持っていただくことで、充電が可能になります。


どうかお見知りおきを・・・」



販売店のA-勅使河原に電話で説明を聞く重次郎。

頷きながらA-桜小町を見ていた。


「お前さん、手の甲を見せてくれないか?」


ゆっくりと手の甲を挙げると

淡く青い光が出ている。


「なるほど、これがひし形の光じゃのう。ふむふむ」


説明を聞いて納得をする爺さん。

受話器を降ろし、自分の手で肩をもむ。

電話の応対も重労働だったのか。


「ふぅ、疲れたのう。A-桜小町ちゃん、肩もみマッサージを頼みたいのじゃが」


「かしこまりました」


重次郎はソファに深く座った。

「痛いし、しんどい。最初は優しく頼むぞ」


A-桜小町がソファの後ろに回ってゆっくりと手を肩に置く。

そして優しく肩をもむ。その動きはしなやかで、人間の手の動きと何ら変わりなかった。


「本当に器用な動きをするもんじゃ。しかも手の感触も人間に近いの」


しかしながら肩もみまでするアンドロイドに関心する。

アンドロイドを買ったのは初めてで、初めて見る人間にとっては

驚きを隠しきれない。


街中を歩くアンドロイドを横目で見ても、細部まで目を向けることは無い。

あまりにも人間に近いため、ジロジロ見るのも可笑しい仕草になってしまう。

そのため、人間は干渉しようとは思わない。


だからこそ購入して仕えさせてわかることは非常に多いのだ。


人間にとってアンドロイドは信頼を寄せる存在だ。

全ての人間がそう言えるわけではないが、

購入した商品は、テレビもスマートフォンも同じく、

当たり前の感覚で肌身の側に存在しているのだから。


アンドロイドも当たり前のように

用いられているのだ。


時間が立つと重次郎は目を閉じた。

あまりの気持ちよさに眠ってしまった。


マッサージもできてしまうほど、アンドロイドのA-桜小町は繊細な動きをする。

納得のいく機能とも言えよう。


しばらくマッサージを続けていたが、

いびきをかくほど深い眠りについたのを確認すると、

マッサージの手を止めた。


「おやすみなさい」

その言葉は耳障りにならないほど優しく囁かれた。


A-桜小町は澄んだ瞳で重次郎の顔を見る。

ゆっくりとソファを離れてテーブルの近くに正座した。


手の甲はひし形に光を放っていた。


その光は目を近づけると眩しいだろう。

日没に向けて時間は進み、部屋は薄暗くなっていった。

ひし形の光だけ目立つように輝きを放つ。まるでイルミネーションの光のように。


またA-桜小町はゆっくりと立ち上がり部屋の照明を点けた。

夕食を作り始める時間になったのだ。


「ん~おはようさん。A-桜小町ちゃん、わしはどれくらい寝ていたのかのう」


内蔵時計を基に計算する。


「重次郎さんが寝ていた時間は3時間21分です」


「そうか、気持ちよく寝てしまったわい。のんびりとした生活も悪くないな」


大きく背伸びをすると背中の骨の音が鳴る。

「うー!気持ちよい気持ちよい」


「今日の夕食は何かの?」


「魚の煮つけ、お味噌汁、グリーンサラダ、納豆、ご飯になります」


「最高じゃ」


納得のメニューだった。

何のリクエストもしていない。

好きな食べ物、嫌いな食べ物を公言していない。

つまり正統的なメニューをそろえたことに、

重次郎は文句がなかったのだろう。


「そうじゃ、A-桜小町ちゃん。明日はわしの孫である鈴音大地が家に来るんじゃ。

鈴音大地はまだ学生で、これからわしの家から学校に通うと言ってのう。

すまないが、わしは歳だからお前さんが面倒見てやってくれないか」


「鈴音大地さんですね。会えることを楽しみにしています」


「あいつはわしと似つかず、うるさいやつじゃ。話し相手にもなってあげてほしい」


意外と重次郎もよく喋る。

重次郎がよく喋ると言ったら、重次郎よりも喋る人間と認識することになる。


なんだか、重次郎は購入当初と違ってA-桜小町を気に入り、都合の良い話し相手になっている。


鈴音大地も良き同居人となるのだろうか。

いずれもこれからの生活を楽しみにしている重次郎は立ち上がって

窓の外を眺めるのであった。


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